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土の王国編
え、私人殺しをした?
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私一人が椅子に座った状態で転生について説明をすることになった。クロードは私に厳しい視線を向ける。乙女ゲームを説明するには必要な前提知識が多すぎるだろうしどう説明したものか……
「えっと……。私が……というか私の体がレジーナ・フルハイムってのは間違いないの。ただ、中身というか精神が今朝から違うって感じで」
クロードは黙って見下ろすように私に視線を向け続ける。
「中身の私のことなんだけど……。なんというかこの世界の人間じゃなくて……。うーん、どう説明したらいいか……」
私が頭を捻っていてもクロードは口を挟んだりしてこない。それがまた怖くもあり、嘘や誤魔化しは通用しないんだろうと思わされる。
「この世界を作った神? みたいな人がいる世界で私は生まれ育ったの」
嘘ではない。私は聖王国の作者たちを神だと思っているし、私以外にも神だと思っている人は少なくない。
「でも、私がその神ってわけじゃなくて。なんというかその世界でただ生きてただけのつまらない人間の一人なんだけど、この世界のことをずっと見守っていたの」
ぼんやりとした説明だけどはっきりとした嘘はついていない。神と崇める人たちが作った乙女ゲーム聖王国をずっと見守っていた私。うん。嘘はついてない。
「私はその世界でまあ……事故みたいな感じで死んじゃったんだけど、何故かこの世界のレジーナの体に憑依したみたいになったって感じです」
以上で説明を終わります。とクロードに伝えると、クロードは私を値踏みするようにじっと顔を見る。イケメンにまっすぐ見られるとなんだか照れくさいけれどそんなことを言ってられる状況ではない。ただ、私の知っているクロードなら、ゲームのクロードなら私を殺したりはしないだろうという曖昧な自信もある。
クロード……彼は人間を殺さない。
「嘘をついているようには思えませんが……。にわかには信じがたいですね。しかし今日一日あなたと過ごして感じたことや他の使用人からの話を聞く限り、悪意や害意があるとも思えません」
「もちろん! この世界でも私はちゃんと生きるつもりよ」
「レジーナ様の体に乗り移った赤の他人を1日見た程度で全てを信じられるわけではありませんが、今すぐに処刑をする必要もなさそうだと判断します。というより処刑するわけにはいかないと言うべきでしょうか」
クロードはそう言って悩ましげな表情を見せる。
「レジーナ様の存在そのものがフルハイム家の威厳に直結しています。中身が変わったとしても見た目がレジーナ様であれば死なれたり監禁することになったりしてはいけません」
「ああ、そういうことね」
私の返事にクロードも頷く。
「しかし、あなたには責任と義務があります。レジーナ様としてフルハイム家を支えるという責任と義務が。あなたの発言を信じるのならば本当のレジーナ様を殺したようなものなのですから」
「レジーナを殺した……?」
そんなこと考えもしなかった。
「あなたが元のレジーナ様に肉体を返すことができるのなら話は別ですが。どうですか? できますか?」
「それは……」
できない。そもそも元のレジーナの魂的なものがどこに行ってしまったのかも分からない。弾き出されてどこかへ行ったのか。はたまた私が殺してしまったのか……。
「少し意地悪が過ぎました。とはいえ、私個人としてはその点についてはあまり気にしてはいません。以前のレジーナ様は散々アリス様を虐めてくださっていましたからね」
クロードの瞳に憎しみの火が灯ったのが分かる。ゲームでもクロードは最後までレジーナを憎み続けていたのだから。
「二度目ですが、私はアリス様に笑顔を取り戻してくださったあなたに感謝しています。だから私の本心は元のレジーナ様がいなくなって……いえ、忘れてください」
それ以上突っ込んで聞くのは本当に野暮というもの。私もゲームで破滅したレジーナに対してざまあと思った。アリスに尽くしているクロードももしかしたら……。
とはいえ、私が存在するはずだった一人の人間の居場所を奪ったのは確か。その責任は取らなくてはならない。ちゃんとすると決めたのだから。
「クロード。私、約束します。私自身がフルハイム家にとって有益な人間になること。そして……」
クロードにとって重要であり、私個人として果たしたい目標。
「アリスの笑顔を守ること」
私の約束を聞いてクロードは深々と頭を下げたのだった。
「えっと……。私が……というか私の体がレジーナ・フルハイムってのは間違いないの。ただ、中身というか精神が今朝から違うって感じで」
クロードは黙って見下ろすように私に視線を向け続ける。
「中身の私のことなんだけど……。なんというかこの世界の人間じゃなくて……。うーん、どう説明したらいいか……」
私が頭を捻っていてもクロードは口を挟んだりしてこない。それがまた怖くもあり、嘘や誤魔化しは通用しないんだろうと思わされる。
「この世界を作った神? みたいな人がいる世界で私は生まれ育ったの」
嘘ではない。私は聖王国の作者たちを神だと思っているし、私以外にも神だと思っている人は少なくない。
「でも、私がその神ってわけじゃなくて。なんというかその世界でただ生きてただけのつまらない人間の一人なんだけど、この世界のことをずっと見守っていたの」
ぼんやりとした説明だけどはっきりとした嘘はついていない。神と崇める人たちが作った乙女ゲーム聖王国をずっと見守っていた私。うん。嘘はついてない。
「私はその世界でまあ……事故みたいな感じで死んじゃったんだけど、何故かこの世界のレジーナの体に憑依したみたいになったって感じです」
以上で説明を終わります。とクロードに伝えると、クロードは私を値踏みするようにじっと顔を見る。イケメンにまっすぐ見られるとなんだか照れくさいけれどそんなことを言ってられる状況ではない。ただ、私の知っているクロードなら、ゲームのクロードなら私を殺したりはしないだろうという曖昧な自信もある。
クロード……彼は人間を殺さない。
「嘘をついているようには思えませんが……。にわかには信じがたいですね。しかし今日一日あなたと過ごして感じたことや他の使用人からの話を聞く限り、悪意や害意があるとも思えません」
「もちろん! この世界でも私はちゃんと生きるつもりよ」
「レジーナ様の体に乗り移った赤の他人を1日見た程度で全てを信じられるわけではありませんが、今すぐに処刑をする必要もなさそうだと判断します。というより処刑するわけにはいかないと言うべきでしょうか」
クロードはそう言って悩ましげな表情を見せる。
「レジーナ様の存在そのものがフルハイム家の威厳に直結しています。中身が変わったとしても見た目がレジーナ様であれば死なれたり監禁することになったりしてはいけません」
「ああ、そういうことね」
私の返事にクロードも頷く。
「しかし、あなたには責任と義務があります。レジーナ様としてフルハイム家を支えるという責任と義務が。あなたの発言を信じるのならば本当のレジーナ様を殺したようなものなのですから」
「レジーナを殺した……?」
そんなこと考えもしなかった。
「あなたが元のレジーナ様に肉体を返すことができるのなら話は別ですが。どうですか? できますか?」
「それは……」
できない。そもそも元のレジーナの魂的なものがどこに行ってしまったのかも分からない。弾き出されてどこかへ行ったのか。はたまた私が殺してしまったのか……。
「少し意地悪が過ぎました。とはいえ、私個人としてはその点についてはあまり気にしてはいません。以前のレジーナ様は散々アリス様を虐めてくださっていましたからね」
クロードの瞳に憎しみの火が灯ったのが分かる。ゲームでもクロードは最後までレジーナを憎み続けていたのだから。
「二度目ですが、私はアリス様に笑顔を取り戻してくださったあなたに感謝しています。だから私の本心は元のレジーナ様がいなくなって……いえ、忘れてください」
それ以上突っ込んで聞くのは本当に野暮というもの。私もゲームで破滅したレジーナに対してざまあと思った。アリスに尽くしているクロードももしかしたら……。
とはいえ、私が存在するはずだった一人の人間の居場所を奪ったのは確か。その責任は取らなくてはならない。ちゃんとすると決めたのだから。
「クロード。私、約束します。私自身がフルハイム家にとって有益な人間になること。そして……」
クロードにとって重要であり、私個人として果たしたい目標。
「アリスの笑顔を守ること」
私の約束を聞いてクロードは深々と頭を下げたのだった。
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