逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

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一章

★6・弱くなった勇者のその後

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「エリオット様! どうしたのですか!? そんな傷だらけになって!」

 なんとかふらふらになりながらも、エリオットは自力で宿泊している王宮の間に辿り着いた。

「マ、マルレーネ……」

 彼女の顔を見て、エリオットはほっと一安心する。

「エリオットよ! 君らしくないじゃないか! これだけの傷を負っているエリオットを見るのは初めてだ」
「もしかしてモンスターに襲われちゃった?」
「バカ言え! エリオットにこれだけの傷を残せるヤツなんて、この世にはいない!」

 倒れたエリオットのそばに、三人の美女が駆け寄ってくる。

 聖女マルレーネ。女戦士サラ。そして魔法使いのフェリシー。
 三人は一様にしてエリオットを心配して、同時に困惑していた。

「マルレーネ……まずは回復魔法を使ってくれ。話はそれからにしよう」
「は、はいっ! パーフェクトヒール!」

 マルレーネが回復魔法の名を唱えると、エリオットの体を優しい光が包んだ。
 徐々に体に活力が戻ってきて、あれだけボロボロだった体が癒されていく。

「ふう……ありがとう。マルレーネ」
「でもどうしたのですか? 正直これくらいの傷だったら、あなたでも治せると思うのですが……」
「……! ちょ、ちょっと調子が悪くってね」

 エリオットはマルレーネの追及の瞳に耐えきれず、視線を逸らした。

 マルレーネは【聖女の証】というスキル以外にも、【回復効果+50%】【ヒーリング効果+100%】といった——回復魔法に関するスキルを多数持っている。
 なので回復魔法に限れば、マルレーネはエリオットすらも超えるだろう。

 だが、エリオットは努力補正が普通の人の1000倍かかる【勇者の証】というスキルを持っているのだ。
 心臓や頭を潰されたとかならともかく、これくらいの傷なら自らの回復魔法で治せるのだ。

 だが……。

(一体……僕の体はどうなってしまったんだ……?)

 とエリオットは自分の手を見る。

 アルフと戦った際、全く体に力が入らなかった。
 普段なら当たり前に出来ていたことが出来ない。
 回復魔法を発動しようにも、上手く出来ないのだ。

(ただ調子が悪かっただけか……?)

 そうだ、そうに決まっている。
 そうでなければ、あのアルフなんかに負けるわけがない。

「それで……どうしたのでしょうか? エリオット様。なにが起こったのでしょう?」

 マルレーネがエリオットを真っ直ぐ見て、そう問いかけた。

「ああ……街で暴漢に遭ってしまってね」
「「「暴漢?」」」

 三人が目を丸くする。

 エリオットはここに辿り着くまでに考えていた嘘を、口から吐き続けた。

「なんでも僕が持っているお金に興味があったみたいなんだ」
「なんてことを……! エリオットは世界を救った英雄なんだぞ! なんて不埒者だ!」

 サラが激昂している。
 エリオットはそれをなだめるような口調で、

「暴漢とはいえ、一般人相手に抵抗するわけにもいかないだろ? そんなことをすれば大問題だし、万が一相手に大怪我をくらわせてしまったら……」
「それでエリオット様が大怪我を負ってしまったということですか……? なんて慈悲深きお方なのですか、エリオット様は!」

 エリオットの頭を、マルレーネがぎゅーっと抱いた。

 マルレーネは心配し、サラは激怒している。
 しかしそんな中でフェリシーが頭上に『?』マークを浮かべ、

「でも抵抗しないとはいえ、それだけエリオット君にダメージを与えられるってすっごい強い暴漢なんだね。だってエリオット君、耐久も人より1000倍くらいはあるよね?」
「そ、それは……」

 と続けた。

 エリオットが言い淀む。
 何故だかいつもの力が出せなくて、耐久も人並み以下に落ちてしまったみたいなんだ。
 無論、エリオットには妨害デバフ魔法に関する耐久もあるので、それはそれで矛盾する。

 だから。

「ちょ、ちょっとは傷を負わないと暴漢は諦めてくれないじゃないか! それで……暴漢に気付かれないように、わざと自分で傷を付けたりして……」

 正直——かなり苦しい言い訳だったと思う。

 しかしエリオットに心底惚れているフェリシーは、

「そっか! さすがエリオット君だね。賢くて優しいんだ!」

 と疑わずに受け入れてくれた。

 ……なんとか三人を騙せそうかな?

 いくらただ単に調子が悪かっただけにしろ、アルフに負けたなんて言い出せるわけもない。

(ん……? 僕がアルフに負けた……?)

 なにを言っているんだ、僕は。
 アルフなんかに負けるわけないじゃないか!

 今回は不慮な事故だ。
 そうだ。あれは勝負じゃない。
 ただ不幸が何重にも重なってやって来ただけの事故。
 そう思うことにしよう。

「ふう……まあこの話はもう終わりにしよう」
「エリオット様、優しいのは結構ですけど、もっと自分のことを大切にしましょうね?」
「そうだぞ。君は他人を大切にしすぎなのだ。それは素晴らしいことなのだが、いつか大変なことになってしまうぞ」
「エリオット君は優しいっ! そういうところが、私は大好きなんだ!」

 ボロボロになったエリオットを見ても、三人の心は揺らいだりしない。

(どうだ……? アルフ。これがお前と僕の違いだ)

 三人の美女に抱きつかれて、すっかりさっきのことはあまり気にしなくなっているエリオットだった。

「さて……と。ただぐーたら生活を続けているのも悪いよね。近くに地下迷宮があるんだろ? そこでモンスターでも退治しようか」

 魔王がいなくなっても、即座に全てのモンスターがこの世から消え去るわけではない。

 一番強大で邪悪な存在がいなくなったとしても、モンスター達は人々にとって害をなす存在だ。
 魔王なき後の世界で、そんな残りのモンスター達を狩ることも勇者エリオット達の仕事なのである。

「ですわね。エリオット様は大丈夫なのですか?」
「全然平気だよ」
「ん? そういえばアルフはどこに行ったのだ? トイレ掃除をしてもらおうと思っていたんだが……」
「ああ、アルフについてはパーティーから追放した。あんなヤツ、パーティーからいなくなった方が清々せいせいするだろ?」
「ふうん、そうなんだ。けど……やっと目障りなヤツがいなくなるねっ!」

 アルフのパーティー追放を告げても、彼のことを惜しむメンバーはいなかった。
 それどころかフェリシーは喜んでいるし、マルレーネとサラはどうでもよさそうだった。

「じゃあ行こうか」
「「「はい!」」」

 こうして、勇者パーティーは王宮から出て、近くの地下迷宮へと向かうのであった。

 ◆ ◆

 地下迷宮にて。

「どうしたのだ! エリオット! いつもの動きではないぞ!」
「エリオット様! 早く……! 早く魔法を放ってくださいまし!」
「エリオット君、危ない! どうして歩いてるの?」

 エリオット達はワイバーンに苦戦していた。
 ワイバーンはドラゴンの亜種とはいえ、その中でも最弱に位置する。
 エリオットが本調子なら、ワイバーンなんて一発で倒せるはずだった。

 だが。

「グ、グゾぉぉぉぉぉぉおおおおお! どうじで、がらだがうごかないんだぁぁあああああ!」

 鼻水を垂らしながら、エリオットは体を動かそうとする。

 しかしダメ。
 必死に動いているつもりだが、彼の動きは他の三人にとって歩いているようにしか見えないらしい。

「エリオット様……! どうしてそのような顔をするのですか! いつものイケメンが台無しですわよ!」
「そうだ! ストレッチなんてしなくていい! 早く……一度ワイバーンから離れてくれ!」
「エリオット君! 赤ん坊より遅いよっ? どうしたの! 走ってよ!」

 三人が焦ったようにしてエリオットに指示を飛ばす。
 だが、彼はワイバーンから離れるために走っているつもりなのだ。

 この時、エリオットはアルフの言葉を思い出していた。


『お前、俺より弱いんだから』


 今まさに、その言葉が呪いのようになって、彼に重くのし掛かっていた。
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