196 / 203
番外編・短編など
リッシュモン元帥のひとりごと(1)勝利王の書斎
しおりを挟む
(※)シャルル七世と再会、臣従して1年後。新たな感情に目覚めつつあるリッシュモンの話。
若きフランス王、シャルル七世陛下にお仕えして一年。
おぼろげながら性格と人となりが見えてきたので私見を述べる。
・怠惰
・威厳がない
・だらしない
・やる気がない
・移り気、飽きっぽい
・エキセントリック(風変わり)
・メランコリック(無気力、物憂げ)
・ミステリアス(謎めいている、神秘的)
・ぼろを着ている、質素で身なりにこだわらない
・意地の悪さ・悪意・恨みなど邪悪なところがない
・臆病かと思えば、心が定まると驚くような勇気を示す——
先日、臣従を誓ってからわずか一年でフランス王国軍の元帥位に叙任された。
元帥とは王国軍全軍を指揮する司令官のことだ。
軍においては、王に次ぐナンバー2の身分である。
アンジュー公妃ヨランド・ダラゴンの口利きもあったのだろうが、陛下は軍閥貴族たちの馴れ合いに耳を貸さなかった。陛下から賜った贈り物——元帥位を我が生涯の宝とする。
王国軍すべてを任されるほど信頼を得られたのは僥倖である。
だが、オルレアンの私生児ことデュノワ伯ジャン、ルネ・ダンジューほどにはまだ愛されていない。
幼きころに陛下が切望していた父君や兄君のように慕ってほしい。心を開いて頼ってほしい。
若き陛下は、誰にでも分け隔てなく優しいが、裏を返せば取り巻きに流されやすい。
王の正義を執行するためには、宮廷の人事を掌握して、無能で不忠義な逆臣たちを排除しなければならない。
臣従を誓って以来、365日24時間、昼夜を問わず、私はシャルル陛下と王国の将来について考えている。
誰よりも信頼されたい。
誰よりも寵愛されたい。
誰よりもあの方を——シャルルを幸せにしたい。
***
あとがき代わりに、勝利王の書斎を開放しよう。
上の話「リッシュモン元帥のひとりごと」は作者のシュミ・性癖が暴走した創作——ではなく、一応は根拠がある。
リッシュモンの副官ギヨーム・グリュエルは、戦時は盾持ち、平時は書記として仕えていたが、もしかしたらブルゴーニュ公の諜報員だったかもしれない。
筆まめな性分で、リッシュモンの言動や出来事について事細かに記録している。
上官に心酔しており、リッシュモンをとにかく褒めちぎる。
その一方で、私ことシャルル七世は辛口評価が多く、しばしば「王はリッシュモン閣下の功績をもっと評価すべき」と嘆いている。
グリュエルの手記によると、リッシュモンの忠誠心は「三段階」の変遷を遂げる。
・第一段階「家臣の中で一番信頼されたい、師傅と思って欲しい」
(師傅とは、父親代わりに貴人を養育する傅役のことだ)
・第二段階「一番信頼されている。だが、デュノワやルネ・ダンジューより愛されてない」
(嫉妬だろうか。私に愛されたかったのか?)
・第三段階「シャルルを幸せにする。我が生涯、すべての時間、ずっとそのことばかり考えている」
(これはもう忠誠心を超越して愛ではないだろうか。あの堅物め……)
なお、第三段階では、私に直接このような(↑)内容の手紙を送ってきた。
信頼されたい、愛されたい、幸せにしたい——か。
なんだかこそばゆい気がする。
こういうとき、どんな顔をすればいいのだろう。
なお、私のゴーストライターを務める作者は「笑えばいいと思うよ(笑ってごまかそう)」と言いながらにやにやしてこれを書いている。
少々、腐っているようだ。
あいにく、本作「7番目のシャルル」は全年齢向けゆえ、BL(ボーイズラブ)展開はない。
せいぜい臣従儀礼の「誓いの接吻」どまりだ。
えっ、抑制的な関係もそそるって?
うぅむ、こういうときどんな顔をすれば……。
この物語を読んでいる読者諸氏の時代風にいえば、リッシュモンの「クソデカ感情」をともなう「忠誠心」はどこから来るのだろうな。当時、同性愛はタブーだが、臣従・主従関係はブロマンス的な美学だといえよう。
***
青年期編に備えて、作者はいくつか新しい資料を入手した。
その中に、私の前任のベリー公が「同性愛者用の衣装を注文した」という記述があった。「いとも豪華なる時祷書」で有名なあのベリー公である。
建前上、同性愛はあってはならないが、古代ギリシャ・ローマ時代は男色文化が盛んだったと聞く。禁断の愛は燃え上がるというし、本気であれ遊びであれ、こっそり嗜む者はいたのだろう。
私は異端審問官ではないから、当人同士が了承しているなら咎めるつもりはない。
……で、私とリッシュモンはどうだったかって?
こういうときどんな顔をすれば(以下略)
(※)異端審問・討伐が苛烈だったのは托鉢修道会のひとつドミニコ会です。「黒衣の修道会」「主の犬」と呼ばれ、畏怖されていたとか。ちなみにシャルル七世は(おそらく)聖アウグスティヌ会推し、マリー・ダンジューはシトー会推しなので穏健派です。
若きフランス王、シャルル七世陛下にお仕えして一年。
おぼろげながら性格と人となりが見えてきたので私見を述べる。
・怠惰
・威厳がない
・だらしない
・やる気がない
・移り気、飽きっぽい
・エキセントリック(風変わり)
・メランコリック(無気力、物憂げ)
・ミステリアス(謎めいている、神秘的)
・ぼろを着ている、質素で身なりにこだわらない
・意地の悪さ・悪意・恨みなど邪悪なところがない
・臆病かと思えば、心が定まると驚くような勇気を示す——
先日、臣従を誓ってからわずか一年でフランス王国軍の元帥位に叙任された。
元帥とは王国軍全軍を指揮する司令官のことだ。
軍においては、王に次ぐナンバー2の身分である。
アンジュー公妃ヨランド・ダラゴンの口利きもあったのだろうが、陛下は軍閥貴族たちの馴れ合いに耳を貸さなかった。陛下から賜った贈り物——元帥位を我が生涯の宝とする。
王国軍すべてを任されるほど信頼を得られたのは僥倖である。
だが、オルレアンの私生児ことデュノワ伯ジャン、ルネ・ダンジューほどにはまだ愛されていない。
幼きころに陛下が切望していた父君や兄君のように慕ってほしい。心を開いて頼ってほしい。
若き陛下は、誰にでも分け隔てなく優しいが、裏を返せば取り巻きに流されやすい。
王の正義を執行するためには、宮廷の人事を掌握して、無能で不忠義な逆臣たちを排除しなければならない。
臣従を誓って以来、365日24時間、昼夜を問わず、私はシャルル陛下と王国の将来について考えている。
誰よりも信頼されたい。
誰よりも寵愛されたい。
誰よりもあの方を——シャルルを幸せにしたい。
***
あとがき代わりに、勝利王の書斎を開放しよう。
上の話「リッシュモン元帥のひとりごと」は作者のシュミ・性癖が暴走した創作——ではなく、一応は根拠がある。
リッシュモンの副官ギヨーム・グリュエルは、戦時は盾持ち、平時は書記として仕えていたが、もしかしたらブルゴーニュ公の諜報員だったかもしれない。
筆まめな性分で、リッシュモンの言動や出来事について事細かに記録している。
上官に心酔しており、リッシュモンをとにかく褒めちぎる。
その一方で、私ことシャルル七世は辛口評価が多く、しばしば「王はリッシュモン閣下の功績をもっと評価すべき」と嘆いている。
グリュエルの手記によると、リッシュモンの忠誠心は「三段階」の変遷を遂げる。
・第一段階「家臣の中で一番信頼されたい、師傅と思って欲しい」
(師傅とは、父親代わりに貴人を養育する傅役のことだ)
・第二段階「一番信頼されている。だが、デュノワやルネ・ダンジューより愛されてない」
(嫉妬だろうか。私に愛されたかったのか?)
・第三段階「シャルルを幸せにする。我が生涯、すべての時間、ずっとそのことばかり考えている」
(これはもう忠誠心を超越して愛ではないだろうか。あの堅物め……)
なお、第三段階では、私に直接このような(↑)内容の手紙を送ってきた。
信頼されたい、愛されたい、幸せにしたい——か。
なんだかこそばゆい気がする。
こういうとき、どんな顔をすればいいのだろう。
なお、私のゴーストライターを務める作者は「笑えばいいと思うよ(笑ってごまかそう)」と言いながらにやにやしてこれを書いている。
少々、腐っているようだ。
あいにく、本作「7番目のシャルル」は全年齢向けゆえ、BL(ボーイズラブ)展開はない。
せいぜい臣従儀礼の「誓いの接吻」どまりだ。
えっ、抑制的な関係もそそるって?
うぅむ、こういうときどんな顔をすれば……。
この物語を読んでいる読者諸氏の時代風にいえば、リッシュモンの「クソデカ感情」をともなう「忠誠心」はどこから来るのだろうな。当時、同性愛はタブーだが、臣従・主従関係はブロマンス的な美学だといえよう。
***
青年期編に備えて、作者はいくつか新しい資料を入手した。
その中に、私の前任のベリー公が「同性愛者用の衣装を注文した」という記述があった。「いとも豪華なる時祷書」で有名なあのベリー公である。
建前上、同性愛はあってはならないが、古代ギリシャ・ローマ時代は男色文化が盛んだったと聞く。禁断の愛は燃え上がるというし、本気であれ遊びであれ、こっそり嗜む者はいたのだろう。
私は異端審問官ではないから、当人同士が了承しているなら咎めるつもりはない。
……で、私とリッシュモンはどうだったかって?
こういうときどんな顔をすれば(以下略)
(※)異端審問・討伐が苛烈だったのは托鉢修道会のひとつドミニコ会です。「黒衣の修道会」「主の犬」と呼ばれ、畏怖されていたとか。ちなみにシャルル七世は(おそらく)聖アウグスティヌ会推し、マリー・ダンジューはシトー会推しなので穏健派です。
0
お気に入りに追加
192
あなたにおすすめの小説
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫から国外追放を言い渡されました
杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。
どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。
抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。
そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……
従妹と親密な婚約者に、私は厳しく対処します。
みみぢあん
恋愛
ミレイユの婚約者、オルドリッジ子爵家の長男クレマンは、子供の頃から仲の良い妹のような従妹パトリシアを優先する。 婚約者のミレイユよりもクレマンが従妹を優先するため、学園内でクレマンと従妹の浮気疑惑がうわさになる。
――だが、クレマンが従妹を優先するのは、人には言えない複雑な事情があるからだ。
それを知ったミレイユは婚約破棄するべきか?、婚約を継続するべきか?、悩み続けてミレイユが出した結論は……
※ざまぁ系のお話ではありません。ご注意を😓 まぎらわしくてすみません。
元婚約者様の勘違い
希猫 ゆうみ
恋愛
ある日突然、婚約者の伯爵令息アーノルドから「浮気者」と罵られた伯爵令嬢カイラ。
そのまま罵詈雑言を浴びせられ婚約破棄されてしまう。
しかしアーノルドは酷い勘違いをしているのだ。
アーノルドが見たというホッブス伯爵とキスしていたのは別人。
カイラの双子の妹で数年前親戚である伯爵家の養子となったハリエットだった。
「知らない方がいらっしゃるなんて驚きよ」
「そんな変な男は忘れましょう」
一件落着かに思えたが元婚約者アーノルドは更なる言掛りをつけてくる。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる