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水の王国編

え、私戦争の火種?

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 16隻の舟の乗員は全員私に注目する。しかしこの祭りの中で私は全員に聞こえるほどの声を出す自信はない。

「レジーナ様。こちらをどうぞ」

 そう言ってティードは手のひらに収まるサイズの石を渡してきた。

「拡声石です。これでレジーナ様の声も聞こえるはずです」

 まるで私の心を読んだかのようなタイミング。とてもありがたい。

「あーあー」

 拡声石でマイクテストをして私は話し始めた。

「この国のどぶろく造りの職人の皆さんこんにちは。私はレジーナ・フルハイムと言います。祭りを楽しんでる中無理矢理こんなところに呼び出してすみません」

 職人たちは特に気にしている様子もなく私を見る。怒ったりはしていないみたいだ。

「実は折り入ってお願いがあるんです」

 何と伝えれば良いか。そういえば報酬なども考えないといけない。でもやっぱり目的をちゃんと伝えるのが先だよね。なんて思って私は自分の気持ちを素直に伝えることにした。報酬なんかは後で自分が払えるものを好きなだけ差し出せば良い。

「私、この国のお酒が飲みたいんです!」

 目的なんてただそれだけ。馬鹿にして笑われるかもしれない。でも目的を誤魔化すようなことはやっぱり良くない。ちゃんとしてない。

「今からお酒造りに協力してくれませんか? 私も魔法で力になります!」

 そう言うと目の前の職人たちは皆して笑い出した。やっぱり馬鹿なことを言ってると思われたんだろうな。無理だと、やりたくないと一蹴されるんだろうな。

「お嬢ちゃん! この国で1番美味い酒が飲みたいんだろ? じゃあ俺の酒に決まってる。今から蔵に案内してやるよ!」

 拡声石も使っていないのに私のところまで届く大声で職人の1人がそう言った。

「何言ってんだ! 女の子が喜ぶ酒と言えばウチの鶴旗だろうが!」
「いいや、一昨年の品評会で金賞取ったウチの幸水だ!」
「何言ってやがる!」

 そうして船上で大声が飛び交う。え、みんな結構乗り気?

「皆さん協力してくれるんですか?」
「これは戦争だ!」

 え、私戦争の火種になったの? でも協力してくれるならそれに越したことはない。

「この人数のバラバラの酒蔵を行き来していたら時間がいくらあっても足りません。王宮が所有する酒蔵を使いましょう」
「え、そんなのがあるんですか?」

 ティードの提案に職人たちも目の色を変える。おそらく最高の設備を使えることへの楽しみみたいなものだろうか。

「お嬢ちゃんを喜ばせる酒を作ったやつの勝ちだ。それで良いな?」

 職人の1人がそう言うとさらに熱気が高まった。こういう仕事に対して前向きな姿勢は接していてとても心地良い。社畜時代の商談を思い出す。どの会社が1番良い物を出せるかを競い契約を結ぶ。社運を賭けた戦いだったけど、もしかすると今回も人生を賭けた戦いのようなものになってしまってるのかもしれない。

「レジーナちゃんを喜ばすのは俺だ!」
「何言ってやがる! 俺が喜ばせるんだ!」

 なんだかちょっと風向きがおかしい気もするけど。
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