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土の王国編
え、私メイド服着ちゃう?
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朝食後、ドレスに着替えたアリスを見送ると昼過ぎまでのんびりと過ごしていた。欠席の連絡は執事長のセバスにしてもらったし、謝罪の手紙もアリスに持たせた。特に問題はないだろう。
「それにしても……」
広い屋敷というのは落ち着かない。その上長い社畜生活のせいでのんびり過ごす時間も落ち着かない。書斎で書類に向かってはいるものの、昨日までにやるべきことが終わっているのか特にやることもない。それに転生前の仕事よりも作業は少なそうだ。
「暇なのがこんなにしんどいとは思ってなかったな……。そうだ!」
私は書斎から出ると中庭で花の手入れをしているメアリーのところに向かった。
「メアリー」
「はい。なんでしょうレジーナ様」
メアリーは手に持っていたジョウロを置いて姿勢を正す。半日一緒に過ごしたからか、朝とは違ってメアリーの肩の力が少し抜けている。礼儀正しく私と向き合っているが臨戦態勢とまではいかない。
「何か私にできる仕事はない?」
「レジーナ様にできる仕事……ですか? いつも行われてるフルハイム領の執務以外でですか?」
「雑用とかなんでも良いんだけど。暇で暇で」
「雑用は流石に勧めることができませんが、そうですね……」
メアリーはしばらく考え込むと遠くを見て言った。
「町の視察にでも行かれますか? あ、でも病気ということになってますしあまり外で顔を出すのもよろしくありませんね」
「変装とかしちゃう?」
「変装?」
「ほら、メイドの服とか着ておけば私ってバレないかなって」
「確かに……。レジーナ様は普段町に出ることもありませんし、それならバレないかと思いますが……。よろしいのですか? このような下賤な服装など」
メアリーはそう言ってスカートの端をつまむ。膝丈のスカートにはフリルがふんだんに使われ、黒を基調としているが華やかな雰囲気がある可愛らしいメイド服。
「むしろ着てみたい!」
「レジーナ様がよろしいのでしたら」
食い気味に言った私を見てメアリーは少しだけ表情を緩ませた。
使用人室に行き、メイド服に着替えた私はメアリーと共に屋敷を出た。
「レジーナ様、今日はとてもご機嫌でございますね」
「うん。すっごく楽しい!」
「それは良かったです」
屋敷から続く林道を抜けるとすぐに町が広がっていた。一階建ての平屋ばかりだが、どの家も綺麗で軒先や道端はさまざまな花で彩られている。
「さすが花の王国」
「レジーナ様やご先祖様達のご尽力の賜物です」
「えっと、昔のフルハイム王が土の王に王位を譲ったとかだったっけ?」
私の問いかけにメアリーは訝しげな表情を浮かべつつ答えた。
「二代目フルハイム王ジョージ・フルハイム様が当時起きていた世界的な飢餓を憂いて、主産業だった花卉から穀物生産に切り替えたのです。そこで穀物生産を進めるにあたってノウハウを持っていた東部の公爵に王位を譲る形で現在の土の王国となったわけです」
「世界の為に王位を他人に渡すなんて凄いこと考えるわね」
「はい。とても偉大な方だったと思っております」
メアリーはそう言って胸元に刺繍された家紋に手を当てる。誇りを持ってフルハイム家に仕えているのが分かる。私も転生したとはいえフルハイム家の当主として正しく生きようと思わされる。この世界でもちゃんとするんだ。ちゃんと。
「それにしても……」
広い屋敷というのは落ち着かない。その上長い社畜生活のせいでのんびり過ごす時間も落ち着かない。書斎で書類に向かってはいるものの、昨日までにやるべきことが終わっているのか特にやることもない。それに転生前の仕事よりも作業は少なそうだ。
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私は書斎から出ると中庭で花の手入れをしているメアリーのところに向かった。
「メアリー」
「はい。なんでしょうレジーナ様」
メアリーは手に持っていたジョウロを置いて姿勢を正す。半日一緒に過ごしたからか、朝とは違ってメアリーの肩の力が少し抜けている。礼儀正しく私と向き合っているが臨戦態勢とまではいかない。
「何か私にできる仕事はない?」
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メアリーはしばらく考え込むと遠くを見て言った。
「町の視察にでも行かれますか? あ、でも病気ということになってますしあまり外で顔を出すのもよろしくありませんね」
「変装とかしちゃう?」
「変装?」
「ほら、メイドの服とか着ておけば私ってバレないかなって」
「確かに……。レジーナ様は普段町に出ることもありませんし、それならバレないかと思いますが……。よろしいのですか? このような下賤な服装など」
メアリーはそう言ってスカートの端をつまむ。膝丈のスカートにはフリルがふんだんに使われ、黒を基調としているが華やかな雰囲気がある可愛らしいメイド服。
「むしろ着てみたい!」
「レジーナ様がよろしいのでしたら」
食い気味に言った私を見てメアリーは少しだけ表情を緩ませた。
使用人室に行き、メイド服に着替えた私はメアリーと共に屋敷を出た。
「レジーナ様、今日はとてもご機嫌でございますね」
「うん。すっごく楽しい!」
「それは良かったです」
屋敷から続く林道を抜けるとすぐに町が広がっていた。一階建ての平屋ばかりだが、どの家も綺麗で軒先や道端はさまざまな花で彩られている。
「さすが花の王国」
「レジーナ様やご先祖様達のご尽力の賜物です」
「えっと、昔のフルハイム王が土の王に王位を譲ったとかだったっけ?」
私の問いかけにメアリーは訝しげな表情を浮かべつつ答えた。
「二代目フルハイム王ジョージ・フルハイム様が当時起きていた世界的な飢餓を憂いて、主産業だった花卉から穀物生産に切り替えたのです。そこで穀物生産を進めるにあたってノウハウを持っていた東部の公爵に王位を譲る形で現在の土の王国となったわけです」
「世界の為に王位を他人に渡すなんて凄いこと考えるわね」
「はい。とても偉大な方だったと思っております」
メアリーはそう言って胸元に刺繍された家紋に手を当てる。誇りを持ってフルハイム家に仕えているのが分かる。私も転生したとはいえフルハイム家の当主として正しく生きようと思わされる。この世界でもちゃんとするんだ。ちゃんと。
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