願い!運命を超えて

色部耀

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時は金なり7

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「彼らが探しているのは、ワールドメモリーに干渉できる能力者だ。ワールドメモリーと言うのは、要するにこの世界の理そのもののこと。百億年以上前に世界がゼロから正の時間軸へと進み始めたころより蓄えられてきた『世界の記録』に触れることができる能力だ。おそらく彼らは、その力を悪用しようしているのだろう。どこで情報を得たのかは知らないが、三つあるワールドメモリーに関する能力の一つ『読み取る能力者』がこの辺りに居ると分かり探している――といったところか」

 ワールドメモリー……。私も過去にネットで見たことがある。しかしそれは、一種のオカルト。都市伝説や道聴塗説のようなものに興味があったころに見た記事の一つだった。信憑性は皆無。私が、藁にもすがっていた幼少期に知った単語――。その証拠に、内容は全く覚えていない。

「読み取る能力……それがあれば、過去に起きた出来事が全て分かるという訳ですか――。考古学者や汚職政治家は職を失いますね」

「ははっ! もしかしたら、目的はそれかもしれないね。しかし、もっと深く読み解くと、生命の起源や物理法則なんかも知ってしまうことができる。ヒト一人の短い人生でさえ、科学技術を何世紀分も発展させることができるかもしれないんだ。上手くやれば、それだけで世界を掌握できる力だ」

「でもそれって、社会からの信用を勝ち取って、さらに伝える技術を持っていないと難しいですよね」

 実験結果や計算結果。確実な再現性のある事象でなければ、この科学が進歩した社会では只々SFと呼ばれるだけ。一人では限界がある。時間にも制約がある。

「君は本当に聡い子だ。過去にその能力を持っていた人も、結局は全てを使いこなせず、他人に伝えることも叶わない人生だったみたいだ。それに、世界の記録を読み解くにも、限界があるようだしね」

 能力だけではなく、その能力を持った人の性格や性能が関係するのだろうことは、容易に想像できた。田中さんの瞬間移動の能力然り、止める男の能力然り――。

 私の能力も、他の人が持っていれば、もっと上手く使いこなせていただろう。

「おそらくですが……その能力者に心当たりがあるんです。今でこそ、私のことをその『読み取る能力者』と思っていてくれているので、彼は安全だと思うのですが……」

「その彼――と言うのは、自分を危険にさらしてでも助けようと思う大切な人なのかい?」

 間髪入れずに返答してきた田中さんは、とても悲しそうな顔をしていた。自分を犠牲にして欲しくない……そう言っているようだった。

「はい。もちろんです。彼は、私にとって家族も同然の存在なので」

「恋人かい?」

「いえ、彼が好きなのは妹の方ですから。それに私なんて恋すら……」

 恋すらしたことがない。そう言おうと田中さんを見ると、なぜだか言葉が止まってしまった。

 ――会えることが待ち遠しくて、暇さえあれば同じ人のことばかり考えていて、顔を見るだけで嬉しくてつい笑みをこぼしてしまう――。

 もしかしたら――と。

「そうかい。その彼は幸せ者だねー。羨ましいねー。こんな素敵な子たちに愛されて。さて、本題。君の今後の身の振り方について」

 一気に真剣そうな顔になる田中さん。私も神経が研ぎ澄まされるのが分かる。――釣られてしまったのだろう。それほどまでに雰囲気が張りつめていた。

「君は、その少年の身代わりになってでも守りたい。しかし、不安が多々ある。助けを乞おうにも、頼れるものがいない。警察はよしておいた方がいい」

 そしてさらに付け足す。

「私のことも頼りにはしてはいけない。ちょっと事情があってね。直接手を貸すことができないんだ。出来うる限り知識は貸そうとは思う。隔週日曜日にここでこうして話を聞こう。約束だ。肝心な一人であることの不安なんだが……」

「超能力に理解があって、事件ごとにも強い人間なんて周りには……」

 一人しか知らない。

「そう、お父さんを頼ると良い」

「え、でも今は仕事でインドネシアに行っているんですよ? こんなことで呼び出す訳には……」

「こんなこと? 世界の一大事だよ。大丈夫。必ず君のことを助けてくれるよ」

 なぜ田中さんはここまで言い切れるのだろうか。私は勝手に世界規模の起業家仲間……いや、企業上の敵同士なのではないかと思っていたのだけれど、違うのだろうか? もしかすると実は会ったことがあるのではないかとさえ思ってしまう。

「じゃあ……一応連絡してみます。忙しそうだったら、しばらく私一人で頑張ります」

「諦めが早いなー。そんなことを考えなくても」

 田中さんは公園の時計を見た。

 その直後、私の携帯のバイブレーションがメールの着信を知らせる。

『今そっちに向かっている。安心していいよ』

 お父さんからだった。

「誰からだい?」

 誰からの着信か――とデリカシーの無い事を聞くような田中さんだったが、知っていたのだろう。――多分。そう思うとデリカシーが無いなんて思うこと自体が馬鹿馬鹿しく思えてきた。デリカシーと言うより、プライバシーが無いようにも感じないでもないけれど……。

 しかし、分かってくれている――というような気がして安心したりもする。

「お父さんからです。今こっちに向かっていると」

「インドネシアからだったら、まあ、二日ほどかな。今ジャカルタにいるなら、二十時間もかからないだろう。良かったじゃないか」

「田中さんは……何者なんですか?」

 聞かないでおきたかったが、ここまで来ると聞きたくなってしまう。

「田中太郎、趣味手品の瞬間移動能力者。ただそれだけの人間だよ。それよりも、日が落ちるまでもう少し時間がある。知りたくはないかい? 後天的に超能力が開花する原因ってやつ。君を襲った動きを止める男も、空間に穴を開けてきた男も、おそらく後天的能力者だろうし、開花理由が分かれば弱点にもなり得る。どうだい?」

 田中さん……十中八九、話をそらしにかかっていますよね? 心ではそう思ってはいたが、聞かれたくない事なのだろうと思い我慢……。口から出そうなのを飲み込む。

「私は先天的……ってやつなのでしょうけど、なぜ彼らが後天的だと思われたのです?」

 無難な質問へと言葉を置換し、やり過ごす。

「ありがとう、私の気持ちを察してくれて。質問に対する答えだが、簡単な話なんだよ。先天的超能力者はコントロールできない異能が発現し続ける。そうでなければ、基本的には後天的さ。かく言う私だって」

 つまり、後天的な能力者は、便利なだけ……というやつなのだろう。

 ずるいなぁ……。

「後天的な原因……もしかして人体改造とか、放射能の影響でしょうか?」

 SF小説などで良くある話。意外と当たっていたりして……なんて思いながら言ってみたり……。

「残念。違うなー。映画の観すぎだよ。原因と言うのは……強い欲望やコンプレックス・トラウマなどなんだ。人の願いが人を超常なモノへと変化させてしまうんだ。願いは……超能力は、自分を幸せにするべきものなんだけれどね、普通は」

 普通――は――。
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