7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

しんの(C.Clarté)

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第五章〈謎の狙撃手〉編

勝利王の書斎15:四分儀は大砲の照準器になりえるか

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 第四章から第五章へ——。
 は、歴史小説の幕間にひらかれる。

 こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。
 私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。
 生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。

 ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。
 亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。
 作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、と心得ていただきたい。

 便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。
 作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。




 第五章などとのたまっているが、元を正せば第四章・後半のエピソードである。
 これまでの章と比べて第四章が長すぎるのと、内容の毛色が違いすぎるため、独立して新たな章を立ち上げた。

 無計画な作者の気まぐれにともない、急きょ、章始めの「勝利王の書斎」を書き下ろす羽目になった。

 しかし、恒例の慣用句を思いつかないので、第四章の締めくくりで登場した「四分儀しぶんぎ」について話そうか。

 小説本編で事細ことこまかに説明しているとメインストーリーが進まない上に、それほど重要なアイテムでもない。それゆえ、最低限の描写にとどめたが、このタイミングで「勝利王の書斎」を挟むことになったのはいい機会だ。

 四分儀(quadrant)とは、円を4等分した扇形に目盛りのついた定規と照準類がついた道具のことだ。天体観測の高度計、測量道具、航海道具、時計として使われていた。

 百聞は一見にしかず。

 パブリックドメインの画像をお見せしよう。こういうものだ。




 画像の中心にある、ピザの4分の1ピースみたいなやつが「四分儀」だ。
 天体観測用の据え置き型から、持ち運びできる小型まで、用途に合わせていろいろなサイズがある。

 中世~近世ヨーロッパのこういうギミックが好きなら、そそられるアイテムだと思わないか?

 15世紀前半、発展途上だった火砲・銃火器の命中度を上げるために、四分儀を照準器にした……という記録があるかは不明だ。
 兵器の構造にしろ運用法にしろ統一された規格はまだなく、そもそも火砲を使いこなす人材も少ない。砲手たちはみんな、それぞれが創意工夫で道具を改良し、手探りで技術を向上させてきた。
 手のうちを書き残さず、誰にも教えず、砲手の死とともに失われた運用法もあったかもしれないな。

 余談になるが、「百聞は一見にしかず」をフランス語の慣用句に当てはめると、"Voir c'est croire."
 最後に、いい感じで慣用句に繋がったな。

 さて、時間が来たようだ。
 これより青年期編・第五章〈謎の狙撃手〉編を始める。

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