52 / 65
51.記憶喪失の原因
しおりを挟む
病院に着いたのは空も赤みがかってきた六時前。電車の中でも美波さんは沈んだ様子で記憶喪失の理由について話をできるような状態ではなかった。病院の受付で話をすると、通された病室はいつもと同じ場所だった。
「真壁君も来てくれたんだね」
声だけはいつもと変わらない。いつもと変わらないベッドで横になっている。点滴と酸素マスクはあるものの、今夜が山だと言われたことが信じられないほどだ。
「どうしたんですか……急に……」
「急じゃないよ」
俺の問いかけに美波さんのお父さんは悟ったように答えた。
「去年よりあたりからいつこうなってもおかしくなかったんだ。聖奈に電話がいったすぐ後くらいまで気を失っててね。今日が最後になるかもしれない。本当にそう思うよ」
「そんな……そんな悲しいこと……」
「悲しんでくれるんだね。本当に君が聖奈の友達で良かった」
そう言って美波さんのお父さんはまた微笑む。その姿を見ただけでも辛くて言葉が出ない。俺の隣に立つ美波さんは今にも泣き出しそうな顔で床にばかり視線を向ける。先月までの記憶がない美波さんだが、だからこそ記憶があるこの二週間で最も多くの時間を共に過ごした相手なのだ。言うなれば人生の全てを共に歩いた相手。辛くないわけがない。
「とはいえ意識が戻った今だから分かるけど、最後に二人と話をする時間くらいは十分に持ちそうだと思う。聖奈に話しておきたいことも真壁君に話しておきたいこともある」
俺に話したいことというのはやはり懺悔のことなのだろう。美波さんに聞かれたくないことなのだろう。
「二人ともご飯は食べてないんだろう? 一階のレストランが開いているから行ってくるといい。一人三十分くらい交代で行ってくれれば二人それぞれに話したいことも話せる」
美波さんに話をするときは席を外そうとは思っていたが、こうして時間を作ってくれるとありがたい。俺も記憶喪失について気付いたことを聞く時間もできる。
「じゃあ、先に美波さんが行ってきて。俺が先に話すよ」
「……」
美波さんは話が耳に入っていないのか、リアクションもなく床に視線を落とし続けている。
「美波さん?」
俺が美波さんの肩を叩くと驚いた様子できょろきょろして答える。
「え、あ、はい。なんでしたっけ」
「俺とお父さんが話をしている間に一階のレストランで夕飯を済ませてきて。こっちの話が終わったら呼びに行くから」
「あ……はい……」
美波さんはそう言うと、心ここにあらずといった感じでトボトボと病室から出て行った。理解が追いつかないのだろう。仕方がないことだ。
「悪いね真壁君」
「いえ、俺もお父さんに聞きたいことがありましたので」
「……やはり、君なら遅かれ早かれ何かに気付くと思っていたよ」
「気付くようにヒントを出していたのでしょう」
奥さんの病気、奥さんの記憶喪失、自分の特殊能力の覚醒時期。隠すつもりなら、気付かれないようにするつもりならそんな情報を俺に伝えるはずがない。
「さて、まずは真壁君が聞きたいことというのから答えようか」
美波さんのお父さんは仰向けの楽な姿勢でそう言うと俺の言葉を待つ。聞きたいことというよりは、俺の推理の答え合わせと今後どうするべきかの相談になる。つまり、初めに言うことは……
「美波さんの記憶喪失はお父さんの特殊能力による影響で間違いないですね?」
「真壁君も来てくれたんだね」
声だけはいつもと変わらない。いつもと変わらないベッドで横になっている。点滴と酸素マスクはあるものの、今夜が山だと言われたことが信じられないほどだ。
「どうしたんですか……急に……」
「急じゃないよ」
俺の問いかけに美波さんのお父さんは悟ったように答えた。
「去年よりあたりからいつこうなってもおかしくなかったんだ。聖奈に電話がいったすぐ後くらいまで気を失っててね。今日が最後になるかもしれない。本当にそう思うよ」
「そんな……そんな悲しいこと……」
「悲しんでくれるんだね。本当に君が聖奈の友達で良かった」
そう言って美波さんのお父さんはまた微笑む。その姿を見ただけでも辛くて言葉が出ない。俺の隣に立つ美波さんは今にも泣き出しそうな顔で床にばかり視線を向ける。先月までの記憶がない美波さんだが、だからこそ記憶があるこの二週間で最も多くの時間を共に過ごした相手なのだ。言うなれば人生の全てを共に歩いた相手。辛くないわけがない。
「とはいえ意識が戻った今だから分かるけど、最後に二人と話をする時間くらいは十分に持ちそうだと思う。聖奈に話しておきたいことも真壁君に話しておきたいこともある」
俺に話したいことというのはやはり懺悔のことなのだろう。美波さんに聞かれたくないことなのだろう。
「二人ともご飯は食べてないんだろう? 一階のレストランが開いているから行ってくるといい。一人三十分くらい交代で行ってくれれば二人それぞれに話したいことも話せる」
美波さんに話をするときは席を外そうとは思っていたが、こうして時間を作ってくれるとありがたい。俺も記憶喪失について気付いたことを聞く時間もできる。
「じゃあ、先に美波さんが行ってきて。俺が先に話すよ」
「……」
美波さんは話が耳に入っていないのか、リアクションもなく床に視線を落とし続けている。
「美波さん?」
俺が美波さんの肩を叩くと驚いた様子できょろきょろして答える。
「え、あ、はい。なんでしたっけ」
「俺とお父さんが話をしている間に一階のレストランで夕飯を済ませてきて。こっちの話が終わったら呼びに行くから」
「あ……はい……」
美波さんはそう言うと、心ここにあらずといった感じでトボトボと病室から出て行った。理解が追いつかないのだろう。仕方がないことだ。
「悪いね真壁君」
「いえ、俺もお父さんに聞きたいことがありましたので」
「……やはり、君なら遅かれ早かれ何かに気付くと思っていたよ」
「気付くようにヒントを出していたのでしょう」
奥さんの病気、奥さんの記憶喪失、自分の特殊能力の覚醒時期。隠すつもりなら、気付かれないようにするつもりならそんな情報を俺に伝えるはずがない。
「さて、まずは真壁君が聞きたいことというのから答えようか」
美波さんのお父さんは仰向けの楽な姿勢でそう言うと俺の言葉を待つ。聞きたいことというよりは、俺の推理の答え合わせと今後どうするべきかの相談になる。つまり、初めに言うことは……
「美波さんの記憶喪失はお父さんの特殊能力による影響で間違いないですね?」
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
虚無からはじめる異世界生活 ~最強種の仲間と共に創造神の加護の力ですべてを解決します~
すなる
ファンタジー
追記《イラストを追加しました。主要キャラのイラストも可能であれば徐々に追加していきます》
猫を庇って死んでしまった男は、ある願いをしたことで何もない世界に転生してしまうことに。
不憫に思った神が特例で加護の力を授けた。実はそれはとてつもない力を秘めた創造神の加護だった。
何もない異世界で暮らし始めた男はその力使って第二の人生を歩み出す。
ある日、偶然にも生前助けた猫を加護の力で召喚してしまう。
人が居ない寂しさから猫に話しかけていると、その猫は加護の力で人に進化してしまった。
そんな猫との共同生活からはじまり徐々に動き出す異世界生活。
男は様々な異世界で沢山の人と出会いと加護の力ですべてを解決しながら第二の人生を謳歌していく。
そんな男の人柄に惹かれ沢山の者が集まり、いつしか男が作った街は伝説の都市と語られる存在になってく。
(
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
学園ミステリ~桐木純架
よなぷー
ミステリー
・絶世の美貌で探偵を自称する高校生、桐木純架。しかし彼は重度の奇行癖の持ち主だった! 相棒・朱雀楼路は彼に振り回されつつ毎日を過ごす。
そんな二人の前に立ち塞がる数々の謎。
血の涙を流す肖像画、何者かに折られるチョーク、喫茶店で奇怪な行動を示す老人……。
新感覚学園ミステリ風コメディ、ここに開幕。
『小説家になろう』でも公開されています――が、検索除外設定です。
強奪系触手おじさん
兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる