サイコミステリー

色部耀

文字の大きさ
上 下
65 / 65

64.サイコゲノムの導き

しおりを挟む
「私としてはお父さんを看取った直後に突然寝落ちして、気が付いたら病室のベッドの上って感じでした」

「お父さんが亡くなった瞬間、美波さんも確かに死んだんだ。でも、すぐに駆けつけてくれたお医者さんも慣れた様子だったよ。一ヶ月前と同じだってね。だから俺は任せて帰るしかなかった」

「そうだったんですね。それにしてもまさか真壁君が私を生き返らせてくれるとは思っていませんでした」

「俺も美波さんを助けられるなんて思ってもみなかった」

 俺が発現させた特殊能力は確かに俺が生きてきた中で最も求め続けていたものではあった。美波さんが死んでしまうと思った瞬間の感情に当てられて発現したわけだ。美波さんを生き返らせることができたのはたまたま運が良かったとしか言えない。

「まさか、俺の特殊能力が『共有する能力』だとはね」

 普通を願い続けた俺が手にしたのは他の誰かと同じになれる能力だった。まるでサイコゲノムから、これでお前は一人ではないと言われたかのようだった。誰かと共通のものがあればその事実だけで孤立することも孤独を感じることもない。それを教えてくれたみたいだった。普通とは、誰かと同じであるということ、誰かと共有できるものがあるということなのだろう。
 サイコゲノムは確かに俺の望みを叶えてくれた。

「相手の許可が必要って制約はあったから、本当にお父さんが生きているうちに発現してよかった」

「ありがとうございました。おかげでこうしてまた真壁君とお話することができます」

「記憶が無くなっていなかったことも含めて安心して気が抜けたよ」

 ぐっと背伸びをすると全身に血が巡って頭もスッキリする。初めてサイコゲノムを持っていて良かったと思うことができた。

「聞いてくれますか? 私、真壁君にお話したかったことがあるんです」

「ん?」

「お母さんがお父さんに宛てた手紙の内容のことです」

 そう言って美波さんは柔らかく微笑んだ。

「あの手紙はお父さんへの感謝の手紙でした。生き返らせてくれたことへの感謝。十二年間幸せにしてくれたことへの感謝。あと、お父さんのことを心から愛してるってこと」

「そうか」

 美波さんの勘は正しかったというわけか。生き返って良かったと思っているはず……美波さんの言葉を思い出す。全ての疑問がほどけていくようだ。思えば美波さんが何を探しているのかから謎だらけの二日間だった。探しものが何かを考え、記憶が無くなった原因を推理し、人の気持ちを考察する。そんな二日間だった。物事は繋がっている。人と人とも繋がっている。

「てことは、お母さんは美波さんのことも凄く愛してたってことだね」

「どうしてそう思うんですか?」

「だって……。自分が生き返って良かったと思ったから、美波さんを生き返らせてあげたいって思ったわけでしょ? 嘘をついてお父さんを傷付けても、自分が死んでしまったとしても」

 美波さんのお父さんが言っていた台詞も思い出す。
――親というのはね。全て犠牲にしても子供が元気に生きるためだけに行動できる生き物なんだよ。それは自分の命を犠牲にしても。
 両親からそう思ってもらえていた美波さんは幸せ者かもしれない。

「まあ、はい。そうだと思います。私への手紙を読んでもそう思います」

「美波さん宛ての手紙にはどんなことが書かれてたの?」

「それは秘密です」

 ニコッと笑った美波さんはそう言って口唇に人差し指を当てる。プライベートなことだからな。教えてくれなくてもそれは仕方ない。でもその笑顔から美波さんにとって悪いものではなかったのだと分かる。それだけで十分だ。

「でも、お母さんがお父さんに宛てた手紙の中でとても共感できる言葉があったので、真壁君に話しておきますね」

「ん?」

 美波さんはモジモジと恥ずかしそうな仕草をしている。そんな姿を見ると気になって仕方ない。

「『大好きな人と同じタイミングで死ぬことができるのは嬉しいと思ってました』だそうです。私もそう思います。真壁君に生き返らせてもらって良かったです。ありがとうございます」

 美波さんは立ち上がるとそう言って深々と頭を下げた。

「美波さん。流石にそんな言い方をされると俺も恥ずかしい……かな」

 その言い方はまるで美波さんが――いや、これ以上は無粋か。

「奇遇ですね。私も同じように恥ずかしいです」

 美波さんは顔を赤くしてそう言った。

「気持ちも共有しちゃいましたね。私たちは、もう一人じゃないってことですかね。へへ」

 普通を目指していた俺は誰かと繋がることでその望みをかなえることができたみたいだ。
 俺は一人ではない。サイコゲノムだけでなく、目の前にいる女の子も俺にそう教えてくれたのだった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

学園ミステリ~桐木純架

よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。 そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。 血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。 新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。 『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

黒き魔女の世界線旅行

天羽 尤
ファンタジー
少女と執事の男が交通事故に遭い、意識不明に。 しかし、この交通事故には裏があって… 現代世界に戻れなくなってしまった二人がパラレルワールドを渡り、現代世界へ戻るために右往左往する物語。 BLNLもあります。 主人公はポンコツ系チート少女ですが、性格に難ありです。 登場人物は随時更新しますのでネタバレ注意です。 ただいま第1章執筆中。

水の失われた神々

主道 学
キャラ文芸
竜宮城は実在していた。 そう宇宙にあったのだ。 浦島太郎は海にではなく。遥か彼方の惑星にある竜宮城へと行ったのだった。 水のなくなった惑星 滅亡の危機と浦島太郎への情愛を感じていた乙姫の決断は、龍神の住まう竜宮城での地球への侵略だった。 一方、日本では日本全土が沈没してきた頃に、大人顔負けの的中率の占い師の高取 里奈は山門 武に不吉な運命を言い渡した。 存在しないはずの神社の巫女の社までいかなければ、世界は滅びる。 幼馴染の麻生 弥生を残しての未知なる旅が始まった。 果たして、宇宙にある大海の龍神の住まう竜宮城の侵略を武は阻止できるのか? 竜宮城伝説の悲恋の物語。

処理中です...