逆転スキル【みんな俺より弱くなる】で、勝ち組勇者パーティーを底辺に堕とします

鬱沢色素

文字の大きさ
上 下
4 / 43
一章

4・勇者に稽古をつけてやった

しおりを挟む
 昔——俺はエリオットに剣の稽古を付けてもらったことがある。

『いい加減戦力になってもらわないと困るからね。ちょっと教えてあげるよ。君の先生としてね』

 なんて優しいんだ——とは思わなかった。
 この頃にはエリオットの本性に気付いていたからだ。

 俺には真剣が持たされて、エリオットには木製の模擬剣もぎけんが持たされた。
 武器の差に開きがあるのは、エリオットいわく『ハンデ』らしい。
 というかエリオットが真剣なんて持ってたら、すぐに俺を殺してしまうからだろう。

 そしてそれをパーティーの仲間、聖女マルレーネと戦士サラが見ていた。

 稽古の内容は一方的だった。

『ハハハ。ホントに君はノロマだな。こんな攻撃も避けられないなんて』

 エリオットが片手で適当に振った剣。
 剣筋が見えなかった。早すぎて、俺の目では捉えられないのだ。
 その剣が俺の頭だったり、肩に当たる。
 エリオットが適当に振るう剣であっても、骨が折れる衝撃を受けた。というか何本か折れていた。

「ク、クソッ!」

 ただ俺も負けじと剣を振るう。
 これでも田舎村では神童と言われていたんだ。
 元々剣の扱いには自信があった。

 だが……当たらない。
 俺がいくら真剣に剣を振るっても、遊び半分のエリオットにかすりもしなかった。

『動きが遅すぎるよ。もしかして手加減してくれてるのかな? ククク……』

 エリオットの動きはまるでダンスを踊るかのようだ。

「うわ……まるで虫けらのような動きですわ。それでモンスターに勝てるとでも思っているのですか?」
「愚かなものだな。君は真剣を渡されて、エリオットは模擬剣なのに……剣で戦うの止めたらどうだ? 才能ないよ、アルフ」

 マルレーネとサラからも罵倒が飛んでくる。
 やがて体が悲鳴を上げて、剣を持つ握力すらなくなっていた。

「ギ、ギブアップだ……」

 悔しさと痛みに耐えて、そう声を絞った。

 だが。

『おいおい、これで終わりだと思っているのか? 今度は痛みに耐える練習だよ』

 無抵抗な俺をエリオットは模擬剣でボコボコ殴った。
 頭を手で覆って、うずくまっている俺はさぞカッコ悪かっただろう。

 結局(その時はまだまともだった)幼馴染みのフェリシーが止めに入るまで、稽古は続いた。

 この稽古の際……右奥の歯が取れてしまった。
 モノが食べられにくい度にこの出来事を思い出す。

 ◆ ◆

「そうだ。稽古を付けてやるよ」

 そして今——俺はエリオットと実力が逆転してしまっている。

「稽古……だと……?」

 俺が馬乗りでボコ殴りにしたため、エリオットの顔は赤黒く腫れている。

 ハハハ。ざまあみろだ。

「ああ。お前の方はその腰にぶら下げてる剣を使ってくれてもいい」
「正気か……? 聖剣は持ってきてないが、これもSSSランクの剣なんだがな」
「構わない」

 エリオットはよろよろと立ち上がり、剣を鞘から抜いた。
 切れ味は抜群で、いくら使っても刃こぼれ一つしない剣。
 エリオットが予備として使っていた剣だ。
 とはいってもそれ一つで白金貨十枚はくだらないのだが……。

「はい……アルフ。これ」

 イーディスからそれを受け取る。
 頼んで、探してきてもらっていたのだ。

「じゃあ俺はこれを使わせてもらうよ」
「そ、それは……お、お前! 僕をバカにしてるのか!」

 エリオットが憤怒する。
 これだけ殴られてもまだ戦意を失わないとは……褒めてやりたい。

 俺が持っているのは——そこらへんで拾った木の棒である。
 正直、ちょっと固いものに当たったら、すぐに折れてしまいそうだ。

「さあ、はじめようか。本気でこい」
「後悔するなよ……! はぁぁぁあああああ!」

 エリオットがSSSランクの剣を振り上げて、向かってくる。

「おいおい、なんだ。そりゃ」

 子どもが歩くくらいの速度。
 しかも必死の形相でのろのろと向かってくるエリオットを見ていると、笑いが込み上げてくる。

「うぉぉぉぉおおおおお!」

 欠伸をしながら待っていると、やっとエリオットが俺のところまで辿り着いた。
 俺はわざと剣を寸前のところで避け、カウンター気味に木の棒でエリオットの頬をはたいた。

「グハッ!」
「ハハハ。ホントにお前はノロマだな。こんな攻撃も避けられないなんて」

 木の棒で叩かれたエリオットは、さらに顔を赤くさせて地面で悶え苦しんでいる。
 虫けらみたいだ。

「よし……今度はもっと攻撃してみようか! 安心して! 俺はお前に攻撃しないから! 一方的に攻撃加えてくれればいいから!」
「バカにするなぁぁぁああああああ!」

 エリオットが立ち上がり、もう一度剣を振り回す。
 でもただワガママ言ってる子どもが、適当に振り回しているに等しい。
 しかもかなり遅い。
 全ての動きがスローモーションだ。

「ほい、ほい、ほい」

 俺はそれをわざとギリギリで避けてみたり、わざと転けてピンチを演出してみたり、二本の指で剣をはさんでみたりした。

 おっ。
 こうするとちょっとは面白くなるな。

「動きが遅すぎるな。もしかして手加減してくれてるのか?」
「グゾォォォォオオオオ!」

 エリオットは鼻水と涙を垂らしながら、剣を一生懸命振るってる。
 でも俺にはかすりもしない。

「まるで虫けらみたいな動きだな。それでモンスターに勝てるとでも思っているのか?」
「な、なんで当たらないんだぁぁああああああ!」
「愚かなもんだな。お前はSSSランクの剣で、俺は木の棒だぞ? ……剣で戦うの止めたらどうだ? 才能ないよ、エリオット」
「ぼ、僕が才能ないだと?」

 だってそうだろ?

 弱い俺より、さらに弱いんだから。

「てい」

 俺は木の棒でエリオットの目を突く。

「ぐわぁぁああああああ! 目が! 目が!」

 エリオットは目を押さえ、よろよろと下がった。

「続きをやろうぜ」
「ギ、ギブアップだ! だからこれ以上止めろ!」
「おいおい、これで終わりだと思っているのか? 今度は痛みに耐える練習だ」
「ひ、ひぃ!」

 俺はエリオットの顔面や四肢ししを木の棒で叩いていく。
 木の棒が折れてしまったら終了だから、そうならないように、慎重にだ。

 やがてエリオットの右手がだらーんと下がった。
 もしかしたら使い物にならなくなったかもしれない。

「ぐ、ぐぅ……」

 そう地面に転がって、苦悶の声を上げるエリオットは赤子同然であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

公国の後継者として有望視されていたが無能者と烙印を押され、追放されたが、とんでもない隠れスキルで成り上がっていく。公国に戻る?いやだね!

秋田ノ介
ファンタジー
 主人公のロスティは公国家の次男として生まれ、品行方正、学問や剣術が優秀で、非の打ち所がなく、後継者となることを有望視されていた。  『スキル無し』……それによりロスティは無能者としての烙印を押され、後継者どころか公国から追放されることとなった。ロスティはなんとかなけなしの金でスキルを買うのだが、ゴミスキルと呼ばれるものだった。何の役にも立たないスキルだったが、ロスティのとんでもない隠れスキルでゴミスキルが成長し、レアスキル級に大化けしてしまう。  ロスティは次々とスキルを替えては成長させ、より凄いスキルを手にしていき、徐々に成り上がっていく。一方、ロスティを追放した公国は衰退を始めた。成り上がったロスティを呼び戻そうとするが……絶対にお断りだ!!!! 小説家になろうにも掲載しています。  

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

勇者パーティー追放された解呪師、お迎えの死神少女とうっかりキスして最強の力に覚醒!? この力で10年前、僕のすべてを奪った犯人へ復讐します。

カズマ・ユキヒロ
ファンタジー
解呪師マモル・フジタニは追放された。 伝説の武器の封印を解いたあとで、勇者パーティーに裏切られて。 深い傷と毒で、死を待つばかりとなったマモル。 しかし。 お迎えにきた死神少女との『うっかりキス』が、マモルを変えた。 伝説の武器の封印を解いたとき、体内に取り込んでいた『いにしえの勇者パーティー』の力。 その無敵の力が異種族異性とのキスで覚醒、最強となったのだ。 一方で。 愚かな勇者たちは、魔王に呪いを受けてしまう。 死へのタイムリミットまでは、あと72時間。 マモル追放をなげいても、もう遅かった。 マモルは、手にした最強の『力』を使い。 人助けや、死神助けをしながら。 10年前、己のすべてを奪った犯人への復讐を目指す。 これは、過去の復讐に燃える男が。 死神少女とともに、失ったはずの幼なじみや妹を取り戻しながら。 結果的に世界を救ってしまう、そんな物語。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...