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そして文化祭当日。一般的に平日に文化祭が行われる愛媛県。那由たちが通う中予高校も例に漏れることなく平日の金曜日に文化祭が開かれていた。平日ということもあり大規模とは言い難く、教師生徒以外は保護者やごく一部のOBなどがいる程度。しかしほぼ学内だけのイベントとはいえ、大いに盛り上がりが予想されるくらい開会式の体育館では人が溢れていた。
校長、生徒会長の挨拶が終わり、全国大会にも出場した吹奏楽部の演奏で幕を開ける。その後は基本的に自由。那由のクラスも三、四人のチームで三十分交代の店番というシフトを組んでいて、ほとんどの時間を他の模擬店まわりに費やすことができる。
「みんな出し物のある部活とかだとちょっと寂しいよね」
那由は午前中にクラスの仕事も実行委員の仕事も終わり、昼食を終えた午後に宗祇といつもの渡り廊下でこの後どうするか話していた。沙知は吹奏楽部なので、体育館での演奏の後も一日中音楽室で講演。勝也はサッカー部でお化け屋敷。他のクラスメイトはグループができているのでそれぞれでまわってしまっている。その結果、今の時間は那由は一人になってしまっていた。しかし、宗祇と二人で過ごすことに慣れてしまっていた那由は言葉ほど寂しいとは思っていない様子。
文化祭実行委員として作成した冊子を手に、那由は宗祇にどこに行こうかと尋ねる。
「あと行ってないのは書道部、華道部、美術部の展示。それと家庭クラブのカップケーキ販売だな。カップケーキは後回しにしたら売り切れそうだし、先に行こうか?」
「うん。そうだね」
宗祇の提案に乗って家庭クラブの模擬店のある場所まで最短距離で向かおうとする那由。今いる四階渡り廊下から、校舎に入ってすぐの階段を下りる。そうすれば家庭クラブがいる一階の教室に着く。しかし、一歩踏み出した那由を宗祇が引き止める。
「反対側の校舎の階段を下りて向かおう」
優しい笑顔で促す宗祇。那由は今まで宗祇の言う通りにしていて悪いことは一度も経験していない。だからかほとんど反射的に宗祇の歩く方へ付いていく。しかし、宗祇の表情から大きな問題のあるルートではないと那由は判断していた。
「今度は何があったん?」
「午後は普通教棟の階段に人が集まってて歩きにくいからね」
歩きにくい――その理由だけで別ルートを勧める宗祇に優しさを感じながらも那由は少しだけ疑問を感じて首を傾げる。しかし宗祇の言うとおりの道を進むと、家庭クラブまではあまり人混みに遭遇することなく辿り着くことができた。カップケーキの模擬店では昼食後のためか人が少なくて並ぶ必要もない。片手に収まるサイズのカップケーキを一つ購入した那由は、その足で先程までいた渡り廊下へ戻ろうとする。
「やっぱりこの階段使わん方が良いん?」
「うん。あっち通ろう」
今回はもちろん説明は無し。それでも宗祇の言うとおりに来た道を通って戻る。渡り廊下に着くと、その場に座ってパンフレットを見ながら美味しそうにカップケーキを頬張る。
「そんなに急いで食べたら喉に詰まるよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。んっ!」
「ほら、お茶飲んでお茶」
宗祇に言われるがまま傍らに置いていたペットボトルのお茶を口に入れる。そして何度か咳き込むと、喉に詰まっていたカップケーキが胃に落ちたのか、ぐっと親指を立てて宗祇に大丈夫だと伝える。
「よし! あんま時間無いし、残りの展示見に行こっか!」
立ち上がった那由は、先程上って来た階段の方向を指さす。書道部、華道部、美術部の展示は一階と二階の教室。階段を降りてすぐだ。いつものように先陣を切って歩きはじめる宗祇。それについて行くように後ろに駆け寄る那由。階段に差し掛かったところで宗祇は後ろについてきている那由に言った。
「俺、そろそろ消えるかもしれないから那由に言っておきたいことがあるんだけど……」
そう言って振り返った宗祇の目の前に、ついてきていたはずの那由の姿はなかった。
校長、生徒会長の挨拶が終わり、全国大会にも出場した吹奏楽部の演奏で幕を開ける。その後は基本的に自由。那由のクラスも三、四人のチームで三十分交代の店番というシフトを組んでいて、ほとんどの時間を他の模擬店まわりに費やすことができる。
「みんな出し物のある部活とかだとちょっと寂しいよね」
那由は午前中にクラスの仕事も実行委員の仕事も終わり、昼食を終えた午後に宗祇といつもの渡り廊下でこの後どうするか話していた。沙知は吹奏楽部なので、体育館での演奏の後も一日中音楽室で講演。勝也はサッカー部でお化け屋敷。他のクラスメイトはグループができているのでそれぞれでまわってしまっている。その結果、今の時間は那由は一人になってしまっていた。しかし、宗祇と二人で過ごすことに慣れてしまっていた那由は言葉ほど寂しいとは思っていない様子。
文化祭実行委員として作成した冊子を手に、那由は宗祇にどこに行こうかと尋ねる。
「あと行ってないのは書道部、華道部、美術部の展示。それと家庭クラブのカップケーキ販売だな。カップケーキは後回しにしたら売り切れそうだし、先に行こうか?」
「うん。そうだね」
宗祇の提案に乗って家庭クラブの模擬店のある場所まで最短距離で向かおうとする那由。今いる四階渡り廊下から、校舎に入ってすぐの階段を下りる。そうすれば家庭クラブがいる一階の教室に着く。しかし、一歩踏み出した那由を宗祇が引き止める。
「反対側の校舎の階段を下りて向かおう」
優しい笑顔で促す宗祇。那由は今まで宗祇の言う通りにしていて悪いことは一度も経験していない。だからかほとんど反射的に宗祇の歩く方へ付いていく。しかし、宗祇の表情から大きな問題のあるルートではないと那由は判断していた。
「今度は何があったん?」
「午後は普通教棟の階段に人が集まってて歩きにくいからね」
歩きにくい――その理由だけで別ルートを勧める宗祇に優しさを感じながらも那由は少しだけ疑問を感じて首を傾げる。しかし宗祇の言うとおりの道を進むと、家庭クラブまではあまり人混みに遭遇することなく辿り着くことができた。カップケーキの模擬店では昼食後のためか人が少なくて並ぶ必要もない。片手に収まるサイズのカップケーキを一つ購入した那由は、その足で先程までいた渡り廊下へ戻ろうとする。
「やっぱりこの階段使わん方が良いん?」
「うん。あっち通ろう」
今回はもちろん説明は無し。それでも宗祇の言うとおりに来た道を通って戻る。渡り廊下に着くと、その場に座ってパンフレットを見ながら美味しそうにカップケーキを頬張る。
「そんなに急いで食べたら喉に詰まるよ?」
「だいじょぶだいじょぶ。んっ!」
「ほら、お茶飲んでお茶」
宗祇に言われるがまま傍らに置いていたペットボトルのお茶を口に入れる。そして何度か咳き込むと、喉に詰まっていたカップケーキが胃に落ちたのか、ぐっと親指を立てて宗祇に大丈夫だと伝える。
「よし! あんま時間無いし、残りの展示見に行こっか!」
立ち上がった那由は、先程上って来た階段の方向を指さす。書道部、華道部、美術部の展示は一階と二階の教室。階段を降りてすぐだ。いつものように先陣を切って歩きはじめる宗祇。それについて行くように後ろに駆け寄る那由。階段に差し掛かったところで宗祇は後ろについてきている那由に言った。
「俺、そろそろ消えるかもしれないから那由に言っておきたいことがあるんだけど……」
そう言って振り返った宗祇の目の前に、ついてきていたはずの那由の姿はなかった。
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