願い!運命を超えて

色部耀

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国士無双5

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「面白い話と言われても困るわね……。そういえば、反射神経測定アプリって携帯に入れてる?」

「入れてますよ! 俺こういう測定する系のやつ好きなんで色々取ってるんですよ」

「ちょっとそれで遊んでみない?」

 実は、以前クラス内でこの反射神経測定アプリが流行っていた。流行っていたとはいえ二・三日だったけれど。このアプリは、画面が四分割されており、その中の一ヶ所が光る。そして、光った瞬間に光った場所をタッチするという単純なゲームだ。光ってからタッチするまでの時間が表示されて、オンラインランキングも見られるという。

 当時、クラスメイトに頼まれて参加してみたのだけれど、私は平均を出すようにわざと遅くタッチをした。後から思えば、自分の携帯にインストールしてプレイすれば、真面目にやってもおかしな速さにはならなかっただろう。

「もちろん、運任せにタッチはしないようにしましょう」

 新田くんはそう言って私に携帯を差し出す。画面に映った最高記録は『0.0000秒』だった。運任せに何度も挑戦したのだろう。

 人間が視認して体を動かし始めるまでの限界速度はおおよそ0.1秒と言われている。これは、電気信号の限界と考えられていて、画面をタッチするという行動と、指が画面に届くまでの距離も考慮すると、もう少しかかるだろう。

 クラスメイトも女の子たちも、大体0.3秒程の記録だった。早い子でも0.2秒は切らなかったと思う。

「先に新田くんがやってみて。私は後で」

「俺、結構自信ありますよ? 若菜さんに十倍の差がつけられない自信はあります」

 自信満々に胸を叩く新田くんは、そう言いながら集中力を高めているのが分かった。顔が真剣みを帯びていた。実際、新田くんの運動神経をもってすれば、0.2秒を切るということも想像にかたくない。

「いきます」

 そう言って測定開始のボタンを押す。――しばらくの静寂の後、四分割された画面の右上が光る。

 その瞬間、私の目から見ても早いと分かる速度で新田くんは画面をタッチした。

 ――結果。

「うし! 0.1053秒でした! 真面目にやった時の最高記録更新です! 本気出した甲斐がありました!」

 嬉しそうに語る新田くんは、少し顔が赤くなっていた。集中して血流が良くなっているからだろうか?

 それにしても、本当に驚いた。私の知っている知識では、0.1秒が人の限界ではないか……という仮説だった。新田くんの測定結果は、私が限界だと思っていた反応速度とほぼ同じ……。指が動き出してから画面に触るまでのタイムラグと、四画面のどれを触るかという判断時間を考えると、新田くんは人の反応速度の限界とされる時間を上回っているのではないだろうか?

「大体、友達の倍くらい早いですよ、俺。まあ、薫は0.2秒を切ったんで倍とまではいかないですけど」

 確かに、一般的に反応の良い人というのがそのくらいだろう。新田くんの場合、才能……とでも言うべきか。

「じゃあ、次は私ね」

 新田くんから携帯を受け取り、測定開始のボタンを押す。自らの異常を隠すことなく力を発揮できるというのは、思いの外楽しく感じられた。画面が光るまでの数秒――私は自分の力が分かるということに対してワクワクが止まらなかった。

 どういう結果になるのだろう? 他の人と比べて実際はどの程度違うのだろう? 時計の針を比べて周りと十倍の時間差があるとは認識していたけれど、私自身の能力としての差はどうなのだろう? そう思うと楽しみだった。

 そして、その瞬間を他の誰かが知ることになるというのも、何かこう――嬉しい気持ちになった。安心感……みたいなものなのだろうか? それも、私の異常に対して『面白い』なんて感想を持ってくれているからなのだろう。

 画面が光る――。

「あっ」

 集中力が途切れていた……。

「見せてください! うぉーー! すげーー! 0.0251秒!」

 正直なところ、もう一度やり直したい……。でも、これが目安にはなるのではないかと思う。友達が大体0.3秒から0.2秒の間。――能力的には、私は特に秀でているという訳ではないと。

「若菜さん若菜さん! 他にも色々やってみましょうよ!」

 新田くんは、目を輝かせながら私に様々なアプリを薦めてくれた。動体視力測定やら、速度測定やら――。

「ほんとに凄いですねー! なんか、こっちもテンション上がります!」

 テンションが上がっているのは言われなくても分かる程に楽しそうだった。なぜだろう? こんなに異常なものを見て気味悪がったりするものだと思っていたのだけれど……。

「新田くんは……私がこんな変な人だって分かって何ともないの?」

 ついに私は口に出して聞いてしまった。新田くんは楽しそうに私と測定対決みたいにしていたのだけれど、私はモヤっとしたものがずっとあった。初めからずっとあったのだけれど、他の友達と話すように自然体でいる新田くんに対して中々言い出せなかった。

 実を言うと、先週の姿を見られた時に、疎遠になってしまうのだろう――くらいは覚悟をしていた。なのに――。

 それなのに、どうして新田くんはこうも今までと変わらず接してこられるのだろうか? 私はずっと理解ができなかった。私のこれは『個性』で片付けられるような生易しいものでは無いはずだ。

 ――異常なのだ。

「変? っていうか凄いとは思いますけど、どうしたんですか? そんな複雑そうな顔をして」

 複雑そうな顔――。壁にかかっている鏡を見ると、苦虫を噛み潰したような渋い顔をした顔が映っていた。……酷い顔だった。通りで新田くんが心配そうな顔をしているわけだ。

「別に隠す必要なんかないと思いますけどね。いっそのこと、自慢しちゃっても」

「自慢?」

「そうですよ。凄いことなんですから、自慢しちゃいましょうよ」

「はー……。あのね新田くん。こんなことを公にしたらメディアが駆けつけるどころの騒ぎじゃないわよ? 面倒な研究機関も出てくるだろうし、超能力が世間的に広まっていない事を考えても、何かしら秘匿にするための力がかかってくるはずよ」

「え、あ、まあ、そう言われればそうですね。納得です。あんまり公表しない方向で行きましょう」

 新田くんは、あんまり考えずに言っただけみたいだった。でも、その方が私も気が楽ではあるけれども。しかし、答えられるような説明をすることで自分の頭が冷静になるというのも不思議なものだった。

 酷い顔だったのが、とりあえず元に戻った。少し心配そうにしていた新田くんも笑顔に戻ってくれた。

「でも、もし俺がその能力を持っていたら、スポーツでも優勝できる程度には力を使っちゃうと思いますけど。若菜さんって、陸上の個人競技って、いつも予選落ちですよね? 何でですか? リレーの時はいっつも二走で順位キープしてますけど……」
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