逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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四章

★34・金がなくなった勇者ご一行

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 城から追い出されたエリオット達。
 猶予は与えてもらったが、すぐにでも王都から出て行かなければならない。

「どうして僕がこんな目に遭わないといけないんだ! あいつ等、いつか皆殺しにしてやる!」

 エリオットはそんなことを叫びながら、憤怒している。

 だが、頭の中では疑問が渦巻いていた。

 どうしてこうなった?
 どこでおかしくなった?
 アルフを追放してからか?
 いや、それとももう少し前か?

 グルグルと回って、頭がおかしくなりそうだ。

「エリオット君……今からどうするの?」

 魔法使いのフェリシーが、心配そうな目でエリオットを見上げた。

「……とにかく王都から出て行かなければならないだろう。馬車を探そう」
「でも馬車があったとしても、それに乗るお金ないよね? 今まで贅沢三昧してきたから、お金も底を尽きたよね?」
「それは……」

 フェリシーの言う通り、エリオットは魔王を倒してから王都で贅沢の限りを尽くしてきた。
 この世のものとは思えないくらい美味な料理をむさぼり、街に繰り出しては内緒で女を買い。
 一夜で十人の女を相手したこともある。

 だが、そんなことをしていたら、すぐにお金はなくなった。
 魔王を倒した報酬金をたらふくもらっていたのに、だ。

(でも……そんなことは問題ないと思ってたんだ……)

 エリオットは歯軋りする。

 例え金がなくなっても、王様から貰えばよかったのだ。
 国民の税金をだ。

 税金をエリオットは湯水のごとく使い、贅沢を続けた。
 しかし……王都からの追放をくらった今となっては、そんなことも出来るはずがない。

 だったら。

「フェリシー、大丈夫だ。僕に考えがある」
「えっ、本当っ?」

 フェリシーが目を輝かせた。
 そんな目を向けられたのは、久しぶりかもしれない。
 エリオットは人差し指を上げて、こう続けた。

「聖剣を売ろう」

 ◆ ◆

「本当に聖剣売っちゃったね……」

 フェリシーが名残惜しそうに振り返り、武器屋に視線を向けていた。

「仕方ないさ。なんだかこの聖剣、力がなくなっちゃって使えなくなっちゃたんだからね」
「……力がなくなったのはエリオット君の方じゃない?」
「あ?」
「なんでもない!」

 フェリシーは早足になって、エリオットを追い越した。
 そんな彼女の背中を見て、エリオットは一人溜息を吐く。

(堕ちるところまで堕ちたかもしれないな)

 自嘲じちょうする。

 そうなのだ。
 金がないエリオットは聖剣をそこらへんの武器屋で売り払ったのだ。
 この聖剣というのは大精霊に力を認めてもらい、やっとのこさ手に入れたものであった。
 その力は凄まじく、魔王を一発で粉砕することも可能だった。

 しかし……エリオットがおかしくなってから、何故だか聖剣が重く感じてろくに持つことが出来なくなったのだ。

(だから別にいいんだ。の僕には使えないものだったから……)

 白金貨一枚を握りしめて、エリオットは自分にそう言い聞かせる。

 もっと高い値段がつくと思っていたが、足下を見られてしまった。
 聖剣なんだし白金貨百枚はくだらないものだろう。
 しかし金のないエリオット達には「売らない」という選択肢が、残されていなかった。

「さて……馬車を探す前に」

 フェリシーから視線を外して、二人のおかしくなった女を見る。

「あはははは! お金がいーっぱい手に入ったのですわ! エリオット様、その白金貨でパーッと使いましょう!」
「エリオット? それは私達の新婚旅行の費用だよな? もしくは婚約指輪を買ってくれるのか? ははは、やっぱりエリオットは世界で一番優しい! ひゃひゃひゃ」

 マルレーネとサラだ。
 相変わらず現実から逃げているようなことしか言っていない。

「……こいつ等を置いていこうか」

 今まで利用価値があると思っていたから、アルフみたいに追放しなかった。

 だが、マルレーネもサラもダメだ。
 マルレーネは回復魔法を使えなくなり、顔もオークみたいになっている。
 サラも似たようなものだ。

「エリオット君。私、賛成だよ! こんな役立たず、王都に捨てていこうよ!」

 フェリシーがぴょんぴょんと小さく跳ねて、彼に賛同する。

 そうだ。
 王都に破棄。
 それが一番賢い選択だろう。

 だが……。

「や、やっぱりダメだ! もしかしたら、二人ともまた力が戻るかもしれない!」

 マルレーネの回復魔法も、サラの華麗な剣技も貴重だ。

 もしかしたら元に戻るのでは?
 そういう淡い希望を捨てきれずにエリオットはいた。

「そう……」

 フェリシーは落胆したように肩を落とす。

「フェリシー、僕の決定になにか文句でも?」
「そんなことないよ。いつだってエリオット君は正しかったからね」

 フェリシーはそうは口で言うものの、どこか冷めたような印象を抱かせた。

(そうだ……自分はまた這い上がれるはずなんだ)

 力が元に戻れば、また王都に戻ってきて力を示せばいい。
 自分にはそれが出来る力がある。
 そして今までもそうしてきたのだ。
 逆にそういうやり方しか、エリオットは知らなかった。

「とにかく……みんなで王都から出て行くぞ。行き先は……そうだな。近くにまあまあ大規模な街がある。そこでしばらく静かに暮らしていこう」
「分かりましたわ!」
「そこが私達の新居だな!」
「…………」

 マルレーネとサラは胸を弾ませている一方、フェリシーだけが暗い顔をしていた。

「……チッ」

 それがいちいち気に障って、エリオットは無意識のうちに舌打ちをしてしまう。

 だが、我慢だ。
 今のところまともなのはフェリシーだけなのだ。
 彼女を手放すことは有り得ない。

「早く馬車に乗ろうか。おっ、あれに乗ろう」

 王都の出口まで言ったら、一台の馬車が止まっていた。
 見るからにボロボロで、あまり上質なものではないらしい。
 しかし背に腹は代えてられない。
 早く王都から離れたいのだ。

 エリオット達は馬車に近付き、

「おい。これで近くの街まで送ってくれ。早くしろ」

 と尊大な態度で銀貨を掲げる。

 それに対して、馬車の御者は振り返る。

「……お前はエリオットか」

 エリオットを見た瞬間、御者は顔を歪ませた。

「ああ? お前、僕に対してどんな口を利いてるんだ?」
「それはこっちの台詞だ。お前等は詐欺師って聞いたぞ!」
「なにがだ……?」

 エリオットは怪訝そうな顔を見せる。
 御者は弾劾だんがいするような口調で続けた。

「本当は弱いくせに俺達を騙してたんだろうが!」
「そ、そんなこと、誰が言ってるんだっ?」
「王様からのお達しだ! 本当はお前等なんて乗せたくないんだが、今回だけは特別だ。さっさと王都から出て行って欲しいからな!」
「お、お前……! 痛っ!」

 御者に殴りかかろうとしたら、エリオットの顔に石が当たって思わずよろけてしまう。


「どこかに行け……」
「お前等に渡す税金なんてない」
「もう王都に足を踏み入れるな」


 周囲を見渡すと、王都の住民達が石を持ってエリオット達を睨んでいた。
 今のエリオットには、そんな道ばたの小石も凶悪な武器のように見えた。

(クッ……!)

 悔しさにエリオットは拳を握る。

 まあ良い。
 こんなところ、僕の方こそ願い下げだ!

不遜ふそんな言葉遣いは許してやる。とにかく馬車を出せ。銀貨一枚も出せば十分だろう?」

 エリオットが銀貨を差し出すと、御者は「ふんっ」とバカにしたように笑った。

「足りるわけないだろうが。白金貨一枚。少なくてもそれだけは必要だ」
「白金貨一枚だと? 横暴だ。たかだか五日くらいの旅費のために、金貨一枚は渡せないな」

 ちなみに白金貨一枚もあれば、四人家族が一年は優に暮らしていけるだろう。

「嫌だったら他の馬車をあたりな。もっとも……みんな似たようなことを言うと思うがなあ?」
「き、貴様……」
「こっちを、税金を無駄に使ったことも知ってるんだ! 今まで俺達の金で贅沢してきたツケだ! 反省しろ!」

 御者の物言いに腹が立ち、エリオットは殴りかかろうとしたが、

「ダメだよ、エリオット君! こらえてこらえて! こんなところで暴力なんて振るったら、牢屋に閉じ込められちゃうよ! 王都から出て行ったら、少しはマシになると思うから……ね」

 とフェリシーに肩をつかまれて、寸前のところで止められた。

「クッ……こ、今回だけだからな! 次、会った時は叩きのめしてやる!」
「やれるもんならやってみろ。もっとも、石が当たっただけでふらついていたお前に負ける気しないんだがな?」

 ニヤリと馬車は口角を釣り上げた。

 逃げるようにして、エリオット達は馬車に乗り込む。

(まるで夜逃げみたいだ……)

 出発すると、馬車の振動ですぐにお尻が痛くなった。
 今から五日間、こんなところにいると思ったら気がおかしくなってしまいそうであった。
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