逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

文字の大きさ
上 下
24 / 43
三章

24・地獄のパレード

しおりを挟む
 それから俺は何回かサラをクエストに連れて行った。

「ぐあああああああ! 痛い痛い! アルフ……助けてくれぇ……」
「嫌なこった」

 スライムやゴブリンといったモンスターに痛めつけられ、サラが涙を流している
 そこには誇り高き女戦士サラの姿は最早なかった。

「ふんっ」

 スライムごときならスキルを使わなくても勝てるだろう。

 だが、集団になったゴブリンは少々手が余る。
 一体だけならともかく、集団となったゴブリンが出てきた時は【みんな俺より弱くする】を使い駆逐していった。

「はあっ、はあっ……ありがとう。助けてくれた……んだよな?」
「はあ? 変なこと言うな、このクズが」
「痛い痛い痛い! 殴るのは……もう、止めてくれ……」

 モンスターに痛めつけられ、俺に殴られたり斬られたりしているサラは無傷なところを探す方が大変であった。

「助けたんじゃねえよ。ただ——こーんな生ぬるいものでは死なせない。もっともーっとサラには底辺を味わってもらわないとな」

 唾がかかるくらい、サラの顔に近付いて吐き捨てた。

「許して……くれ……」

 サラが声を絞り出す。

「今までのことは全て……謝る。だから許して……くれ……。言うことならなんでも聞くからぁ……」
「うーん」

 ポロポロと両目から大粒の涙をこぼすサラ。

 パーティーにいる頃は気丈だったサラ。
 涙一つこぼさず、剣を振るっていたサラ。
 夜は勇者エリオット達と一緒に、暴虐の限りを尽くしていたサラ。
 そんな彼女が涙を流しながら、許しを請うているのだ。

 だから俺は——。

「ハハハ! 許すわわけないだろうが!」

 回し蹴りをサラにくらわせる。
 骨が折れるような変な音が聞こえた。

「…………」
「おい、起きろ」

 パンパンと平手でサラを叩く。

 脈を取る。
 うん、死んでない。
 ちゃんと死なないように手加減したんだから、死んだふりは止めろよ。

「おい、聞こえてるだろ? 返事しないと、もっともーっと殴っちゃうかもしれないなあ?」
「う……あ……」
「よし。死んでないみたいだな。今まで俺が『許してくれ』と言っても、許してくれたことあったか? なかったよな」
「それに……ついても……あ、や、まる……」
「だからいくら謝っても許さないって。それにまだまだ復讐は続くぞ」

 こんなもんで終わりになると思っているとは。
 サラも甘い。

「よし。パレードをしようか」
「パレード……?」

 わずかにサラが視線を俺に向ける。

「ああ。だってお前が街に来た時、あんだけ華やかなにお出迎えしてもらったもんなあ」

 まあ俺が石を投げたから、途中でなくなったけど。

「それ悪いって思ってさあ。だからあの時の続きだ。みんなから見られて、良い気分になりたいんだろう?」
「……パレード……パレード。英雄サラ……」

 サラは虚ろな目をして、そう何度か呟いていた。

「パレードパレード。楽しいパレード」
「イーディスもそう思うか?」

 そうだ、楽しいパレードだ。
 こいつと一緒にストローツの街中を、気持ちよく歩こうではないか!

 ◆ ◆

 そう、私はこの街の英雄だ。

 勇者エリオットに一目つけられた時、こんな田舎町からさっさと抜け出した。

 私はこんなところで終わる人間じゃない。
 成功して、勝ち組になって、みんなにちやほやしてもらえるような人生。
 この街で人生を過ごす負け組な友達がいたら『王都にはもっと人と物で溢れている』と上から目線で言いたい。

 そして私は成し遂げた。
 魔王を倒したのだ。
 王都ではこれ以上ない賞賛を受けた。

 しかし——それだけでは満足出来ないのだ。

 成功して、この街に戻ってくる。
 みんなみんな私を羨ましがって、指をくわえながら見ている。
 賞賛の言葉をかけられながら、私は気持ちよく大通りを歩くのだ。

 そう、私はこの街の英雄。
 すごいねすごいね、と声をかけられる真の勝ち組だ。

 ◆ ◆

「お前! 今まで騙してたんだな!」
「ふざけるな! この愛人枠め!」
「偉そうにしやがって! メッチャ弱いじゃないか!」

 大通りを歩くサラに罵声が投げかけられる。

「ひっ……うっ、止めてくれぇ……」

 その中をサラは背中を丸めて、恐る恐る歩いていた。

「このっ!」
「うわあああああああ!」

 両脇の人達からは石を投げられる。
 ただの石投げであるが、極端に弱くなってしまっているサラにとっては一つ一つに激痛が走るだろう。

 右に吹っ飛ばされそうになったら、左から石が飛んできて。
 反対に左からだったら右。
 サラの体が血で汚れていく。

「ハハハ! どうだ! パレードは楽しいか!」
「楽しい楽しい。アルフ、最高」

 俺は高笑いを上げた。
 イーディスはどこか愉快そうだ。



 もちろん、これだけ人を集めて「サラを断罪するパレードを開催しよう!」と街の人達に声をかけたのは、俺である。

「サラってメチャクチャ弱いんじゃ……」
「それに子どもに手を上げようとしたと言ってたじゃないか」
「オレは最初からサラのことが気に入らなかったんだ」
「アルフさんの言ってることが本当なら、サラはオレ達のことを騙して悦に浸っていたに違いない」

 そんな声が街の至る所から囁かれるようになった。
 最初の頃と比べて、評価が逆転してしまっているのだ。

 俺は毒液を一滴垂らしただけ。
 弱くなったとしても、もしサラが謙虚な性格だったら、ここまで毒が回らなかったかもしれない。

「なあ——みんな」

 毒が完全に回ったのを見計らって。
 俺はパレードの計画を打ち明けた。



 ……そして現在だ。
 サラが想像していた賞賛を投げかけられるパレードではなく、石や罵声を投げかけられる地獄のパレード。

「クッ……痛い……」

 サラがとうとううずくまってしまった。

「おいおい! ちゃんと大通りくらいは歩けよ! まだ半分しか歩いてないじゃないか! みんなに失礼だろ!」

 とサラの腕を持って、俺は無理矢理立たせた。

「もう限界だ……このままじゃ、死んでしまう」
「大丈夫」

 俺はニイと笑い、

「死ぬギリギリのところまでで調整してやるから」
「ああ……」

 がっくしとサラが肩を落とす。
 死ねなくても死ねない、底辺生活をサラにプレゼントだ。

「サラに比べて……アルフ様は素晴らしい!」
「モンスターから子どもも救って!」
「しかも色々なクエストを完璧にこなしてくれる! まさに街の英雄だ!」
「アルフ様抱いて!」

 サラが罵倒される一方、俺は街の人々から賞賛を受けていた。

「どうして……? アルフが?」
「決まっている。評価が逆転したんだよ」
「その賞賛は……私がもらうはずだったのに……」
「ハハハ! 残念だな。お前のその評価、ぜーんぶ俺がもらっちゃったから」

 とはいっても、すぐにこうやって評価や態度を変えるここの住民は根本的にはエリオット達と同じかもしれない。
 非常に醜悪。
 まあ、今回はその醜悪さを利用させてもらったわけだが。

 そんなことを思いながら、サラの方を見ると、

「うう……私の……私の勝ち組人生が……一瞬でパーに」
「泣くなよ。みっともない」
「あああああああ!」

 まるでモンスターのように泣きわめくサラ。
 そんな彼女に向かって、ひたすら罵声が浴びせられていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

処理中です...