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14.ポンコツ
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美波さんのお父さんは俺にそう聞き返してきた。若干の警戒心を感じる。探しものが何か分かっているのだとしたら誘導されて教えてくれるのではないかと期待したのにすぐに答えを得ることはできなかった。逆に不信感を与えてしまった可能性まである。
「探しものを手伝うように言われたは良いものの何を探すのか教えてくれなくて。心当たりは無いですか?」
不信感を抱かれることにはデメリットしかない。そんなデメリットを背負うくらいならば素直に聞くに限る。俺の話を聞いて美波さんのお父さんはわずかに持っていた警戒心を解くと、少し伸びた顎髭をジョリジョリと指でなぞって悩んでいた。探しものが何か考えているのか。はたまた探しものが何か分かっていて俺に伝えようか悩んでいるのか。前者にしろ後者にしろ、俺はただ待つ事しかできない。
しばらくの沈黙の後、美波さんのお父さんはゆっくりと口を開いた。
「聖奈は多分……」
「飲み物……買ってきました……」
美波さんのお父さんが探しものについて話してくれようとしたところで丁度美波さんがジュースを買って戻って来た。重たそうに両手で1.5リットルのペットボトルを三本抱えて……。
「聖奈? ちょっと買い過ぎじゃないかな?」
俺が思ったことを美波さんのお父さんが代弁してくれた。俺のために買ってくれるジュースと聞いていたので、てっきり缶ジュースか多くても500ミリリットルのペットボトルくらいだと思っていた。しかし当の本人である美波さんはお父さんにそう言われて不思議そうに目をパチパチさせて固まっていた。
「え……っと。真壁君におもてなしするのでしたら少しでも多い方が喜んでいただけると思いまして。私の両手で持てるだけの量にしたのですが……。なにか間違えましたか?」
「まさか、その三本全部俺にくれるつもりだったの?」
「はい。もちろんそうですけど?」
「いや、それはちょっと流石に、いや、おかしいな。俺がおかしいのかな。なんだか分からなくなってきた」
「真壁君。君の感覚は間違っていないよ」
「ですよね!?」
美波さんのお父さんがフォローしてくれたおかげで俺は混乱から立ち直ることができた。しかし美波さんの方は逆に理解できていない様子だった。
「じゃあ、せっかくなので一本いただきますね。ありがとうございます」
「ここで飲み切れなんて言わないから遠慮せず持って帰ってね。聖奈、残った二本はそこの冷蔵庫にでも入れておいて」
美波さんのお父さんはそう言って病室の角に置いてある冷蔵庫を指さした。美波さんは言われるがままに俺が手に取らなかった二本を冷蔵庫へとしまった。
「私はいったい何を間違ったのでしょうか?」
「いや、美波さん。いいんだよ。気遣ってくれたことは素直に嬉しいから。常識はこれから身に付けていけばいいからね」
「それではまるで私が非常識な人間みたいではないですか」
病室に着いた瞬間の美波さんと比べると幾分か元気になった様子だが、言動はやはりどこかずれている。
「真壁君。君になら娘を安心して任せられそうだ」
「ははは。善処いたします」
「探しものを手伝うように言われたは良いものの何を探すのか教えてくれなくて。心当たりは無いですか?」
不信感を抱かれることにはデメリットしかない。そんなデメリットを背負うくらいならば素直に聞くに限る。俺の話を聞いて美波さんのお父さんはわずかに持っていた警戒心を解くと、少し伸びた顎髭をジョリジョリと指でなぞって悩んでいた。探しものが何か考えているのか。はたまた探しものが何か分かっていて俺に伝えようか悩んでいるのか。前者にしろ後者にしろ、俺はただ待つ事しかできない。
しばらくの沈黙の後、美波さんのお父さんはゆっくりと口を開いた。
「聖奈は多分……」
「飲み物……買ってきました……」
美波さんのお父さんが探しものについて話してくれようとしたところで丁度美波さんがジュースを買って戻って来た。重たそうに両手で1.5リットルのペットボトルを三本抱えて……。
「聖奈? ちょっと買い過ぎじゃないかな?」
俺が思ったことを美波さんのお父さんが代弁してくれた。俺のために買ってくれるジュースと聞いていたので、てっきり缶ジュースか多くても500ミリリットルのペットボトルくらいだと思っていた。しかし当の本人である美波さんはお父さんにそう言われて不思議そうに目をパチパチさせて固まっていた。
「え……っと。真壁君におもてなしするのでしたら少しでも多い方が喜んでいただけると思いまして。私の両手で持てるだけの量にしたのですが……。なにか間違えましたか?」
「まさか、その三本全部俺にくれるつもりだったの?」
「はい。もちろんそうですけど?」
「いや、それはちょっと流石に、いや、おかしいな。俺がおかしいのかな。なんだか分からなくなってきた」
「真壁君。君の感覚は間違っていないよ」
「ですよね!?」
美波さんのお父さんがフォローしてくれたおかげで俺は混乱から立ち直ることができた。しかし美波さんの方は逆に理解できていない様子だった。
「じゃあ、せっかくなので一本いただきますね。ありがとうございます」
「ここで飲み切れなんて言わないから遠慮せず持って帰ってね。聖奈、残った二本はそこの冷蔵庫にでも入れておいて」
美波さんのお父さんはそう言って病室の角に置いてある冷蔵庫を指さした。美波さんは言われるがままに俺が手に取らなかった二本を冷蔵庫へとしまった。
「私はいったい何を間違ったのでしょうか?」
「いや、美波さん。いいんだよ。気遣ってくれたことは素直に嬉しいから。常識はこれから身に付けていけばいいからね」
「それではまるで私が非常識な人間みたいではないですか」
病室に着いた瞬間の美波さんと比べると幾分か元気になった様子だが、言動はやはりどこかずれている。
「真壁君。君になら娘を安心して任せられそうだ」
「ははは。善処いたします」
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