上 下
85 / 126
第五章〈謎の狙撃手〉編

勝利王の書斎15:四分儀は大砲の照準器になりえるか

しおりを挟む
 第四章から第五章へ——。
 は、歴史小説の幕間にひらかれる。

 こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。
 私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。
 生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。

 ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。
 亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。
 作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、と心得ていただきたい。

 便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。
 作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。




 第五章などとのたまっているが、元を正せば第四章・後半のエピソードである。
 これまでの章と比べて第四章が長すぎるのと、内容の毛色が違いすぎるため、独立して新たな章を立ち上げた。

 無計画な作者の気まぐれにともない、急きょ、章始めの「勝利王の書斎」を書き下ろす羽目になった。

 しかし、恒例の慣用句を思いつかないので、第四章の締めくくりで登場した「四分儀しぶんぎ」について話そうか。

 小説本編で事細ことこまかに説明しているとメインストーリーが進まない上に、それほど重要なアイテムでもない。それゆえ、最低限の描写にとどめたが、このタイミングで「勝利王の書斎」を挟むことになったのはいい機会だ。

 四分儀(quadrant)とは、円を4等分した扇形に目盛りのついた定規と照準類がついた道具のことだ。天体観測の高度計、測量道具、航海道具、時計として使われていた。

 百聞は一見にしかず。

 パブリックドメインの画像をお見せしよう。こういうものだ。




 画像の中心にある、ピザの4分の1ピースみたいなやつが「四分儀」だ。
 天体観測用の据え置き型から、持ち運びできる小型まで、用途に合わせていろいろなサイズがある。

 中世~近世ヨーロッパのこういうギミックが好きなら、そそられるアイテムだと思わないか?

 15世紀前半、発展途上だった火砲・銃火器の命中度を上げるために、四分儀を照準器にした……という記録があるかは不明だ。
 兵器の構造にしろ運用法にしろ統一された規格はまだなく、そもそも火砲を使いこなす人材も少ない。砲手たちはみんな、それぞれが創意工夫で道具を改良し、手探りで技術を向上させてきた。
 手のうちを書き残さず、誰にも教えず、砲手の死とともに失われた運用法もあったかもしれないな。

 余談になるが、「百聞は一見にしかず」をフランス語の慣用句に当てはめると、"Voir c'est croire."
 最後に、いい感じで慣用句に繋がったな。

 さて、時間が来たようだ。
 これより青年期編・第五章〈謎の狙撃手〉編を始める。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

7番目のシャルル、狂った王国にうまれて【少年期編完結】

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
15世紀、狂王と淫妃の間に生まれた10番目の子が王位を継ぐとは誰も予想しなかった。兄王子の連続死で、不遇な王子は14歳で王太子となり、没落する王国を背負って死と血にまみれた運命をたどる。「恩人ジャンヌ・ダルクを見捨てた暗愚」と貶される一方で、「建国以来、戦乱の絶えなかった王国にはじめて平和と正義と秩序をもたらした名君」と評価されるフランス王シャルル七世の少年時代の物語。 歴史に残された記述と、筆者が受け継いだ記憶をもとに脚色したフィクションです。 【カクヨムコン7中間選考通過】【アルファポリス第7回歴史・時代小説大賞、読者投票4位】【講談社レジェンド賞最終選考作】 ※表紙絵は離雨RIU(@re_hirame)様からいただいたファンアートを使わせていただいてます。 ※重複投稿しています。 カクヨム:https://kakuyomu.jp/works/16816927859447599614 小説家になろう:https://ncode.syosetu.com/n9199ey/

追放された王太子のひとりごと 〜7番目のシャルル étude〜

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
救国の英雄ジャンヌ・ダルクが現れる数年前。百年戦争は休戦中だったが、フランス王シャルル六世の発狂で王国は内乱状態となり、イングランド王ヘンリー五世は再び野心を抱く。 兄王子たちの連続死で、末っ子で第五王子のシャルルは14歳で王太子となり王都パリへ連れ戻された。父王に統治能力がないため、王太子は摂政(国王代理)である。重責を背負いながら宮廷で奮闘していたが、母妃イザボーと愛人ブルゴーニュ公に命を狙われ、パリを脱出した。王太子は、逃亡先のシノン城で星空に問いかける。 ※「7番目のシャルル」シリーズの原型となった習作です。 ※小説家になろうとカクヨムで重複投稿しています。 ※表紙と挿絵画像はPicrew「キミの世界メーカー」で作成したイラストを加工し、イメージとして使わせていただいてます。

嵐大好き☆ALSお母さんの闘病と終活

しんの(C.Clarté)
エッセイ・ノンフィクション
アイドル大好き♡ミーハーお母さんが治療法のない難病ALSに侵された! ファンブログは闘病記になり、母は心残りがあると叫んだ。 「死ぬ前に聖地に行きたい」 モネの生地フランス・ノルマンディー、嵐のロケ地・美瑛町。 車椅子に酸素ボンベをくくりつけて聖地巡礼へ旅立った直後、北海道胆振東部大地震に巻き込まれるアクシデント発生!! 進行する病、近づく死。無茶すぎるALSお母さんの闘病は三年目の冬を迎えていた。 ※NOVELDAYSで重複投稿しています。 https://novel.daysneo.com/works/cf7d818ce5ae218ad362772c4a33c6c6.html

ローマ教皇庁に禁書指定されたジャンヌ・ダルク伝

しんの(C.Clarté)
歴史・時代
ノーベル文学賞作家アナトール・フランスの著書「ジャンヌ・ダルクの生涯(Vie de Jeanne d'Arc, 1908)」全文翻訳プロジェクトです。原著は1922年にローマ教皇庁の禁書目録に指定されましたが、現在は制度自体が廃止になっています。

暗愚か名君か、ジャンヌ・ダルクではなく勝利王シャルル七世を主人公にした理由

しんの(C.Clarté)
エッセイ・ノンフィクション
勝利王シャルル七世といえば「ジャンヌ・ダルクのおかげで王になった」と「恩人を見捨てた非情な暗愚」という印象がつきまとう、地味なフランス王です。 ですが、その生い立ちは「設定盛りすぎ」としか言いようがない。 これほど波乱の多い生涯を送った実在の人物はいないのでは…と思うほど、魅力的なキャラクターでした。 百年戦争はジャンヌだけじゃない。 知られざるキャラクターとエピソードを掘り起こしたくて……いや、私が読みたいから! ついに自給自足で小説を書き始めました。 ※表紙絵はPaul de Semantによるパブリックドメインの画像を使用しています。

◆アルファポリスの24hポイントって?◆「1時間で消滅する数百ptの謎」や「投稿インセンティブ」「読者数/PV早見表」等の考察・所感エッセイ

カワカツ
エッセイ・ノンフィクション
◆24h.ptから算出する「読者(閲覧・PV)数確認早見表」を追加しました。各カテゴリ100人までの読者数を確認可能です。自作品の読者数把握の参考にご利用下さい。※P.15〜P.20に掲載 (2023.9.8時点確認の各カテゴリptより算出) ◆「結局、アルファポリスの24hポイントって何なの!」ってモヤモヤ感を短いエッセイとして書きなぐっていましたが、途中から『24hポイントの仕組み考察』になってしまいました。 ◆「せっかく増えた数百ptが1時間足らずで消えてしまってる?!」とか、「24h.ptは分かるけど、結局、何人の読者さんが見てくれてるの?」など、気付いた事や疑問などをつらつら上げています。

レジェンド賞最終選考で短評をいただいたのでセルフ公開処刑する

しんの(C.Clarté)
エッセイ・ノンフィクション
拙作「7番目のシャルル 〜狂った王国にうまれて〜」が講談社の第一回レジェンド賞最終選考に残り、惜しくも受賞は逃しましたが短評をいただく運びとなりました。 選考過程の評価になるため批判的なコメントもありますが、とても勉強になりました(皮肉ではなく)。 このページは作者自身の後学のための備忘録です。同時に、小説家志望者の参考になるかもしれません。 ※このエッセイおよび「7番目のシャルル 〜狂った王国にうまれて〜」は小説家になろうで重複投稿しています。 ※表紙絵はPaul de Sémant作による著作権切れのイラストを使用しています。

母の遺言と祖母の手帳 〜ALSお母さんの闘病と終活・後日談〜

しんの(C.Clarté)
エッセイ・ノンフィクション
母の遺品整理をしていたら祖母の手帳を発見。母から「棺に入れて燃やして」と頼まれていたが火葬まで数日猶予があるため、私は謎めいた祖母の手記を読み始める—— ノンフィクションエッセイ「嵐大好き☆ALSお母さんの闘病と終活」の後日談です。前作は画像が200枚に達したため、こちらで改めて。 ▼前作「嵐大好き☆ALSお母さんの闘病と終活」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/394554938/525255259

処理中です...