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二章
12・美しい聖女様はいなくなりました
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「悪魔審判……? どういうつもりですか?」
マルレーネは恐る恐るといった感じで質問した。
「そのままの意味だ。お前の中に悪魔が取り憑いてるかもしれない。それが本当なのか嘘なのか……今から見極めたいと思うんだ」
「なにを言っているんですか! わたくしに悪魔なんか取り憑いていませんわ!」
胸に手を当て、そう否定するマルレーネ。
しかし俺にとってはエリオット(のお金や地位)に心酔しているマルレーネは、悪魔にしか見えなかった。
「悪魔審判なんか、わたくし認めません! 即刻、わたくしと神官達をここから出しなさい!」
「それは今から俺が決めることだ」
「あながっ? あなたのような輩に決定権などござい——な、なにをするのですか!」
マルレーネの両肩を持って、無理矢理近くの椅子に座らせた。
しっかりとした鉄製の椅子である。
今までここに被害者を座らせ、何日にも渡って暴行してきた。
随分と血が染み込んでいるんだろうなあ。
「こ、こんな汚らわしいものに、どうしてわたくしが座らなければならないのですかっ?」
「あっ、そうだ。今から悪魔審判をするって言ったけど、抵抗してくれてもいいよ。それはお前の自由だから」
「言われなくてもいたしま——か、体が動きませんわ!」
マルレーネは椅子に座ったまま、足をバタバタと動かした。
体が動かないんじゃない。
俺がマルレーネを椅子に押さえて、動かなくしているだけだ。
もっとも。
「お前、力ないんだな。俺、人差し指しか使ってないぜ?」
俺は人差し指でマルレーネの額を押さえているだけである。
それだけで動かなくなるとは……全く、情けないことだ。
「離しなさい! クッ……どうして、このような男に取り押さえられなければならないのですか!」
「よし、このまま悪魔審判をはじめるぞ。イーディスもよく見といてくれよ」
「分かった」
マルレーネがなにやら叫いていたが、無視して悪魔審判をはじめることにした。
「汝に問う。汝は悪魔か?」
「悪魔じゃありませんっ! そんなの当たり前じゃないですか!」
凜とした表情でマルレーネが口にする。
改めて見ると、本当に整った顔だ。
マルレーネは自分が美しいことを分かっているし、それに自信を持っている。
昔からそうやって男を誑かして、良い思いもしてきたんだろう。
その美しさに目を奪われた一人が、勇者エリオットだしな。
そんなことを考えている腹が立ってきたので、取りあえず顔を一発殴っておいた。
「ふんぐっ!」
マルレーネから聞いたことのないような声が聞こえた。
「悪魔はいつもそう言うんだ。殴ってたら、いつかボロを出してくれるかな?」
「あ、あなたは狂っていますわ……こんなことをするなんて」
「狂っているのはお前の方だよ」
そう言って、もう一発顔面に拳をお見舞いする。
血と涎が飛んだ。
「顔は……顔は止めなさい! こんのっ——」
魔法が封じられたマルレーネは、間抜けにも俺の頬にビンタをかましてきた。
だが……。
「おいおい、いくら女でも力なさすぎだぞ。よちよち~、今から俺が遊んであげまちゅね~」
「触れるな! あなたのような汚物がわたくしに触れるのでありません!」
左手でマルレーネの平手を止め、右手で頭を撫でてあげる。
すると悔しさのあまりマルレーネの顔が歪んだ。
驚いた。
あまりにもマルレーネの力が弱かったからだ。
赤ん坊が叩いてきた、と思ってしまったぞ。
「さあ、悪魔審判の続きをはじめよう」
「…………」
「汝に問う。汝は悪魔か?」
「…………」
「ふんっ」
今度は喋らなくなったので、マルレーネの顔をまた殴った。
「黙っているということは、悪魔ってことを認めるんだな」
「許しません……このような非道。絶対に許しませんっ」
「反抗的な態度だな。よし、悪魔が体が出てくるまで殴ってあげよう」
「か、顔はお止めなさい! 顔だけは!」
「うるせえ」
執拗にマルレーネの顔だけを殴り続けた。
マルレーネは抵抗しようと手を伸ばそうとしてくるが、まるで俺は赤ん坊をあやすかのように、それを払いのけた。
マルレーネのキレイな顔がだんだん変形していく。
そうだ。顔といえば昔こういうことがあった。
勇者パーティーにいる頃。
エリオット達の雑用係として働いていた時だ。
「鏡……鏡を持ってきなさい。アルフ」
と椅子に足を組んで、マルレーネは言った。
「鏡……すいません。宿屋に忘れてきました」
マルレーネの言っているものは、手鏡であろう。
普段持ち歩いているが、たまたま忘れてしまった。
それを聞いて、マルレーネは髪を逆立たせて、
「この無能がっ! 地に沈みなさい!」
平手で俺の頬を叩いて、背中をげしげしと踏み出したのだ。
しかもこの時、マルレーネの履いていたのはハイヒール。
「っ!」
形容出来ないような痛みが体に襲った。
「どうしたんだい?」
「あら、エリオット様。アルフがわたくしの手鏡を忘れてきまして……」
「なにっ! 貴様、なにを考えているんだ! 手鏡がなかったら、マルレーネが髪をセット出来ないじゃないか! 化粧を整えることも出来ない!」
言っておくが、今ここはダンジョンの中だ。
見た目なんかその次。モンスターの討伐こそ気にすべき事項だったのだ。
だが……マルレーネはエリオットの背中に隠れて、邪悪な笑みを作っていた。
「お仕置きしてください、エリオット様! この愚かで汚い男に!」
「ああ、任せておけ」
ニヤリと二人の口角が吊り上がった。
その後、地獄の『お仕置き』が続いたのは言うまでもない。
「おっ、なかなか美人になってきたじゃないか!」
そして今!
マルレーネがなによりも大切にしていた美貌が失われようとしている!
「許しません……絶対にあなただけは……」
顔をボコボコにしたマルレーネが、辛うじて声を絞り出した。
俺はマルレーネがなにを言おうと、なにをしてこようと、顔だけをひたすら攻撃し続けた。
そのおかげで、今のマルレーネはオークのように腫れ上がっていた。
「ああ、マルレーネ様が……」
「なんという罰当たりな……マルレーネ様の美しさが……」
マルレーネのファンも多かったんだろう。
神官共が悲しそうな声を出した。
「そうだ。昔、ダンジョン出掛けた時手鏡忘れたことあったよな?」
「そんなことありましたっけ……?」
俺となっては地獄のことであっても、こいつ等にとってはなんとも思ってなかったんだろう。
そう考えるとさらに腹が立ってきた。
「あの時は悪かったな。ほら、手鏡だ。髪をセットしてくれてもいいし、化粧を整えてくれてもいいぞ」
審判室の中にあった所々血で汚れた手鏡を、マルレーネの前に差し出す。
拷問のためだろうか。
審判室の中には色々な道具があって、非常に有り難かった。
「お、お止めなさい……っ! こんな顔見たくない!」
「まあまあ。遠慮するなよ」
顔を背けようとしてきたので、マルレーネの後ろから無理矢理瞼を開かせてやった。
「イーディス、その手鏡持ってくれ」
「うん、分かった」
「キャァァアアアアアアア!」
マルレーネが鏡を見て、絶叫する。
「これがわたくし……? わたくしのキレイな顔……?」
「ああ、お前の顔だ。良かったな。もっと美人になったぞ」
「見たくない! こんな顔、見たくない!」
マルレーネは最後の力を振り絞って逃げようとするが、俺は手を離してやらなかった。
「さて。悪魔審判の続きをやろうか」
「まだ……おやりになるつもりですか?」
当たり前だ。
そうだ……。
「しかし俺も鬼じゃない。自分に悪魔が乗り移っている、と白状すれば今すぐここから出してやろう」
「えっ……」
マルレーネは一瞬の逡巡。
自分は悪魔じゃない。けど言ったら、この地獄から解放されるかもしれない……と悩んでるだろう。
やがてマルレーネが出した答えが、
「わ、わたくしは悪魔です……だからここから早く解放しなさい」
苦渋の決断であった。
「ハハハ!」
俺はそれを聞いて、思わず笑い出してしまった。
「自分から悪魔を認めるとはな! よし! 安心しろ! 悪魔がお前の体から出ていくように、ずっと殴り続けてあげるから!」
「えっ……認めたら、ここから出してくれるのでは……?」
「そんなの嘘に決まってるだろ」
「そ、そんな……」
力なく肩を落とすマルレーネ。
容赦なく、俺はそんな彼女に対して再度拳を振り下ろすのであった。
マルレーネは恐る恐るといった感じで質問した。
「そのままの意味だ。お前の中に悪魔が取り憑いてるかもしれない。それが本当なのか嘘なのか……今から見極めたいと思うんだ」
「なにを言っているんですか! わたくしに悪魔なんか取り憑いていませんわ!」
胸に手を当て、そう否定するマルレーネ。
しかし俺にとってはエリオット(のお金や地位)に心酔しているマルレーネは、悪魔にしか見えなかった。
「悪魔審判なんか、わたくし認めません! 即刻、わたくしと神官達をここから出しなさい!」
「それは今から俺が決めることだ」
「あながっ? あなたのような輩に決定権などござい——な、なにをするのですか!」
マルレーネの両肩を持って、無理矢理近くの椅子に座らせた。
しっかりとした鉄製の椅子である。
今までここに被害者を座らせ、何日にも渡って暴行してきた。
随分と血が染み込んでいるんだろうなあ。
「こ、こんな汚らわしいものに、どうしてわたくしが座らなければならないのですかっ?」
「あっ、そうだ。今から悪魔審判をするって言ったけど、抵抗してくれてもいいよ。それはお前の自由だから」
「言われなくてもいたしま——か、体が動きませんわ!」
マルレーネは椅子に座ったまま、足をバタバタと動かした。
体が動かないんじゃない。
俺がマルレーネを椅子に押さえて、動かなくしているだけだ。
もっとも。
「お前、力ないんだな。俺、人差し指しか使ってないぜ?」
俺は人差し指でマルレーネの額を押さえているだけである。
それだけで動かなくなるとは……全く、情けないことだ。
「離しなさい! クッ……どうして、このような男に取り押さえられなければならないのですか!」
「よし、このまま悪魔審判をはじめるぞ。イーディスもよく見といてくれよ」
「分かった」
マルレーネがなにやら叫いていたが、無視して悪魔審判をはじめることにした。
「汝に問う。汝は悪魔か?」
「悪魔じゃありませんっ! そんなの当たり前じゃないですか!」
凜とした表情でマルレーネが口にする。
改めて見ると、本当に整った顔だ。
マルレーネは自分が美しいことを分かっているし、それに自信を持っている。
昔からそうやって男を誑かして、良い思いもしてきたんだろう。
その美しさに目を奪われた一人が、勇者エリオットだしな。
そんなことを考えている腹が立ってきたので、取りあえず顔を一発殴っておいた。
「ふんぐっ!」
マルレーネから聞いたことのないような声が聞こえた。
「悪魔はいつもそう言うんだ。殴ってたら、いつかボロを出してくれるかな?」
「あ、あなたは狂っていますわ……こんなことをするなんて」
「狂っているのはお前の方だよ」
そう言って、もう一発顔面に拳をお見舞いする。
血と涎が飛んだ。
「顔は……顔は止めなさい! こんのっ——」
魔法が封じられたマルレーネは、間抜けにも俺の頬にビンタをかましてきた。
だが……。
「おいおい、いくら女でも力なさすぎだぞ。よちよち~、今から俺が遊んであげまちゅね~」
「触れるな! あなたのような汚物がわたくしに触れるのでありません!」
左手でマルレーネの平手を止め、右手で頭を撫でてあげる。
すると悔しさのあまりマルレーネの顔が歪んだ。
驚いた。
あまりにもマルレーネの力が弱かったからだ。
赤ん坊が叩いてきた、と思ってしまったぞ。
「さあ、悪魔審判の続きをはじめよう」
「…………」
「汝に問う。汝は悪魔か?」
「…………」
「ふんっ」
今度は喋らなくなったので、マルレーネの顔をまた殴った。
「黙っているということは、悪魔ってことを認めるんだな」
「許しません……このような非道。絶対に許しませんっ」
「反抗的な態度だな。よし、悪魔が体が出てくるまで殴ってあげよう」
「か、顔はお止めなさい! 顔だけは!」
「うるせえ」
執拗にマルレーネの顔だけを殴り続けた。
マルレーネは抵抗しようと手を伸ばそうとしてくるが、まるで俺は赤ん坊をあやすかのように、それを払いのけた。
マルレーネのキレイな顔がだんだん変形していく。
そうだ。顔といえば昔こういうことがあった。
勇者パーティーにいる頃。
エリオット達の雑用係として働いていた時だ。
「鏡……鏡を持ってきなさい。アルフ」
と椅子に足を組んで、マルレーネは言った。
「鏡……すいません。宿屋に忘れてきました」
マルレーネの言っているものは、手鏡であろう。
普段持ち歩いているが、たまたま忘れてしまった。
それを聞いて、マルレーネは髪を逆立たせて、
「この無能がっ! 地に沈みなさい!」
平手で俺の頬を叩いて、背中をげしげしと踏み出したのだ。
しかもこの時、マルレーネの履いていたのはハイヒール。
「っ!」
形容出来ないような痛みが体に襲った。
「どうしたんだい?」
「あら、エリオット様。アルフがわたくしの手鏡を忘れてきまして……」
「なにっ! 貴様、なにを考えているんだ! 手鏡がなかったら、マルレーネが髪をセット出来ないじゃないか! 化粧を整えることも出来ない!」
言っておくが、今ここはダンジョンの中だ。
見た目なんかその次。モンスターの討伐こそ気にすべき事項だったのだ。
だが……マルレーネはエリオットの背中に隠れて、邪悪な笑みを作っていた。
「お仕置きしてください、エリオット様! この愚かで汚い男に!」
「ああ、任せておけ」
ニヤリと二人の口角が吊り上がった。
その後、地獄の『お仕置き』が続いたのは言うまでもない。
「おっ、なかなか美人になってきたじゃないか!」
そして今!
マルレーネがなによりも大切にしていた美貌が失われようとしている!
「許しません……絶対にあなただけは……」
顔をボコボコにしたマルレーネが、辛うじて声を絞り出した。
俺はマルレーネがなにを言おうと、なにをしてこようと、顔だけをひたすら攻撃し続けた。
そのおかげで、今のマルレーネはオークのように腫れ上がっていた。
「ああ、マルレーネ様が……」
「なんという罰当たりな……マルレーネ様の美しさが……」
マルレーネのファンも多かったんだろう。
神官共が悲しそうな声を出した。
「そうだ。昔、ダンジョン出掛けた時手鏡忘れたことあったよな?」
「そんなことありましたっけ……?」
俺となっては地獄のことであっても、こいつ等にとってはなんとも思ってなかったんだろう。
そう考えるとさらに腹が立ってきた。
「あの時は悪かったな。ほら、手鏡だ。髪をセットしてくれてもいいし、化粧を整えてくれてもいいぞ」
審判室の中にあった所々血で汚れた手鏡を、マルレーネの前に差し出す。
拷問のためだろうか。
審判室の中には色々な道具があって、非常に有り難かった。
「お、お止めなさい……っ! こんな顔見たくない!」
「まあまあ。遠慮するなよ」
顔を背けようとしてきたので、マルレーネの後ろから無理矢理瞼を開かせてやった。
「イーディス、その手鏡持ってくれ」
「うん、分かった」
「キャァァアアアアアアア!」
マルレーネが鏡を見て、絶叫する。
「これがわたくし……? わたくしのキレイな顔……?」
「ああ、お前の顔だ。良かったな。もっと美人になったぞ」
「見たくない! こんな顔、見たくない!」
マルレーネは最後の力を振り絞って逃げようとするが、俺は手を離してやらなかった。
「さて。悪魔審判の続きをやろうか」
「まだ……おやりになるつもりですか?」
当たり前だ。
そうだ……。
「しかし俺も鬼じゃない。自分に悪魔が乗り移っている、と白状すれば今すぐここから出してやろう」
「えっ……」
マルレーネは一瞬の逡巡。
自分は悪魔じゃない。けど言ったら、この地獄から解放されるかもしれない……と悩んでるだろう。
やがてマルレーネが出した答えが、
「わ、わたくしは悪魔です……だからここから早く解放しなさい」
苦渋の決断であった。
「ハハハ!」
俺はそれを聞いて、思わず笑い出してしまった。
「自分から悪魔を認めるとはな! よし! 安心しろ! 悪魔がお前の体から出ていくように、ずっと殴り続けてあげるから!」
「えっ……認めたら、ここから出してくれるのでは……?」
「そんなの嘘に決まってるだろ」
「そ、そんな……」
力なく肩を落とすマルレーネ。
容赦なく、俺はそんな彼女に対して再度拳を振り下ろすのであった。
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