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火の王国編

え、私見入ってる?

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 私たちは早速ドーゴの街に戻り、カラクリ時計に向かった。道中、街から追い出そうと声を荒らげていた老婆ともすれ違ったが怪訝な視線を向けられただけで特に何か言われるわけでもなかった。おそらく先ほどの使者が手回しをしてくれたのだろう。

 刺すような視線の中カラクリ時計の前まで来ると、私はその迫力に声を失った。ゲーム内だとそこまで印象に残るデザインというわけではなかった。だからこそ目の前にすると衝撃を受けるほど見入ってしまった。

 カラクリ時計は高さ5mほどの時計塔のような形。塔と言っても和風の塔で、法隆寺などにある五重塔にイメージが近い。時計盤以外の壁面では人形や動物の彫り物が毎秒何かしらの物語を思わせる動きを見せ、それだけでも1日中見ていられる。上部にある時計盤には時間が分かりやすいシンプルな針。しかし数字の下にはそれぞれ小窓があって、長針が通過する瞬間に開いて中から人形が顔を出す。今は午後の4時55分。11の文字の下にある小窓が開いて老夫婦の人形が仲良さそうにお茶を飲んでいる姿を見せる。小さな人形なのに表情まで豊かでまるで生きているかのよう。

「これは……素晴らしいですね」

 カラクリ時計を見ながらメアリーが私の隣でつぶやいた。素晴らしいの言葉だけで済ませるのは失礼にも思えるカラクリ時計。けれどそれ以上に言葉が出ないのも事実。周囲を警戒しているクロード以外は皆カラクリ時計に釘付けだった。

 カラクリ時計の前に到着してから黙っていてもあっという間に5分がたつ。長針はそろそろ12を指す。

「え、え、何これ」

 長針が12を指した瞬間。時計塔そのものが動き始める。5mもある時計塔はさらに高く伸び、5階層に分かれていた各階層も扉が開くように広がりを見せる。時計塔の中まで見えるようになると、まるで人形が自ら劇を演じるかのように動く。

 1番下の階層では鳥たちと戯れる人々。2番目ではその鳥たちと山へ冒険に向かう様子。そこから上は鳥たちと竜と戦い、温泉が湧き、大きな城で祭りが開かれる。そして最上部の時計盤は裏返り、そこでは2人の男女が城で結ばれる……という流れ。

 これは火の国の成り立ちが演じられている人形劇。確かにゲームでも町人からそんなことを聞いた気もする。しかし実物を見ると自分の時間が止められたかのように見入ってしまう。

「はっ!! みんな急いで!! 隠し部屋に向かうよ!!」

 そこで私は思い出した。いや、忘れていたわけではないけど。ただカラクリ時計を見ているのが楽しくて忘れていたわけじゃないけど。人形劇の最中だけど私はみんなを率いてカラクリ時計の裏に繋がっている建物の入り口へと向かった。

「人が足を止める時、足音を立てない者が扉をくぐる――」

 それはゲームでヒントとして聞くことができる話。人が足を止めて見入ってしまうカラクリ時計の人形劇。その瞬間にだけ開く忍者屋敷の隠し部屋。

「時計のあるこの建物。温泉宿牡丹屋。ここが忍者屋敷で、カラクリ時計に隣接している壁こそが人形劇が1番盛り上がっている瞬間にだけ開く隠し部屋への通路なの」

 人形劇が終わるまであまり時間がない。これを逃すとまた1時間待ちになる。

 ……それはそれでまだカラクリ時計を見ていられるからアリなのか?
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