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第二章〈王子と婚約者〉編
勝利王の書斎02「夜は助言をもたらす(La nuit porte conseil)」
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Bonjour、またはBonsoir!
ここまでお読みいただきありがとう。作者のC・クラルテである。
いまご覧いただいている本ページ「勝利王の書斎」の通し番号が「02」から始まっているのは、少し前まで「01」が存在し、すでに消滅したからだ。
書斎は「ゆらぎ」の中にあり、いつ消えてもおかしくない。
さて、サブタイトルに注目していただこう。
"La nuit porte conseil."
フランスの慣用句で「夜は助言をもたらす」という意味だ。
賢明なる読者諸氏から「この小説は視点がブレている、わかりにくい」という意見を拝聴した。私としてはごく自然ななりゆきなのだが、端から見ると不自然に見えるのかもしれない。
人々に説明を求められたとき、適切に答えるのも君主の務めだろう。
私が生きていたころは三部会という議会があって……
いや、いま、この話をするのはやめておこう。
ただでさえ年寄りの話は長いのだから。
現在の私は、国王の務めから解き放たれて自由を満喫している。
説明責任を果たす義務も義理もない。
だが、身分に関係なく、人間同士の信頼とは対話によって築かれるものだ。
よく知らない相手との対話は誤解を招きやすく、そのたびに訂正する必要がある。
読者の求めに対して、王の務めや責任ではなく、ひとりの人間として期待に応えたいと思う。
そこで、第二章を始める前に、この「物語の語り手」について少し説明をしよう。
私が何者で、今、どこにいるのかを。
***
ここは時代と空間を超越した次元の狭間。
とある業界では、信念体系領域(Belief System Territory/ビリーフ・システム・テリトリー)とも呼ばれている。神学・心理学・哲学・スピリット分野を体系的に学んだ者なら聞いたことがあるかもしれない。
説明は省くが、とてもデリケートでプライベートな領域だ。
……そうだな。
便宜上、「勝利王の書斎」と呼ぶことにしよう。
私のスペシャルプレイスである。
私の名はシャルル(Charles)。
父も祖父も同じ名で、いずれもフランス王国の王だった。
第一章の最後、アンジューへ旅立ったときの私は10歳だったが、ストーリーテラーとしての私はもっとずっと先の未来、つまり「今ここ」にいる。
私は1403年2月22日に生まれて、1461年7月22日に死んだ。享年58歳。
この物語は、私の回顧録なのだ。
ある時は、若かりし自分の心境を思い出しながら、またある時は、神のごとき視点で世界を俯瞰し、過去を回想しながらこの物語を記している。
今となっては、何もかもが懐かしい。
さて、時間が来たようだ。
これより第二章〈王子と婚約者〉編を始める。
ここまでお読みいただきありがとう。作者のC・クラルテである。
いまご覧いただいている本ページ「勝利王の書斎」の通し番号が「02」から始まっているのは、少し前まで「01」が存在し、すでに消滅したからだ。
書斎は「ゆらぎ」の中にあり、いつ消えてもおかしくない。
さて、サブタイトルに注目していただこう。
"La nuit porte conseil."
フランスの慣用句で「夜は助言をもたらす」という意味だ。
賢明なる読者諸氏から「この小説は視点がブレている、わかりにくい」という意見を拝聴した。私としてはごく自然ななりゆきなのだが、端から見ると不自然に見えるのかもしれない。
人々に説明を求められたとき、適切に答えるのも君主の務めだろう。
私が生きていたころは三部会という議会があって……
いや、いま、この話をするのはやめておこう。
ただでさえ年寄りの話は長いのだから。
現在の私は、国王の務めから解き放たれて自由を満喫している。
説明責任を果たす義務も義理もない。
だが、身分に関係なく、人間同士の信頼とは対話によって築かれるものだ。
よく知らない相手との対話は誤解を招きやすく、そのたびに訂正する必要がある。
読者の求めに対して、王の務めや責任ではなく、ひとりの人間として期待に応えたいと思う。
そこで、第二章を始める前に、この「物語の語り手」について少し説明をしよう。
私が何者で、今、どこにいるのかを。
***
ここは時代と空間を超越した次元の狭間。
とある業界では、信念体系領域(Belief System Territory/ビリーフ・システム・テリトリー)とも呼ばれている。神学・心理学・哲学・スピリット分野を体系的に学んだ者なら聞いたことがあるかもしれない。
説明は省くが、とてもデリケートでプライベートな領域だ。
……そうだな。
便宜上、「勝利王の書斎」と呼ぶことにしよう。
私のスペシャルプレイスである。
私の名はシャルル(Charles)。
父も祖父も同じ名で、いずれもフランス王国の王だった。
第一章の最後、アンジューへ旅立ったときの私は10歳だったが、ストーリーテラーとしての私はもっとずっと先の未来、つまり「今ここ」にいる。
私は1403年2月22日に生まれて、1461年7月22日に死んだ。享年58歳。
この物語は、私の回顧録なのだ。
ある時は、若かりし自分の心境を思い出しながら、またある時は、神のごとき視点で世界を俯瞰し、過去を回想しながらこの物語を記している。
今となっては、何もかもが懐かしい。
さて、時間が来たようだ。
これより第二章〈王子と婚約者〉編を始める。
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