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22.ポンコツ
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パッと見れば分かるものなのか。それと探す予定だった場所が運良く下駄箱から教室までの間、教室の中だったのか。
「うーん。私のことを覚えてるっていう先生の話を聞いて、なんとなくここでは見つかりそうにないかと。ですから教室をざっと見ただけで十分だと思いました。あまり学校に来ることができていなかったみたいですし」
「他人事みたいな言い草だな」
地図アプリで小学校の位置を検索していた美波さんは俺の言葉を聞いて何か動揺したようにパッと顔を上げた。俺と視線を合わせた時には目を見開いて怯えているようにも感じる。何か気付いてはいけないことに気付くことができた可能性でもあったのだろうか。……それなら今の話ぶりは頭の片隅にでも置いておこう。探し物のヒントにもなるはずだ。
「美波さん、どうかした?」
俺は何も勘付いていない振りをしてそう問いかける。すると安心したのか美波さんはふにゃりと表情を柔らかくしてスマートフォンに視線を戻す。その瞬間。
「あっ」
美波さんは階段の一番下で無いはずの最期の一段を降りようとして膝から崩れ落ちた。足元を確認せずに階段を昇り降りしているとたまに最期の一段の後の一歩でカクンとなることがあるけれど、膝から崩れ落ちて地面に両手までついた人は初めて見た。どこか捻ったりしたのだろうか。
「美波さん大丈夫?」
俺は純粋な心配からそう聞いたのだが、美波さんはスッと立ち上がると俺に背中を向けてプルプルと震えた。
「は、恥ずかしいので今見たことは忘れてください」
「そう言われると逆に忘れられないかもしれない」
エピソード記憶というのは不思議なもので、こうしたやり取りをするほど記憶に残りやすい。だから普通はこういうことは簡単に忘れられなくなってしまうものだ。俺と美波さんの間で起きたエピソードとして記憶に残ってしまうだろう。
「嘘でも忘れるって言ってくれてもいいじゃないですか。真壁君は意地悪です」
「確かにそう言えば良かったかもな。って美波さん? 待って!」
美波さんは俺に背を向けたまま校舎の玄関から外に駆け出してしまった。そんなに恥ずかしかったのだろうか。しかし俺はそこでどうしても美波さんを呼び止めなくてはいけなかった。
「靴に履き替えるの忘れてるよ!」
俺の叫びで立ち止まった美波さんはゆっくりと歩いて下駄箱まで戻ると、丁寧にスリッパの裏を手で叩いたり拭いたりして元に戻す。そして自分が履いてきたローファーの前にしゃがみ込むと、靴を履くのではなく顔に両手を当てて大きな呻き声を吐いた。
「うー」
普通はここで慰めるべきだろう。
「どんまい」
俺がそう言って美波さんの肩を叩くと、美波さんは虫を払うかのようにブンブンと手を振って俺を手を払った。
うん。流石に俺もそれは分かっていて意地悪をした。これで意味も分からず探し物に付き合うことへのフラストレーションは一旦初期化された気がする。我ながら性格が悪い。
「うーん。私のことを覚えてるっていう先生の話を聞いて、なんとなくここでは見つかりそうにないかと。ですから教室をざっと見ただけで十分だと思いました。あまり学校に来ることができていなかったみたいですし」
「他人事みたいな言い草だな」
地図アプリで小学校の位置を検索していた美波さんは俺の言葉を聞いて何か動揺したようにパッと顔を上げた。俺と視線を合わせた時には目を見開いて怯えているようにも感じる。何か気付いてはいけないことに気付くことができた可能性でもあったのだろうか。……それなら今の話ぶりは頭の片隅にでも置いておこう。探し物のヒントにもなるはずだ。
「美波さん、どうかした?」
俺は何も勘付いていない振りをしてそう問いかける。すると安心したのか美波さんはふにゃりと表情を柔らかくしてスマートフォンに視線を戻す。その瞬間。
「あっ」
美波さんは階段の一番下で無いはずの最期の一段を降りようとして膝から崩れ落ちた。足元を確認せずに階段を昇り降りしているとたまに最期の一段の後の一歩でカクンとなることがあるけれど、膝から崩れ落ちて地面に両手までついた人は初めて見た。どこか捻ったりしたのだろうか。
「美波さん大丈夫?」
俺は純粋な心配からそう聞いたのだが、美波さんはスッと立ち上がると俺に背中を向けてプルプルと震えた。
「は、恥ずかしいので今見たことは忘れてください」
「そう言われると逆に忘れられないかもしれない」
エピソード記憶というのは不思議なもので、こうしたやり取りをするほど記憶に残りやすい。だから普通はこういうことは簡単に忘れられなくなってしまうものだ。俺と美波さんの間で起きたエピソードとして記憶に残ってしまうだろう。
「嘘でも忘れるって言ってくれてもいいじゃないですか。真壁君は意地悪です」
「確かにそう言えば良かったかもな。って美波さん? 待って!」
美波さんは俺に背を向けたまま校舎の玄関から外に駆け出してしまった。そんなに恥ずかしかったのだろうか。しかし俺はそこでどうしても美波さんを呼び止めなくてはいけなかった。
「靴に履き替えるの忘れてるよ!」
俺の叫びで立ち止まった美波さんはゆっくりと歩いて下駄箱まで戻ると、丁寧にスリッパの裏を手で叩いたり拭いたりして元に戻す。そして自分が履いてきたローファーの前にしゃがみ込むと、靴を履くのではなく顔に両手を当てて大きな呻き声を吐いた。
「うー」
普通はここで慰めるべきだろう。
「どんまい」
俺がそう言って美波さんの肩を叩くと、美波さんは虫を払うかのようにブンブンと手を振って俺を手を払った。
うん。流石に俺もそれは分かっていて意地悪をした。これで意味も分からず探し物に付き合うことへのフラストレーションは一旦初期化された気がする。我ながら性格が悪い。
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