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33・ヴィーラントとのデート
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ヴィーラントに無理やり街に連れ出されて。
私たちは適当なカフェに入り、向かい合って座っていた。
なのだけど……。
「で、殿下。とても注目されているようですが? 人払いなど、しなくてもよかったのでしょうか?」
ヴィーラントの顔は当然、街の人々にも知られている。そんな王子が街中で普通にお茶をしているものだから、周りはチラチラと私たちを見ていた。
小声でなにか話をする声も聞こえる。そのせいで、先ほどから落ち着かない。
「そうだな……お前はキレイだからな。人々の……特に男からの視線を感じるのは、慣れていると思っていたが?」
「みなさん、殿下を見ているんです!」
つい声を大にしてしまう。
当たり前だ。
私がキレイだ……なんて思ってもいないことを口にされたら、こうなるのも仕方がない。私と彼の婚約には愛が存在しないのだから。
しかしヴィーラントは私の言葉を受けても、涼しげな顔をして紅茶を飲み。
「そうか?」
「そうですよ。全く……どうして、ここなんですか。庶民的な店ではなく、もっと貴族が利用しているようなカフェなら、また違ったものの……」
「ここのシフォンケーキが好きなんだ」
次にヴィーラントは手元のシフォンケーキをフォークで切り分け、口まで運ぶ。
好きとは言っているものの、シフォンケーキを食べても表情が変わらない。本当に美味しいと思っているのか、怪しいところだ。
「それとも、もっと高級な店に連れていってほしかったか?」
「いえ……私もお店自体には満足しているのですが……」
死に戻り前の最後の方は、帝国と戦争をしていたから、日々食べるものにも困っていた。
値段の高い低いで文句をつけたりしないし、こうして食べ物にありつけるだけでも感謝の念が先立つ。
「私はそういうことを言っているんじゃないんです。ここなら、身の安全を確保することも難しいですし……」
「俺のことを心配してくれているのか?」
愉快そうにヴィーラントが問う。
こういう庶民的な店は、高級店と比べて警備も甘い。
私たちが一般人なら気に留める必要もないと思うが、ヴィーラントはこの国の第一王子。常にその御身を気にしなければならない立場だ。
「だが、その心配は無用だ。見えないところでグレンを護衛につかせている」
「グレンさんを?」
「ああ。エルナと二人きりにさせてほしいと頼んでいるから、姿こそ現さないがな。今頃近くで、不審者がいないかと目を光らせているはずだ」
なにか護身的な準備をしているとは思っていたが、全く護衛の気配を感じなかったら意外だ。
それにしても、いつの間にヴィーラントはそんなことを?
もしかしたら、私と二人で出かけることは前もって決められていたことなのかもしれないわね。
「だが、エルナが落ち着かないというのは反省だ。エルナには今日のデートを楽しんでほしい」
「い、いえ、楽しんでいないというわけではないんです。少し緊張しているだけですから」
デートと言われて頬に熱を帯びていくのを感じながら、そう返事をする。
「それはよかった。楽しそうにしていないから、不安だったぞ。表情が固まっている」
「殿下に気遣いをさせて、申し訳ござません」
「謝るな。願わくは、今日はお前が普段見せない表情も見たいな」
そんな会話をしていると紅茶とシフォンケーキを完食し、ヴィーラントが席を立つ。
「次に向かうか。さあ──」
そう言って、ヴィーラントが私に手を差し伸べる。
それがあまりに自然な動作だったから、私も抵抗なくその手を握ってしまった。
手を繋ぐ──そういえば、ヴィーラントにこういうことをされたのは初めてかもしれない。
もっと切羽詰まった状況だったり、強引に手を取られたことはそうじゃないけどね。
だけど、こういった場面で彼の温かみを感じるのはまた違った感覚だったので、つい戸惑ってしまう。
「……表情が変わったな」
してやったりと言わんばかりにヴィーラントが笑う。
「これは宣言だ。今日はお前の喜ぶことをしよう」
「た、楽しみしておりますわ」
心臓がドキドキする音がうるさくて、私は辛うじてそう言葉を返すことしか出来なかった。
私たちは適当なカフェに入り、向かい合って座っていた。
なのだけど……。
「で、殿下。とても注目されているようですが? 人払いなど、しなくてもよかったのでしょうか?」
ヴィーラントの顔は当然、街の人々にも知られている。そんな王子が街中で普通にお茶をしているものだから、周りはチラチラと私たちを見ていた。
小声でなにか話をする声も聞こえる。そのせいで、先ほどから落ち着かない。
「そうだな……お前はキレイだからな。人々の……特に男からの視線を感じるのは、慣れていると思っていたが?」
「みなさん、殿下を見ているんです!」
つい声を大にしてしまう。
当たり前だ。
私がキレイだ……なんて思ってもいないことを口にされたら、こうなるのも仕方がない。私と彼の婚約には愛が存在しないのだから。
しかしヴィーラントは私の言葉を受けても、涼しげな顔をして紅茶を飲み。
「そうか?」
「そうですよ。全く……どうして、ここなんですか。庶民的な店ではなく、もっと貴族が利用しているようなカフェなら、また違ったものの……」
「ここのシフォンケーキが好きなんだ」
次にヴィーラントは手元のシフォンケーキをフォークで切り分け、口まで運ぶ。
好きとは言っているものの、シフォンケーキを食べても表情が変わらない。本当に美味しいと思っているのか、怪しいところだ。
「それとも、もっと高級な店に連れていってほしかったか?」
「いえ……私もお店自体には満足しているのですが……」
死に戻り前の最後の方は、帝国と戦争をしていたから、日々食べるものにも困っていた。
値段の高い低いで文句をつけたりしないし、こうして食べ物にありつけるだけでも感謝の念が先立つ。
「私はそういうことを言っているんじゃないんです。ここなら、身の安全を確保することも難しいですし……」
「俺のことを心配してくれているのか?」
愉快そうにヴィーラントが問う。
こういう庶民的な店は、高級店と比べて警備も甘い。
私たちが一般人なら気に留める必要もないと思うが、ヴィーラントはこの国の第一王子。常にその御身を気にしなければならない立場だ。
「だが、その心配は無用だ。見えないところでグレンを護衛につかせている」
「グレンさんを?」
「ああ。エルナと二人きりにさせてほしいと頼んでいるから、姿こそ現さないがな。今頃近くで、不審者がいないかと目を光らせているはずだ」
なにか護身的な準備をしているとは思っていたが、全く護衛の気配を感じなかったら意外だ。
それにしても、いつの間にヴィーラントはそんなことを?
もしかしたら、私と二人で出かけることは前もって決められていたことなのかもしれないわね。
「だが、エルナが落ち着かないというのは反省だ。エルナには今日のデートを楽しんでほしい」
「い、いえ、楽しんでいないというわけではないんです。少し緊張しているだけですから」
デートと言われて頬に熱を帯びていくのを感じながら、そう返事をする。
「それはよかった。楽しそうにしていないから、不安だったぞ。表情が固まっている」
「殿下に気遣いをさせて、申し訳ござません」
「謝るな。願わくは、今日はお前が普段見せない表情も見たいな」
そんな会話をしていると紅茶とシフォンケーキを完食し、ヴィーラントが席を立つ。
「次に向かうか。さあ──」
そう言って、ヴィーラントが私に手を差し伸べる。
それがあまりに自然な動作だったから、私も抵抗なくその手を握ってしまった。
手を繋ぐ──そういえば、ヴィーラントにこういうことをされたのは初めてかもしれない。
もっと切羽詰まった状況だったり、強引に手を取られたことはそうじゃないけどね。
だけど、こういった場面で彼の温かみを感じるのはまた違った感覚だったので、つい戸惑ってしまう。
「……表情が変わったな」
してやったりと言わんばかりにヴィーラントが笑う。
「これは宣言だ。今日はお前の喜ぶことをしよう」
「た、楽しみしておりますわ」
心臓がドキドキする音がうるさくて、私は辛うじてそう言葉を返すことしか出来なかった。
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