7番目のシャルル、聖女と亡霊の声

しんの(C.Clarté)

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第三章〈大元帥と大侍従〉編

勝利王の書斎13:ワインに水を注ぐ

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 第二章から第三章へ——。
 は、歴史小説の幕間にひらかれる。

 こんにちは、あるいはこんばんは(Bonjour ou bonsoir.)。
 私は、生と死の狭間にただようシャルル七世の「声」である。実体はない。
 生前、ジャンヌ・ダルクを通じて「声」の出現を見ていたせいか、自分がこのような状況になっても驚きはない。たまには、こういうこともあるのだろう。

 ただし、ジャンヌの「声」と違って、私は神でも天使でもない。
 亡霊、すなわちオバケの類いだと思うが、聖水やお祓いは効かなかった。
 作者は私と共存する道を選び、記録を兼ねて小説を書き始めた。この物語は、私の主観がメインとなるため、と心得ていただきたい。

 便宜上、私の居場所を「勝利王の書斎」と呼んでいる。
 作者との約束で、章と章の狭間に開放することになっている。



 少年期編から恒例となっている、各章冒頭を飾るフランスの慣用句シリーズ。
 今回は……。

 "Mettre l’eau dans son vin,"

 直訳すると「ワインに水を注ぐ」だ。

 読者諸氏の多数を占める日本語話者からすると、「水を差す」「質が落ちる」など、良くない状態を想像するかもしれない。
 しかし、この慣用句は「濃いものを薄める」という意味から転じて、「性格が丸くなる」「野心を抑える」といった意味になる。

 作中、この時代のリッシュモン大元帥は、まさに濃すぎるワインのような性格だ。
 強すぎる正義感・潔癖ぶりを抑えて、もう少し柔らかく丸くなってほしいものだが……・
 リッシュモンが芳醇なワインだとしたら、ちょうどよく薄める「水」の役目を果たすのは一体誰だろうな?

 さて、時間が来たようだ。
 これより青年期編・第三章〈大元帥と大侍従〉編を始める。


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