上 下
6 / 13
母の遺言と祖母の手帳

祖母の手帳(3)あほうあほう

しおりを挟む
 「祖母の手帳」シリーズの続きです。
 読みやすいように、一部の字(旧字?誤字?当て字?)を直して句読点を入れています。




——悔やむ心はひとつも無いが
七年前、病に負けて社会復帰も断念し
ただ抜け殻の身となれど
子供たちの励ましに頼りつつ
今日も孫の手ひいて山遊び

これで良いかとカラスに問えば、
あほうあほうと言わるるばかり——


 「あほうあほう」に、思わずクスリと笑いがこみ上げます。
 なかなかどうして、可愛らしいおばあちゃんではありませんか。

 生前を知るある親戚によると、祖母は「学のない馬鹿みたいな女」だと聞いていましたが、手帳に書かれた言葉は哲学者のようです。
 愛嬌と地頭の良さが滲み出ていて、独特の味わい深さがあります。



——四姉妹、無能な母をよく助け
いばらの道も迷わずに、皆すこやかに
幸せな家庭の主婦に、子の母に
この喜びを、誰に語らん——


 祖母の手帳はここで終わりです。
 祖母は少女時代に東京のある下町で関東大震災を経験しています。
 さらに終戦後は、満洲・奉天市から女手一つで女児三人(当時小学生~乳児だった伯母たち)を連れて生還した女丈夫でした。

 祖母が手帳に記したとおり、その人生はまさに「茨の道」。
 激動の時代を、波乱と苦難の人生を生き抜いてハッピーエンドを迎えたように……見えますよね。
 内輪の話になるためここでは触れませんが、本当にたくさんのことがあったのです。ここまでよく生きてこれたなぁと思うくらいに。

「憂きことのなおこの上に積もれかし、限りある身の力ためさん」

 辛抱強かった祖母と、我慢強かった母。

 遺品整理をきっかけに、母方のルーツを知ることになりました。
 私は「あほうあほう」な部分しか受け継いでませんが、今のところ平穏に生きています。




 母がベッドサイドに残した走り書きのメモです。
 祖母の手帳はもうこの世にありませんが、このメモ帳は残っています。
 将来、私がこの世を去るときに燃やしてもらうのかもしれません。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嵐大好き☆ALSお母さんの闘病と終活

しんの(C.Clarté)
エッセイ・ノンフィクション
アイドル大好き♡ミーハーお母さんが治療法のない難病ALSに侵された! ファンブログは闘病記になり、母は心残りがあると叫んだ。 「死ぬ前に聖地に行きたい」 モネの生地フランス・ノルマンディー、嵐のロケ地・美瑛町。 車椅子に酸素ボンベをくくりつけて聖地巡礼へ旅立った直後、北海道胆振東部大地震に巻き込まれるアクシデント発生!! 進行する病、近づく死。無茶すぎるALSお母さんの闘病は三年目の冬を迎えていた。 ※NOVELDAYSで重複投稿しています。 https://novel.daysneo.com/works/cf7d818ce5ae218ad362772c4a33c6c6.html

おしまいファイル

はまだかよこ
エッセイ・ノンフィクション
私、68歳、楽しく終活中です 先日遺影を撮りに行ってきました ちょっと聞いて下さいます?

真夏の温泉物語

矢木羽研
青春
山奥の温泉にのんびり浸かっていた俺の前に現れた謎の少女は何者……?ちょっとエッチ(R15)で切ない、真夏の白昼夢。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

父(とと)さん 母(かか)さん 求めたし

佐倉 蘭
歴史・時代
★第10回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ ある日、丑丸(うしまる)の父親が流行病でこの世を去った。 貧乏裏店(長屋)暮らしゆえ、家守(大家)のツケでなんとか弔いを終えたと思いきや…… 脱藩浪人だった父親が江戸に出てきてから知り合い夫婦(めおと)となった母親が、裏店の連中がなけなしの金を叩いて出し合った線香代(香典)をすべて持って夜逃げした。 齢八つにして丑丸はたった一人、無一文で残された—— ※「今宵は遣らずの雨」 「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

自称サバサバ女の友人を失った話。

夢見 歩
エッセイ・ノンフィクション
あなたの周りには居ませんか? 「私ってサバサバしてるからさぁ」が口癖の女の人。

アルファポリスの収益が1円なんだが?10日かけて10時間、3万字書いて1円。あまりにも悲しいので呟いてみた。

節約戦隊タメルンジャー!
エッセイ・ノンフィクション
10時間くらいかけて書いた作品『十五年で四千万貯金したので家を買ってみた。ドケチ主婦が誰でもできる節約技と安く家を買う方法を熱く語ってみる。』の収益が1円で泣けてきたので呟いてみました。「ツイッターかよ?」というくらい短い作品です。

先日、恋人が好きじゃなくなりました。

さとう たなか
エッセイ・ノンフィクション
同性の恋人にふられた作者が、相手に振られた直後PCやノートに打ち殴り書いた文章です。 なぜだか語り口調です。 記憶がないので理由が説明できません(笑) 最近、我を取り戻し見直してみた所、相当病んでいたのか、大量に文章があったので、これはもったいないなと、思ったのでメモとして残すことにしました。 相手の名前は伏せて、その時書いたものをそのままにしております。 情緒不安定でイタい仕上がりになっておりますがご了承ください。

ただの独り言。

名無し。
エッセイ・ノンフィクション
ここでは日常の中で思ったことや ふと感じた事を書いていこうと思います。日記みたいな物です 感想でも何でも,気軽にどうぞ

処理中です...