上 下
25 / 66
水の王国編

え、私心配されてる?

しおりを挟む
 土の王国を出発した私たちが次に向かったのは水の王国。氷の王国がある山脈から流れ来る川。どこまでも広がるかのような湖。そして湖の中心に沈む水の王国。ゲームの設定では古代魔法によって巨大な空気のドームが作られているとされている。

「お姉さま。水の王国はどのような国なのですか?」

 馬車に揺られながらアリスが私に問いかける。

「大きな湖の中にある国で360度どこを見ても水。空を見上げても水。透き通った水の中を色とりどりの魚が泳いでて、日の光が差し込む時間帯は宝石箱の中にいるみたいよ」
「宝石箱の中の国! それはまた美しい国なのでしょう!」

 アリスは目を輝かせて私の話を聞く。私もゲーム内の知識しか知らないので実際に自分の目で見るのが楽しみだ。土の王国で見たとうもろこし畑の迫力を思うと水の王国も間違いなくゲームを超える美しさなのだろう。

「楽しみね」
「はい!」

 元気よく答えるアリスはやっぱり可愛らしい。この笑顔、守るしかない。

「ところでお姉さま」
「ん?」

 アリスは話を変えるようにそう言うと違った笑顔になる。無邪気な笑顔から少し意地悪な笑顔に。

「水の王国ではどのようなものを食べようとお考えなのですか?」

 土の王国で色々なものを食べると豪語したからだろう。アリスは私が食べ物のことしか考えてない人かのように接してくる。
 失礼な。私だってたまには食べ物以外のことも考える。

「やはりお魚料理でしょうか。フルハイムにもベンネス産の水晶鱒の酢漬けなどが持ち込まれることがありましたし」

 水晶鱒? なにそれ食べたい……。でも私が考えているのはそれではない。

「ふふふ。私が食べ物のことばかり考えていると思ったら大間違いよ」
「え?」

 アリスだけでなくメアリーまで信じられないといった表情を浮かべる。失礼な。

「私が水の王国ベンネスで楽しみにしているものは……」
「楽しみにしているものは……」

 アリスは復唱しながら続く言葉を待つ。

「お酒よ!」

 どうだ! 楽しみだろう! という気持ちを込めて言ったのに、車内にいるアリスとメアリーのリアクションはあまり良くない。馬車の運転をしているクロードのため息が外から聞こえる。え、どうして?

「水が綺麗な国ではお酒が美味しいと相場が決まってるの。だから水の王国とまで言われるベンネスなら最高に美味しいお酒が飲めるはず!」

 力説してもアリスとメアリーの視線は冷たいまま。

「それに水の王国では水上で稲作をしててお米がたくさん取れる設定だったはず」
「設定?」
「おほん。ごほん。設計の言い間違いよ」

 アリスは私が偽物だと知らないんだった。危ない。

「だから私は期待してるの」

 アリスとメアリーは首を傾げる。

「清酒を!」

 何を隠そう私は大の日本酒好きなのだ。学生時代は全国の日本酒を味わうために日本一周したくらい日本酒が好き。
 この世界で日本酒などと言ってもおそらく伝わらない。だから清酒の名前を使ったのに、アリスもメアリーも分からない様子だった。

「え、もしかして……清酒はないの?」
「私は存じ上げません」

 メアリーが答え、アリスも同じく続く。

「お姉さま……お酒が飲みたすぎて何か変な夢でも見られたのですか?」
「おいたわしや」

 え、待って。私心配されてる?
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

外れスキル【建築】持ちの俺は実家を追放される。辺境で家作りをしていただけなのに、魔王城よりもすごい最強の帝国が出来上がってた

つくも
ファンタジー
「闘えもしない外れスキルを授かった貴様など必要ない! 出て行け! グラン!」 剣聖の家系に生まれた少年グランは15歳のスキル継承の儀の際に非戦闘用の外れスキルである【建築】(ビルド)を授かった。 対する義弟は当たりスキルである『剣神』を授かる。 グランは実父に用無しの無能として実家を追放される事になる。辺境に追いやられ、グランはそこで【建築】スキルを利用し、家作りを始める。家作りに没頭するグランは【建築】スキルが外れスキルなどではなく、とんでもない可能性を秘めている事に気づく。 【建築】スキルでどんどん辺境を開拓するグラン。 気づいたら魔王城よりもすごい、世界最強の帝国ができあがる。 そして、グランは家にいたまま、魔王を倒した英雄として、世界中にその名を轟かせる事となる。

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

桐生桜月姫
ファンタジー
 愛良と晶は仲良しで有名な双子だった。  いつも一緒で、いつも同じ行動をしていた。  好き好みもとても似ていて、常に仲良しだった。  そして、一緒に事故で亡くなった。  そんな2人は転生して目が覚めても、またしても双子でしかも王族だった!?  アイリスとアキレスそれが転生後の双子の名前だ。  相変わらずそっくりで仲良しなハイエルフと人間族とのハーフの双子は異世界知識を使って楽しくチートする!! 「わたしたち、」「ぼくたち、」 「「転生しても〜超仲良し!!」」  最強な天然双子は今日もとっても仲良しです!!

公爵令嬢は偽物により

紅 蓮也
ファンタジー
ソフィア・フォン・サンクチュアリは聖女の家系であるサンクチュアリ公爵家の令嬢で王太子の婚約者候補であった。 ある日、自分こそが本物のソフィア・フォン・サンクチュアリだと名乗る女が現れた。 その女により立場を取って代わられたソフィアは公爵家を追い出されたが特に気にせずそれに従った。

婚約を破棄された令嬢は舞い降りる❁

もきち
ファンタジー
「君とは婚約を破棄する」 結婚式を一か月後に控えた婚約者から呼び出され向かった屋敷で言われた言葉 「破棄…」 わざわざ呼び出して私に言うのか…親に言ってくれ 親と親とで交わした婚約だ。 突然の婚約破棄から始まる異世界ファンタジーです。 HOTランキング、ファンタジーランキング、1位頂きました㊗ 人気ランキング最高7位頂きました㊗ 誠にありがとうございますm(__)m

器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅
ファンタジー
この世界では8歳になると教会で女神からギフトを授かる。 人口約1000人程の田舎の村、そこでそこそこ裕福な家の3男として生まれたファインは8歳の誕生に教会でギフトを授かるも、授かったギフトは【器用貧乏】 前例の無いギフトに困惑する司祭や両親は貧乏と言う言葉が入っていることから、将来貧乏になったり、周りも貧乏にすると思い込み成人とみなされる15歳になったら家を、村を出て行くようファインに伝える。 そんな時、前世では本間勝彦と名乗り、上司と飲み入った帰り、駅の階段で足を滑らし転げ落ちて死亡した記憶がよみがえる。 そして15歳まであと7年、異世界で生きていくために冒険者となると決め、修行を続けやがて冒険者になる為村を出る。 様々な人と出会い、冒険し、転生した世界を器用貧乏なのに器用貧乏にならない様生きていく。 村を出て冒険者となったその先は…。 ※しばらくの間(2021年6月末頃まで)毎日投稿いたします。 よろしくお願いいたします。

処理中です...