7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

しんの(C.Clarté)

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第四章〈オルレアン包囲戦・開戦〉編

勝利王の書斎14:マドモワゼル・ベルヴィル

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 第三章から第四章へ——。
 は、歴史小説の幕間にひらかれる。

 こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。
 私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。
 生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。

 ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。
 亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。
 作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、と心得ていただきたい。

 便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。
 作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。



 さて、いつもの前置きはこのくらいにして、今回の「書斎」では第三章の締めくくりで登場した異母妹マルグリット・ド・ヴァロワについて話そうか。

 亡き父シャルル六世と、狂王の世話をしていた侍女オデット・ド・シャンディベールの間に生まれた私生児の娘だ。1428年1月、オルレアン包囲戦が始まる年の初めに再会し、庶子の王女として認知した。
 かのジャンヌ・ダルクと対面する一年前の出来事だ。
 一介の村娘であるジャンヌが、フランス王に面会できたのは王家の隠し子だからだという説を見かけるが、たぶん、マルグリットと再会した件と混同しているのだろう。

 異母妹は歴史の表舞台には登場しない。
 王女、王妹として認知したといっても、幼い頃から貴婦人として教育を受けたマリー・ダンジューや私の姉王女たちとは違う。政治的な能力や教養を学んでいないから、政略の駒としては使えないし、宮廷政治に首を突っ込まれても困る。母方の実家はブルゴーニュ派だから、私以外に後ろ盾になる親族もいない。

 ようするに、マルグリットに政略的な価値はほとんどない。
 それでも妹として認知したのは、個人的な良心の問題だ。

 兄として望むことはただひとつ。
 不遇な少女時代を取り戻すくらい幸せになってほしい。
 亡きオデットもそう願っているはずだ。

 妹の人生はあまりにも波乱万丈だった。悲劇的な生い立ちと、健気でありながら不屈の精神力……、読者諸氏の時代でたとえるならディズニープリンセスの座に据えてもいいくらいだ。我が妹ながら、抜群の女性人気を誇るヒロインになれると思うのだがどうだろう。(シスコンと言ったのは誰だ!)

 マルグリットのプリンセスストーリーは、生き別れの兄王と再会してハッピーエンドを迎えるが、シャルル七世の物語はまだまだ続く。私は若いし、先は長い。

 残念ながら、この小説のメインストーリー(歴史の本流)でマルグリットが再登場する可能性は低い。

 だから、本編の代わりにここで後日談を紹介しよう。
 異母妹マルグリットは、私が信頼する侍従のひとりベルヴィル伯爵の息子と結婚し、宮廷では「マドモワゼル・ベルヴィル」と呼ばれるようになる。
 マリー・ダンジューやアニエス・ソレルと仲が良く、結婚後も微笑ましい手紙をやりとりしている。女性中心の宮廷の雰囲気がいいのは、王妃であるマリーの人徳だろうな。



 ……えっ、アニエス・ソレルのことも何か言えと?
 ふさわしい時が来たら話すから、もうしばらく待ってほしい。

 さて、時間が来たようだ。
 これより青年期編・第四章〈オルレアン包囲戦・開戦〉編を始める。

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