7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

しんの(C.Clarté)

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第五章〈謎の狙撃手〉編

5.13 新兵器投入(1)

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 10月12日に開戦してから12日間、レ・トゥーレルが砲撃されるまで、イングランド軍は好調だったが、総司令官ソールズベリー伯の戦死で状況は一変した。

 オルレアンの町の外では、脱走兵が相次いだ。
 中でも、イングランドから渡仏してきた下級の兵士たちは生き延びるために野盗化し、オルレアン郊外はもちろん、少し離れた街道を通りすぎる人間まで見境なく襲った。

 10月末から11月初旬にかけて、イングランド軍の残党も包囲戦を遂行する力をほとんど失っていた。

 攻撃するにしろ防衛するにしろ、オルレアンの正面玄関に当たるレ・トゥーレルは攻略の要であるにもかかわらず、イングランド軍は砲撃を恐れてなかなか中に入ろうとしない。

 11月8日、司令官のひとりウィリアム・グラスデールが500人の騎士を連れてようやくレ・トゥーレルに入城したが、戦いを再開する意欲も、撤退する気配も見えない。

 こう着状態が続き、フランス軍総司令官デュノワ伯はいらいらしていた。

「あいつら、やる気あんのか?」

 現実的に考えて、500人で3万人超の都市を攻撃するのは無理だろう。
 しかし、ベッドフォード公がオルレアン攻略を諦めないなら、近いうちに援軍を送り込むはずだ。戦闘再開に備えて、今のうちに準備を整えておかなければならない。

 オルレアンには全部で5カ所の出入り口がある。
 ロワール川を渡る大きな橋とレ・トゥーレルがある正面を除き、4カ所の門は比較的安全が保たれていたので、ブロワ城からの兵站輸送に力を入れた。

 この間に、フランス軍は増援部隊として800人を送り込んだ。
 さらに、新たな兵器として火砲70門と、運用方法に長けた砲手を12人。

 私が愛用するではなく、近距離用の臼砲きゅうほうを選んだのは、鋳造が容易で増産しやすく、未経験の砲手見習いでも扱いやすいからだ。
 臼砲はその名の通り、肉厚な「うす」または「乳鉢」の形をしている。
 砲身が短くて射角が大きいため、ターゲットに精密射撃・狙い撃ちする性能はないが、初心者にはこれで十分だろう。

 オルレアンの城壁には34基の塔があるから、2門ずつ配備できる。
 装填する砲弾の重さは60キロほどで、これも事前に用意しておく。

 戦闘中断がいつまで続くのか。
 包囲戦続行か撤退かを話し合っているのだろうか。
 フランス軍はイングランド軍の出方を待つしかないので、やきもきする。

 リッシュモンは「続行するだろう」と予想したが、そうだとすれば、イングランド軍のこの沈黙は何を意味するのか——。

 オルレアン包囲戦を主導していたソールズベリー伯が亡くなったため、次の作戦を変更するのかもしれない。
 当初の予定では、おそらくレ・トゥーレルからの正面突破を考えていたのだろうが、長い時間をかけて町ごと包囲する方針に切り替えてくるとしたら、城壁全体の防衛力を上げなければならない。そのための新兵器投入だ。




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