逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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一章

★7・ワイバーンにボコボコにやられる勇者

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「ぐわぁぁあああああ!」

 ワイバーンの尻尾に体が当たり、エリオットは壁まで吹っ飛ばされた。

「どうしたのですか? ただかすっただけじゃありませんか!」
「エリオット! 自分から壁に体当たりするような真似は止めろ!」
「そうだ! エリオット君は演技の練習をしているんだよね? 多才なエリオット君……素敵~!」

 今なお、エリオットはワイバーンに苦戦を強いられていた。
 もちろん、フェリシーの言う通り演技の練習なんかしていない。
 その証拠に、口の中は血でいっぱいになっている。

「お、お前なんか、敵じゃないはずなのにぃぃぃいいいい!」

 エリオットは泣きべそをかきながら、ワイバーンを見据えた。
 ワイバーンから放たれる威圧に、エリオットの両足は知らず知らずのうちに震えていた。

「エリオット様、離れてくださいまし! フェリシーが魔法を放てないですわ!」
「戦士の私が援護に入ろうにも、そんなワイバーンの近くで遊んでちゃ、巻き込む可能性もある! だから早く離れてくれ!」
「走って走って! そんな赤ん坊の演技なんてしなくていいからさっ!」

 どうやらエリオットがワイバーンから離れないせいで、他のメンバーも援護が出来ないらしい。

「グ、グゾ……もう少し、器用に技をこなせるように……してよ」

 女性メンバーに聞こえないようにぼそっとエリオットは呟いた。

 勇者パーティーのメンバーは確かに強い。
 だが、大味な魔法や技しかなくて、他人を巻き込んでしまう可能性が高いのだ。
 エリオットなら、例え足手まといがいたとしても全力で戦える術は持っているのだが……他の三人にそれを求めるのは酷だった。

「ワイバーン! き、貴様……! 後悔するんじゃないよ? 僕を本気にさせたね?」

 とエリオットは腰から下げていた聖剣に手をかける。

「なっ……! たかがワイバーンごときに聖剣をお使いになるつもりですかっ?」
「止めろ! エリオット! こんなところで聖剣を使ったら、地下迷宮が崩れてしまうぞ!」

 マルレーネとサラが止めようと声を張り上げていた。

 しかし彼は止めるつもりもなかった。

(このままだったら殺されてしまう……!)

 情けない話だ。
 魔王を一発で倒したエリオットが、たかがワイバーンごときに窮地に陥るとは。

 だが、贅沢なことは言ってられない。
 エリオットは一気に聖剣を鞘から引っこ抜き、ワイバーンを斬り裂こうとした。

「くらえ……奥義! ファイナルスラ……重いぃぃぃぃぃいいいい!」

 しかし鞘から抜いた瞬間。
 その重みに耐えかねて、エリオットは聖剣ごと地面にうずくまってしまったのだ。

「なんでだ! なんで聖剣がこんなに重い!」

 聖剣がそのまま両手にのし掛かっている。
 もしかしたら、これで両手が骨折してしまったかもしれない。
 持ち上げようにも、聖剣はびくともしなかった。

「エリオット様? 嘘ですわよね……先ほど聖剣が重いと聞こえましたが……」
「なにをしているのだ! 一度持たせてもらったことがあったが、そんなものは子どもでも軽々と持ち上げるぞっ?」
「分かった! 重いものを持って、困っているおじいちゃんの練習をしているんだ! 迫真の演技だね~。俳優になれるよ!」

 マルレーネとサラは信じられないといったご様子。
 そしてフェリシーは未だにエリオットが演技の練習をしている、と思い込んでいるらしい。

「グ、グゾ……僕は勇者なんだ! 神や聖剣に認められた勇者なんだ! 誰よりも強いんだぞ! なのに……どうじで、こんな簡単なことも出来ないんだぁぁぁああああ!」

 そうわめきながら聖剣を持ち上げようとするエリオットは、最早駄々をこねている子どもにしか見えなかった。

 地団駄じだんだを踏んでいるエリオットの頭上から、ワイバーンの足裏が容赦なく迫ってきた。

「うわぁぁぁぁああああああ!」

 無論、重すぎる聖剣から手を離せないエリオット。
 ワイバーンからの『ただの踏みつけ』を回避することが出来ず、攻撃を受けたのであった。

 ◆ ◆

 その後、戦闘不能に陥ったことによって、ワイバーンがエリオットから興味をなくしてしまったらしい。

 奇しくもそれが好機。
 あっという間に勇者パーティーの他メンバーは連携して、ワイバーンを倒してしまったのであった。



 そして王宮に帰還して……。

「エリオット様。これで大丈夫ですわよ」

 エリオットは豪華な天蓋付きのベッドに寝かされ、マルレーネから看病を受けていた。

 ワイバーンに踏みつけられた彼は、全身の骨が折れてしまっていたのだ。
 そんな状況からでも、聖女マルレーネの奇跡の回復魔法は、彼を傷一つない体まで治してしまっていた。

「ああ、ありがとう……迷惑かけたね」
「いえ、わたくしも——エリオット様が今までわたくし達に見せたことのないようなお姿を見せていたので、焦って回復魔法を使えなかったのですわ。わたくしにも責任があります」

 とマルレーネは肩を落とす。

「それにしても……どうしたのだ、エリオット? なんでワイバーンを前にあれだけ遊んでいたのだ?」

 近くで寄りそっているサラがそう質問をする。

「あ、ああ……ちょっと調子が悪くってね。暴漢にやられた傷がまだ完全に癒されてないみたい」
「な、なんだと……! おいマルレーネ! 貴様、ちゃんとエリオットに回復魔法をかけたのか!?」

 サラがもの凄い形相でマルレーネに詰め寄る。

「え、え? わたくしの魔法は完璧ですわよ? あの傷なら完全に治っているはずなのですが……」

 戸惑った表情を見せるマルレーネ。

 もちろん、彼女の言っていることは本当だ。
 暴漢……というかアルフにやられた傷は、彼女の回復魔法によって完治している。

「喧嘩は止めなよ! マルレーネは悪くない! 悪いのは……全部僕のせいなんだ」
「エリオット様はお優しいのですわね……。しかしわたくしの回復魔法がいけなかったに違いありませんわ。すみませんでした」
「むぅ……エリオットもそう言っているし、今回だけは許してやろう」

 吐き捨てるようにサラは言って、マルレーネから離れた。
 サラが背を向けた瞬間、マルレーネが舌を出したのが見えた。

(仲悪いんだよな……この子達……)

 エリオットとしては、マルレーネもサラも同様に愛したい。
 やっぱり一人の女性だったら飽きるし、ハーレムを形成する器が自分には備わっていると思うからだ。

 だが、二人ともエリオットを自分だけのものにしたいらしいのだ。

 その結果、二人は表向きは協力関係であるものの、裏ではドロドロとした醜いものである。
 それをエリオットは感じていた。

「エリオット君、エリオット君」
「ん? どうしたんだい、フェリシー」
「聖剣が重い……ってどうしちゃったの? それも怪我の後遺症ってヤツなの?」
「そ、そうだ! そうに決まっている! なんか重く感じたんだよな……どうしてだろう?」
「そうなんだっ。早く傷を治してね! 私、頑張って看病するからっ」

 一体全体どうしてしまったのか。
 今のところは、他のメンバーを誤魔化していられる。
 しかしこんな調子が、これから先も続くとするなら——。

(いや……考えるのは止めよう)

 怖くなるから。
 明日には元に戻っているはずだ。

 とエリオットは壁に立てかけられている聖剣を見て、思考停止するのであった。
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