逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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二章

9・勝ち組神官をボコボコにする

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 あれは俺が悪魔審判を受けていた時だ。

「ハハハ! イーディス教の神官という職業は最高だな! 神官と聞いただけで、女共が寄ってきやがる!」
「そのおかげで絶世の美女を抱きまくりだ。前なんか道具屋の娘が接待してくれたぞ? 良いケツだった」

 俺は狭い部屋から閉じ込められていたが、外からいつもそんな声が聞こえてきた。

「信者がいなくなれば、今いる信者から金を巻き上げればいい。我々の栄光は永遠だ!」
「その金で美味しい飯と女を食う。オレ、親がイーディス教の神官で良かった~。なんの苦労もせずに、ここに入れたからな」

 その声はあまりにも邪悪であった。

「こいつ等が……一番悪魔だ……」

 周りもなにも見えない部屋で膝を抱えながら、俺は一人呟いた。

 ◆ ◆

 そして今。

 大聖堂に侵入した俺は、早速暴れ回っていた。
 侵入者を排除しようと襲い来る神官から、武器を奪っては倒していく。

「か、体に力が入らない! これはどういうことだっ?」
「魔法も発動出来ないっ? バカな! 素晴らしい魔法スキルを授かった勝ち組のオレが、どうしてこんなことに?」

 神官達は、阿鼻叫喚を上げて逃げ回る。 
 見た者から順番に弱くなってもらい、素敵な底辺生活をプレゼントしたのだ。

 それを俺は害虫を駆除するかのごとく、順番に処理していった。

「た、助けてくれ! 神はいないのか……!」
「神はいるよ。お前の目の前にな」

 そう言いながら、ハンマーを頭に叩き落としてやった。

「そ、外に……逃げるしか……!」

 神官の何人かは戦意を消失してしまっているらしくて、正門を開いて外に逃げようとした。

 だが。

「ひ、開かない?」
「どういうことだっ? も、もしや……この悪魔が結界を敷いたということなのか!」

 いくら押しても重い扉が開かないので、神官共は焦っていた。

「結界? 俺、そんな魔法使えないよ」
「ひっ……! お助けを! お前に慈悲の心はないのか!」
「慈悲? なんだ、そりゃ。俺が悪魔審判をやられていた時、いくら命乞いをしても聞いてくれなかったよな? だから俺も容赦する必要はない」

 外に逃げようとする神官の後ろから近付き、背中に剣を突き刺した。

 ここから逃げ出そうとする神官を、どうしようかと思っていたが……労せず、その心配はなくなったらしい。

 まさか信者から巻き上げた金で作った豪華な扉が、仇になるとはな。
 中には大理石やら金やらを埋め込んでいるせいで、扉は若干重くなっているのだ。
 弱くなっているこいつ等には、最早それを開けることすらも出来ない。

 俺はハンマーを振り回しながら、大聖堂を闊歩かっぽしていく。
 体中を返り血で濡らした俺は、さぞこいつ等の目からは悪魔にでも見えていたに違いない。


「皆の衆、静まりかえれ」


 しばらく暴れていると、奥からのそのそと偉そうに歩いてくるジジイを見つけた。

 俺はそいつを知っている。
 悪魔審判がやられた時、こいつもいたのをずっと覚えていたのだ。

「教皇クリフトン……とうとう出てきやがったな」

 イーディス教のトップだ。
 これだけ暴れ回っても、全然出てこないので違うところから逃げたかもしれない……と思っていたが、どうやら神は俺に味方しているようである。

「クリフトン様だ……! 神々しい……!」

 さっきまで鼻水垂らして逃げ回っていた神官共であったが、教皇を見ることによって、活気を取り戻していった。

「悪魔よ。そなたはどういうつもりだ?」

 これだけの惨事であっても、教皇は落ち着き払った口調。

「腐敗したイーディス教に神罰を与えにきた」
「愚かなものめ。神の代理者のつもりか? イーディス教が腐敗しているだと?」
「ああ。金しか興味がなくて、悪魔審判だとかいう理由を付けて、可愛い女の子を奴隷にしたり、いたぶっているお前等のことだよ」
「物事の本質がそなたには見えてないようだな……それに……隣には獣人族? なんと汚らわしい。イーディス神様も嘆いておるわ」

 イーディスを見て、教皇は顔を歪めた。
 確かにイーディス神は嘆いている。

「アルフ。あいつ等、不快。やっちゃって」

 だが——俺じゃなく、お前等に対してだ。

「分かってるって」

 それにもうはじまっている。

「まずは同士達の傷を癒そう」
「おおお! 教皇様あああああ!」

 と教皇は杖をゆっくり掲げ、神官共が歓声を上げた。

 ふう。
 どうやらこいつ等は、まだ自分の負け確の状況に気付いてないらしい。

「聖なる神よ……聖戦によって傷ついた者の魂を救いたまえ。ホーリーヒール!」

 …………。

「……あれ?」

 教皇は顔に似合わない間抜けな声を出し、目を丸くした。

「ど、どうしてだ……! 私のホーリーヒールが発動しないっ?」

「お前はもうそんなの使えないよ。一生な」

 俺は教皇まで大股で近付いて、思い切り腹を殴った。

「うわああああああああ!」

 教皇は間抜けな声を上げて、吹っ飛んでいった。

「これで終わりだと思ってないよな?」

 俯せに倒れている教皇に近づき、髪を強引につかんで顔を上げてやった。

 ハハハ!
 間抜けな顔をしてやがる!
 さっきの衝撃で、歯が何本か折れているじゃねえか!

「な、何故だ……儂がこんな、悪魔なんかにやられるわけないというのに……魔法が発動しない……?」

 教皇は明らかに混乱していた。

 今までだったら絶対的な回復魔法と防御魔法で、相手を寄せ付かなかったんだろうか。
 だが、今となってはこのジジイは俺より弱くなっているため、上級魔法なんて使えなくなっているから無意味だ。

「お前……俺のこと覚えてるよな?」
「無論だ。勇者パーティー唯一の汚点であるアルフ……」
「汚点かどうかはともかく……そうだ。昔、悪魔審判で俺を大層イジめてくれたのも覚えてるよな?」
「悪魔……審判……そなたをか? なんのことだ? わ、儂はそんなことしてないぞっ!」

 必死に否定する教皇。
 本当に覚えてないのか、それともこの窮地を乗り越えるために嘘を吐いているかだろう。

 どちらにせよむかついたので、教皇の腹を蹴った。

「んぐっ、ばっ……!」
「お前は覚えてないかもしれないが、俺はしっかりと覚えてんだよ。俺がいくら『止めろ!』と叫んでも、あんたは止めてくれなかったよな? それどころか、回復魔法で俺が丁度死なないように調整してくれたよな? そのおかげで、俺は死ぬような痛みを延々と味わうことになってしまった」
「ち、違う……! あれは儂の指示ではなく……」
「俺がボロボロになっている光景を見て、嬉々とした表情を浮かべていたのを覚えているんだが? 『ほっほほ。我慢するがいい。乗り移った悪魔はもうすぐで出てくるだろう——そなたが死ななければ』と言ってたのが、耳にこびりついているんだが? 下手な嘘吐くんじゃねえ!」

 今思い出しても、腸が煮えくりかえる。

「た、頼む……許してくれ……! これもイーディス神が望んだことなのだ」
「そうやって、都合が悪くなったらすぐにイーディスのせいにするのもむかむかする」

 その後、俺は「許してくれ」「止めてくれ」と教皇が叫んでも、殴ったりするのを止めることはなかった。
 こいつにはまだやってもらうことがあるから、死なないように調整しながらな。
 それに簡単に死んでしまってもつまらない。

「や、止めてくれ……頼みなら、なんでも聞く。金か? 金ならいくらでもやる。だからここは儂だけでも見逃してくれ……」
「ハハハ! 人の上に立つ者が、部下を見捨てて命乞いかよ! 気に入った!」
「じゃ、じゃあ……儂だけは」
「と言うとでも思ったか?」

 そう言って、もう腹を蹴った。

 ボコボコになっていく教皇の顔を見ていると愉快になってきたが……ここでお腹いっぱいになってしまっては、もったいない。
 まだメインディッシュが残っているのだ。

 俺は教皇の髪を持ち上げ、

「今すぐあの尻軽枢機卿——マルレーネをここに呼びやがれ」
「なっ……! 勇者パーティーに同伴しているマルレーネをだと……?」
「方法は色々あんだろ? 遠いヤツと連絡が取れる魔石とか持ってんじゃねえのか? 転移魔法も使えるだろう?」
「しかし……マルレーネは今どこにいるか分からぬ……」
「嘘だな」

 そもそもマルレーネが勇者パーティーとして魔王を倒し、しばらくの間王都に滞在していることは有名なはずだ。

「…………」
「ペナルティ一。指折りの刑だな」
「ぐあああああああああ!」

 手始めに人差し指を折ってやると、教皇は苦悶の声を大聖堂に響かせる。
 今となってはあれだけ煌きらびやかだった大聖堂も、血で濡れた素敵な場所になっていた。

「早く呼びやがれ。さもなくば、このまま順番に全ての骨を折っていく——」
「わ、分かった! 今すぐ呼ぶ! だからもう止めてくれ!」

 さっきまで偉そうにしていた教皇は、今となっては顔をぐちゃぐちゃにして威厳なしであった。

「誰か遠隔連絡の魔石をここに持ってきやがれ。三分以内に持ってこないと、殺しちゃうかもしれないぞお?」
「は、はいっ! 今すぐに!」

 俺が言うと、神官共が慌てて魔石を持ってきた。

「ほらよ。魔石の仕組みは分かっている。せいぜい演技を頑張るんだな」
「た、たった一人に……しかもあっという間に大聖堂が制圧されるだと……? どうなっておるのだ……」
「早くしろって言ってんだろ」
「ぐおおおおおお!」

 軽く後頭部を小突いたつもりだが、教皇は喉が張り裂けんばかりの声を上げ痛がった。

「発声練習なんかしてないで、さっさとやりやがれ」

 そう言うと、教皇は息絶え絶えで魔石を操作し出した。

 この魔石は映像を保存し、離れている者に送信することが出来るアイテムである。

 相手も再生用の魔石を持っていることが条件であるが……。
 枢機卿でもあるマルレーネは、いつでも大聖堂と連絡が取れるように、持ち歩いていることは明白だ。

 これを教皇にやらせるために、顔は決して攻撃しなかったのだ。
 勘ぐられて来なくなっても困るからな。
 まあそんなことはないだろうが。

「マルレーヌよ……フランバル大聖堂の緊急事態だ。今すぐ戻ってきなさい——」

 と教皇は震える声をなるべく抑えつつ、映像を作り出したのであった。


 さて——。
 大聖堂を制圧することに成功した。
 後はマルレーネを呼び出して、ここで楽しい復讐がはじまるのだ。

 それを想像したら、鳥肌が立つくらいに愉快であった。
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