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40・悪魔、襲来

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「正門前だ! あそこを防御で固めろ! 悪魔を一体たりとも、街に出すな!」
「治癒士の方はどこにいられますか! 怪我人が出ました! 今すぐ治療にあたってください!」
「援護を増やしてください! このままで押し切られます!」


 ──城内は騒然としている。

 私たちが地上に戻ると、悪魔が突如城内に現れ、今なお交戦していることが告げられた。

 今のところ、悪魔は城内にいるだけで、街には現れていないらしい。
 一般人が襲われていないことは朗報だが、そのせいで私たちも城外に避難出来ない。

「どうして、悪魔が城内に……」

 怒号と悲鳴が飛び交う中、私はそう言葉を漏らしてしまう。

「今はまだ不明だ。転移魔法を使ったとも考えられる。もしかしたら、フーロラの第一王子レナルドの前に現れたという男も、悪魔の関係者だっったかもしれないな」

 と、ヴィーラントがみんなに指示を出しながら答える。

「エルナ、お前は隠し部屋まで避難してくれ。避難のために用意していた場所だが……位置は覚えているか?」
「ええ。あなたと婚約してから、必死に覚えましたから」
「それはよかった」

 私を避難させるため、何人かの騎士が集まってくる。

「ヴィーラント殿下は、どうされるのですか?」
「俺は悪魔と戦う」

 剣を抜き、覚悟を秘めた目をして、ヴィーラントが言った。

「で、殿下も……ですか? あなたの身に、なにがあったらどうされるのですか!」
「大丈夫だ」

 私を安心させるように、ヴィーラントはふんわりと柔らかい笑みを浮かべる。

「報告によれば、城内に現れた悪魔は下位のものだけらしい。今は他の騎士も混乱しているが、俺たちの勝利は揺るがないだろう」
「で、ですが……」
「城内にはグレンとフォルカーもいる。二人と合流すれば、俺が負けることは有り得ない。それよりも……俺が心配しているのは、お前の安全だ」

 私の?

 そんな思いが表情に出ていたからなのか、ヴィーラントが私の頭を撫でた。

「お前は俺の大事な婚約者だ。お前が安全な位置にいてくれると思えば、俺も安心して戦える。だから……俺を信じてくれるか?」
「……分かりました」

 これ以上食い下がることは、ヴィーラントの足を引っ張ることになる。
 私は彼の顔を見て、首を縦に振った。

「必ず、無事に戻ってきてくださいね」
「当然だ。この戦いが終われば、またあのカフェで一緒にシフォンケーキを食べよう」

 あのシフォンケーキの味を思い出すと、平和な日常に早く戻ってほしいと切に願った。




 避難用の隠し部屋までの移動は、護衛の騎士の方々のおかげもあって、スムーズに完了した。

 中には戦うことが出来ない、メイドや執事も何人かいる。
 部屋の外から聞こえる戦いの音に、みんなは恐怖で震えていた。

「大丈夫よ」

 そんな中。
 私は部屋の片隅で震えている、一人のメイドに声をかけた。

「この城にいる者は、みんな強い。下位の悪魔ごときには負けないわ」

 圧倒的な強さで他国を蹂躙し、フーロラを滅亡に導いたゼレギア帝国──。

 彼らの強さを、私はここにいる誰よりもよく分かっている。

「だから……ね。安心して」
「エ、エルナ様は怖くないんですか?」
「怖いわよ。でも……」

 怖くて震えているだけでは、なにも変えられないから。

 死に戻り前、どのような手を尽くしても、帝国との戦いに勝てなかった無力感を思い出す。

 死がいつも身近にあった。
 私は、恐怖に慣れてしまっただけなのかもしれない。

「ヴィーラント殿下やグレン、フォルカー殿下もいらっしゃいますしね。あの方がに任せておけば大丈夫よ」

 にっこりと笑って、メイドの頭を撫でる。
 すると徐々に体の震えが治っていくのが分かった。

 これで少しは、彼女の恐怖心が薄らいでくれればいいんだけど……。

「とはいえ、気になるわね」

 彼女から離れて、ぼそっと呟く。

 悪魔が突如現れた仕組みも不明確だが……そもそも彼らの目的はなんなのだろうか?

 ヴィーラントは言っていた。下位の悪魔ばかりで、我々が負けるわけがないと。

 城内は要人が多く、攻められないに越したことはないが、逆に言うとそれだけ守りが固くなっているということ。
 わざわざ負ける戦いのために、悪魔は襲撃をかけたのだろうか。

「もしかしたら、まだ奥の手を残しているんじゃ……」

 先ほどから、嫌な胸騒ぎが治らない。

 その時だった。



 ズシャアアアアアアアンッッッ!



 部屋の扉が叩き割られ、一人の男が中に入ってきた。

「え……?」

 突然の出来事に、なにが起こったのか分からない。

 部屋の前には結界が張られている。
 下位の悪魔──だけではなく、この結界を破れる者は、国にもほとんどいないとされる強力な結界だ。

 なのに、ここに姿を現すということは……。



「エルナ、ここにいたか」



 結界を突破し、現れた男。

 彼──レナルドは目を赤く光らせ、私に憎悪の感情を向けていた。
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