逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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四章

32・魔族と復讐をぶつけ合う

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《アルフ視点》


 生まれ故郷のチェールズにて。
 子ども達が目を輝かせながら、俺のところに寄ってきた。

「ねえねえ、アルフ。魔王を倒した時の話聞かせて-よ」
「やっぱりアルフ、カッコ良かった? フェリシーお姉ちゃんはどうだった?」
「なんか面白い話してー」

 子どもは無邪気だ。
 俺が勇者パーティーの『雑用係』だったことは、さすがにここ辺境の地までは知れ渡っていないみたいだった。

「そうだな……魔王か。魔王は勇者が一発で倒したんだよ」
「えー! アルフはー」
「俺は……俺はなにもしなかった」
「アルフ弱っちいじゃーん」
「ハハハ! そうだな、俺は弱い。でもの勇者はもっと弱いぞ」
「勇者も弱いのー?」
「ああ、弱い」
「ふーん。じゃあ魔王も弱いんだ!」
「そういうことかもしれんな」

 聡明な子だ。
 俺は子ども達の頭をわしゃわしゃ撫でてやる。

「むーっ。アルフ、わたしもわたしも」

 そうこうしてたら、イーディスも頭を突き出してきた。
 彼女もわしゃわしゃ撫でてやった。

「アルフの手、おっきくて気持ちいい」
「そうか?」

 はじめて言われたかもしれない。
 ただ手が大きくても、なんの役に立つんだという話だが。
 フェリシーと手を繋ぐことも出来ない。大切ななにかを掴むことも出来ない。
 だから俺は【みんな俺より弱くなる】を使って、みんな奪うことにした。

「ククク……俺はなに感傷に浸ってるんだ? チェールズに来て、郷愁に心奪われたってことなのか」
「アルフー?」

 独り言を呟いていると、子ども達が目を丸くしていた。

「ああ、ごめんごめん」

 と俺は謝るのであった。



 そしてチェールズ近くの森に、俺とイーディスは訪れていた。

「アルフ? なにする?」
「薬草でも摘もうかな、と思って」
「薬草?」
「ああ。折角村に戻ってきたんだ。ただ食っちゃ寝してるだけじゃ、申し訳ないだろ?」

 少しでも村の役に立てれば。
 だからといって、そんなに強いモンスターも出ないので、薬草でも摘んで少しでも村の財政の足しに……。

「「——っ!」」

 瞬間、イーディスの耳がぴーんと立った。

「アルフ」
「ああ。やっぱりイーディスも感じたか」

 空気がピリピリ張り詰めるような。
 そんな感覚を受けた。

 パーティーから虐げられた経験もあって、相手の敵意や殺意に体が敏感になってしまう。
 その結果、俺は遠くにモンスターがいる場合でも、瞬時に察知することが出来る。
 もっとも、本職の鑑定スキルとか持っているヤツに比べれば、数段落ちるが。

「アルフ。行ってみよ」

 厄介事はごめんだ。
 ただこの『脅威』が村の方に行ってしまわないとも限らない。

 俺達は気配がする方向へと足を進めた。

 すると……。


「お前タチはダレだ。ニンゲンとケモノか」


 人型ではあるが、頭から角を生やした異形がそこにはいた。

「お前から名乗れ」
「フンッ。エラソウな人間ダ。仕方ない。冥土の土産ニ聞かせてやる。ワレはルコシエル。魔族公爵の位ヲモッテイル」
「魔族だと?」

 異形——ルコシエルの周りには、黒いオーラが漂っているようにも見えた。

 魔族というのはモンスターの中でも数段強い存在、と思ってもらえればいい。
 魔王軍の幹部をしている者も多く、その一体で大都市一個くらいは簡単に滅んでしまうのだ。
 魔王が死んでからも、一斉にモンスター達がいなくなるわけではない。
 だからこそ、残党のような魔族がいるのだ。

「魔族がなにをしにきた」
「ソレをお前に説明するギムがワレに? そんなことよりも、お前も名乗レ。お前は何者ダ」
「俺の質問に答えろ」
「フンッ。生意気なヤツだ。ワレがここに来たのはな……」

 魔族の体から魔力が迸る。


「魔王様を倒した人間に、復讐スルタメだ!」


 そのまま強力な魔法を使おうとした。
 だが、使おうとしただけで、ルコシエルからはなんら一切の魔法が発動したりはしない。

「……! ドウイウことだ!」
「お前、もう俺には勝てないよ」

 俺はルコシエルのところまで近づき、顔面を思い切り殴る。

「グオッ!」
「村に危害を及ぼそうとするヤツは全員敵。俺とイーディスに危害がくわわりそうな時は、容赦なくぶっ倒す」

 俺はそのまま護身用のために持ってきた剣で、ルコシエルを斬りつけた。
 いくら魔族だろうが、目が合った瞬間に【みんな俺より弱くなる】を発動してしまっているのだ。

「グギャアアアアアア!」

 右手を切断すると、ルコシエルから断末魔の叫びが発せられた。
 俺はそのまま容赦なく、他の手足も斬りつけまともに動けなくした。

「ドウイウ事だ……ワレの力が、封じられてイルのか?」

 四肢がなくなったルコシエルは、体中から血を出している。

 ああ、そうだ——。
 俺には辺境の地に戻ってきてスローライフ、なんてものは似合わない。
 そしてそんなものは俺も望んでいない。

 この血を見て、甘ったれた心に喝が入ったような気がした。

「お前、感謝するよ。俺に血の味を思い出させてくれて」
「ナニを言ってるのダ、貴様は。ソシテ……お前は何者ダ?」
「最後に聞かせてやる。俺はアルフだ」

 こいつも魔王を倒した人間に復讐をする、と言っていた。

 しかし俺等も勇者パーティーのヤツ等に復讐を完遂させなければならないのだ。
 復讐と復讐。より濃い復讐が生き残るべきだ。
 そして俺の復讐はどこまでも濃い黒。周囲のものをどん底に堕とすような漆黒だ。

 俺はそのままルコシエルの首を切りつけた。
 復讐対象なら、この状態ではりつけにでもくくりつけて、一生の苦しみをプレゼントするのだが、魔族にそこまでしなくてもいいだろう。

「アルフ。なんか嬉しそうな顔してる」
「ん? そうか?」

 血で濡れた右手で、俺はイーディスの頭を撫でてやった。
 イーディスも血が好きだったのか、いつも以上に嬉しそうな顔をしていた。

 さあ——フェリシー。
 エリオット、マルレーネにサラ。お前以外はみんな弱くなった。

 そんなクソみたいなパーティーで、今頃なにを思っている?

 そしてパーティーから逃げて、ここチェールズに戻ってこい。

 そこで——きっちり血の復讐を遂行してやるよ。
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