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ベータの過去
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大和の言葉に意表を突かれてベータが目を丸くする。確かに大和の言うとおりベータのことを知っておく必要はあるだろう。何の情報もない得体の知れない少女を匿うのにはリスクがある。それに、少しでもベータの話を聞くことで仲良くなれるかもしれない。
「今日は大鳥居のところにいたけど、その前ってどこにいたんだ?」
大和は優しく質問をしたが、ベータは少し怯えながら口ごもる。芽依がここぞとばかりに大和だって怖がられてるじゃないと言ったが、大和は聞き流して笑うだけだった。そんなやりとりをしている内にベータも話す決意が付いたのか、小さな声だが口を開いた。
「わたしね。うまれたときからずっとひとりで、ちいさいへやにとじこめられてたの。まいにちあうのは、ごはんをはこんでくれるおとこのひとだけ。もってきてくれるのは、あじのしないビスケットとおみず。そのときいつもあたまをさわられて『まだダメか』っていわれてたの」
何かの研究施設だろうか。男の人というのも研究員か。
「それでちいさいへやさいごのひに、いつもごはんをもってきてくれるひとに『しっぱいさくだな』っていわれて、ちがうへやにいどうさせられたの。そこでおともだちができたの」
友達ができた。そう言った瞬間のベータは少し笑っていた。大鳥居の近くでも友達が来てくれるかもしれないなどと言っていたあたり、とても大切な存在なのだろう。
「その友達っていうのもベータちゃんと同じで耳の生えた子なの?」
芽依が身を乗り出してベータに尋ねると、ベータは頭を振って否定した。
「ううん。わたしとおなじみみはあるけど、からだはぜんぜんちがうの。このくらいのおおきさでしっぽがにほんあるねこさんたち」
そう言ってベータは手で大きさを表す。示された大きさは猫というには大きく、大型犬――レトリーバーほどのサイズだった。
「多分それも妖だよね?」
「だろうな」
俺の疑問に大和が答える。そしてベータは話を続けた。
「そのねこさんたちはこえがだせなかったけど、いっつもわたしのおはなしあいてになってくれてたの。でも、きのうわたしひとりだけさっきいたところのちかくにすてられて……。もうおまえはいらないって……。だけどさいごにねこさんたちがぜったいにたすけにいくっていってくれて……。だから……わたし……」
ベータはそこまで言ったところで涙を流し始めた。何度か猫さんと呟きながら――。失敗作と言われて見捨てられ、友達ができたと思ったら今度は一人森に捨てられる……。もし実験だったとしても、それは酷すぎるのではないか。
「その猫たちって声が出せないって言ってたけど話すことができたの?」
「うん。ちょくせつあたまにことばをおくってくれるかんじではなせたの」
大和の素朴な疑問にベータは鼻をすすりながら答える。猫とはいえやはり妖らしく普通の生き物とは違うようだ。俺たちもその猫とは話ができるのだろうか。そんなことを考えていたところで、芽依がおもむろにベータのことを抱きしめた。ベータは何が起こったのか分からないといった風に目を丸くしている。
「辛かったね。私たちは絶対にベータちゃんを見捨てたりしないからね。お友達ともいつか会えるよ」
芽依の真っ直ぐな励ましにベータは少し心を開いてくれたのか、ぎこちなくも芽依の背中に手を回していた。芽依のような励ましができなかった俺と大和は、二人そろって顔を合わせて笑い合うだけだった。
「流石にそろそろ良い時間だから今日はこの辺りで解散にしよっか」
しばらくして言われた大和の言葉に芽依は腕時計を確認する。俺の目に見えた時計の針はもう二時に迫っていた。
「そうね。明日も六時には起きないとだし。じゃあまた明日。ベータちゃん行こっか」
ベータはそう言われて芽依から離れると、名残惜しそうに俺たちに向かって手を振った。
「よし、俺たちも帰るぞ」
俺は大和に言われるがまま屋根の上を歩いてきた道を戻った。帰りは大和の忍術で屋根に作った杭にロープを引っ掛けてトイレの窓まで降りた。今回は降りるだけなので登りと違って大和の手を借りることもなかった。ロープは大和が忍術と共に屋根へと投げ上げていたので、おそらく明日以降も同じ要領で上り下りをするのだろう。
朝食の時間は朝の七時。俺たち二人はそのギリギリまで夢も覚えていないほどにぐっすりと眠ったのだった。
「今日は大鳥居のところにいたけど、その前ってどこにいたんだ?」
大和は優しく質問をしたが、ベータは少し怯えながら口ごもる。芽依がここぞとばかりに大和だって怖がられてるじゃないと言ったが、大和は聞き流して笑うだけだった。そんなやりとりをしている内にベータも話す決意が付いたのか、小さな声だが口を開いた。
「わたしね。うまれたときからずっとひとりで、ちいさいへやにとじこめられてたの。まいにちあうのは、ごはんをはこんでくれるおとこのひとだけ。もってきてくれるのは、あじのしないビスケットとおみず。そのときいつもあたまをさわられて『まだダメか』っていわれてたの」
何かの研究施設だろうか。男の人というのも研究員か。
「それでちいさいへやさいごのひに、いつもごはんをもってきてくれるひとに『しっぱいさくだな』っていわれて、ちがうへやにいどうさせられたの。そこでおともだちができたの」
友達ができた。そう言った瞬間のベータは少し笑っていた。大鳥居の近くでも友達が来てくれるかもしれないなどと言っていたあたり、とても大切な存在なのだろう。
「その友達っていうのもベータちゃんと同じで耳の生えた子なの?」
芽依が身を乗り出してベータに尋ねると、ベータは頭を振って否定した。
「ううん。わたしとおなじみみはあるけど、からだはぜんぜんちがうの。このくらいのおおきさでしっぽがにほんあるねこさんたち」
そう言ってベータは手で大きさを表す。示された大きさは猫というには大きく、大型犬――レトリーバーほどのサイズだった。
「多分それも妖だよね?」
「だろうな」
俺の疑問に大和が答える。そしてベータは話を続けた。
「そのねこさんたちはこえがだせなかったけど、いっつもわたしのおはなしあいてになってくれてたの。でも、きのうわたしひとりだけさっきいたところのちかくにすてられて……。もうおまえはいらないって……。だけどさいごにねこさんたちがぜったいにたすけにいくっていってくれて……。だから……わたし……」
ベータはそこまで言ったところで涙を流し始めた。何度か猫さんと呟きながら――。失敗作と言われて見捨てられ、友達ができたと思ったら今度は一人森に捨てられる……。もし実験だったとしても、それは酷すぎるのではないか。
「その猫たちって声が出せないって言ってたけど話すことができたの?」
「うん。ちょくせつあたまにことばをおくってくれるかんじではなせたの」
大和の素朴な疑問にベータは鼻をすすりながら答える。猫とはいえやはり妖らしく普通の生き物とは違うようだ。俺たちもその猫とは話ができるのだろうか。そんなことを考えていたところで、芽依がおもむろにベータのことを抱きしめた。ベータは何が起こったのか分からないといった風に目を丸くしている。
「辛かったね。私たちは絶対にベータちゃんを見捨てたりしないからね。お友達ともいつか会えるよ」
芽依の真っ直ぐな励ましにベータは少し心を開いてくれたのか、ぎこちなくも芽依の背中に手を回していた。芽依のような励ましができなかった俺と大和は、二人そろって顔を合わせて笑い合うだけだった。
「流石にそろそろ良い時間だから今日はこの辺りで解散にしよっか」
しばらくして言われた大和の言葉に芽依は腕時計を確認する。俺の目に見えた時計の針はもう二時に迫っていた。
「そうね。明日も六時には起きないとだし。じゃあまた明日。ベータちゃん行こっか」
ベータはそう言われて芽依から離れると、名残惜しそうに俺たちに向かって手を振った。
「よし、俺たちも帰るぞ」
俺は大和に言われるがまま屋根の上を歩いてきた道を戻った。帰りは大和の忍術で屋根に作った杭にロープを引っ掛けてトイレの窓まで降りた。今回は降りるだけなので登りと違って大和の手を借りることもなかった。ロープは大和が忍術と共に屋根へと投げ上げていたので、おそらく明日以降も同じ要領で上り下りをするのだろう。
朝食の時間は朝の七時。俺たち二人はそのギリギリまで夢も覚えていないほどにぐっすりと眠ったのだった。
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