転移した先はバグだらけのモンスター育成ゲーム世界でした

色部耀

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カンドの森ふたたび

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 町長宅から出てカンドの森に向かう道中。ベリルちゃんは冒険への期待に胸を躍らせている様子だった。人一倍上下に動く歩き方のせいもあって物理的にも胸が躍っている。いったいこの巨大な双子山はどれだけの大きさなのだろう。そもそも前の世界とサイズの表現は同じなのだろうか?

「なあベリルちゃん。ベリルちゃんって……」

「ん?」

 俺はそこまで言ったところで口を噤んだ。突然こんなことをベリルちゃんに聞いても答えづらいのではないかと。人に願いを聞いてもらう為の心理手法にフットインザドアというものがある。小さい願いから始めて、徐々に頼む願いを大きくすることで要求を通しやすくするというもの。
 つまり、まず聞くべきは小さいもの!!

「マナ。胸のサイズはいくつだ?」

「Z!!」

「……」

 マナは堂々と嘘をついた。

「Z!!」

 再度胸を張って胸のサイズの嘘をついた。ドヤ顔をしていた。ベリルちゃんの顔を見るとポカーンとしている。
 ベリルちゃんの表情を見るにマナのまな板がZというのが明らかにおかしいというのが分かる。やはり胸のサイズ基準も地球と同じなのだろう。
 マナはなおも堂々と胸を張って歩く。これ以上この話題を続ける勇気は俺には無かった。


 カンドの森に着いてからカンドの洞窟への道筋は鉄鉱石を取りに行くために通ったルートとほぼ同じだ。道中森の中では相変わらずのバックキャット祭り。見慣れた光景にあくびをしながら進む。戦闘は荒れ狂うマナと淡々と戦うウサプーに任せている。俺の強化スキル「アタックバイン」の効果でマナもレベルの高いバックキャットを難なく倒せるようになっている。使用者の魔力によって効果が変わる強化スキルなので現状では悪くない強化になっている。ちなみに原作だと倍率の問題で終盤になるほど使い物にならなくなるスキルだ。
 俺はベリルちゃんと並んでマナたちのあとをついて歩いていた。

「わ、私も戦わなくていいの?」

「いいよいいよ。ベリルちゃんはゆっくりしてて。あれはマナのストレス発散と二人の訓練も兼ねてるだけだし」

「訓練になるならやっぱり私も戦った方が」

 そう言われてしまうと確かにそうかもしれない。昨日一日でバックキャットとの戦いに慣れたマナよりもアドベンチャーになりたてのベリルちゃんの方が訓練をするべきだろう。しかし――

「ベリルちゃんが連れてるヒップキャットはこの辺の敵に比べると強すぎるし、訓練にならないかも」

 レベルも違えば種族による能力も違う。どのバックキャットも一撃で終わってしまうだろう。

「じゃあ、リスボールの訓練!」

「仕方ないな。おーい。マナ! ベリルちゃんとリスボールの戦闘訓練するから交代!」

「おらぁ!!」

 素直に戻ってくるウサプーと違い、マナは叫び声とともにバックキャットを叩きのめし続ける。まるでバーサーカーだな。よほどアタックバインが気に入ったと見える。

「マナ『何もしない』」

 俺は無視して戦い続けるマナにメニューウィンドウを使って指示を出す。服従の首輪の強制力――。マナはその場で動きを止めると戦闘中だったレベル八のバックキャットからスキル「バックドロップ」をくらって砕け散る。

「ベリルちゃん! スイッチ!」

「うん!」

 飛び出したベリルちゃんヒップキャットを後ろに控えさせてリスボールと一緒に戦いに挑む。その間に俺はマナの首輪を拾って蘇生の巻物を使う。HP満タンで生き返ったマナはすぐに俺へと飛びついてきて胸ぐらを掴むと思いの限り揺さぶってきた。さすが死に慣れてるだけはあって復活後の動きが早い。

「なんで! なんであんな酷いことしたの?! 死ぬの痛いんだからね! 痛いんだからね!」

「はいはい。分かった分かった」

「絶対分かってない!」

 マナは絶叫と言っても過言ではないほどの声でそう言いながらずっと俺の胸ぐらを掴んでいる。

「リスボーーーーール!!!!」

 マナに揺さぶられながらなだめていると、離れたところで聞き覚えのある叫び声が聞こえた。そこには死んだリスボールの首輪を抱きしめたベリルちゃんが。
 相手はマナを一撃で葬り去るレベル八のバックキャット。レベル三のリスボールだけでは荷が重い。

「ベリルちゃん危ない!」

 俺が叫んだ時にはすでに遅く、リスボールの首輪を抱きしめたベリルちゃんはバックキャットの攻撃をまともにくらってしまった。原作ではベリルちゃんのステータスは一切分からない。そのためどれだけのダメージが入るか分からない。
 俺はマナを振りほどいてベリルちゃんに駆け寄りながらステータスウィンドウを開く。指定先はベリルちゃん。しかしベリルちゃんのHPは一割ほどしか減っていなかった。

「ヒップキャット!」

 よろけたベリルちゃんがそう呼ぶと、一瞬で敵に接近したヒップキャットが蹴り一発で相手を消滅させる。

「ん? リョウ何してるの?」

「ちょっと計算を」

 ベリルちゃんのHPを見てひとまず安心した俺は、地面に数字を書き出して計算をしていた。ベリルちゃんのHPと防御力を。

「なるほど。この辺りが妥当か」

 ある程度の予測が立ったところで俺は持っていた木の枝を投げ捨てる。

「ん? どういうこと?」

「ベリルちゃんのステータスの設定基準がだいたい分かった。おそらくプレイヤーキャラ……俺と同じステータステーブルで間違いない」

 あたりをつけて計算したところ、レベル十五のプレイヤーキャラのHPの減り具合と一致する。原作の開発陣の設定にしろリロの設定にしろ、無駄に凝ったことはしないと思われる。要するにコピーアンドペースト。プレイヤーキャラと同じになってある可能性が高い。

「つまりレベル十五のベリルちゃんはサトリエリアのモンスターとも対等以上に戦えるステータスってことだ」

「待って。ってことは私、ベリルちゃんの攻撃受けたら……」

「一発だな」

 マナはポカーンと口を開けて佇んでいる。ステータスを確認すると絶望状態になっていたのでキュアッキュアにしておいた。

「ベリルちゃん。ベリルちゃんのパーティだと、このエリアでレベルを上げられるのはリスボールだけみたいだ。だけど、リスボールだと弱すぎて敵を倒せない。そこでだ」

 俺は人差し指を立てて提案する。

「しばらくヒップキャットとリスボールを待機させて、ベリルちゃん一人でバックキャットを倒してまわるのはどうだろう」

「ん? それだとリスボールのレベルが上がらないんじゃないの?」

「いや、パーティを組んでいるならベリルちゃんが倒した敵の経験値はリスボールにも入るはずだ。それである程度リスボールのレベルが上がったら一緒に戦うといい」

 パーティで経験値が共有されることをベリルちゃんが知らないだけなのか、この世界の常識なのかは分からない。しかし、本当に経験値が分配されるかは実際に試してみれば分かることだ。それだけ分かればいい。

「先輩の言うことだし……。うん。試してみる」

「ベリルちゃん。もっかい言ってみて」

「ん? 先輩の言うことだし、試してみる」

「くぅーっ! おいマナ、聞いたか? 先輩って言われるのいいな!」

「私も先輩って呼んであげよっか?」

「結構です」

「なんで!」

 マナは地団駄を踏んで怒っている。ベリルちゃんは特別だからね。

「じゃあ、これからも先輩って呼ぶね」

「いや、あー、うん、えーっと……。よろしくお願いします」

「あはは。変なの。では先輩! わたくしベリル、バックキャット討伐に行ってまいります!」

 ベリルちゃんはそう言ってリスボールを生き返らせると先に進む。するとすぐに木陰からバックキャットが現れた。レベルは五。先程のバックキャットよりは弱い。バックキャットにベリルちゃんは向かっていく。腰に下げていた短剣を構えると、何の駆け引きもなくバックキャットに斬りつけた。原作と同じシステムならステータス差によって回避されることはありえない。しかしバックキャットはベリルちゃんの縦斬りを華麗に躱す。

「とう! おりゃ!」

 間の抜けた掛け声とともに短剣を振り回すがなかなかバックキャットに当たらない。そんなことをしているうちにベリルちゃんは反撃をくらってよろめく。しかし、ダメージはほぼ無い。
 昨日の戦い始めのマナを思い出す。マナの場合は死と隣り合わせだったからすぐに上達したが、ベリルちゃんはどうなるのだろうか……。
 しかし、そんな思いは杞憂だったようで、よろめいたベリルちゃんは踏ん張った反動でバックキャットを横薙ぎに斬り裂く。動きが先程と全く違う。

「せんぱーい! 倒せましたー!」

 十メートルほど先にいるベリルちゃんは飛び跳ねて報告してくる。うん。可愛い。しかし最期の機敏な動きが気になる。

「あれは猫被ってたところをやられてキレた感じだな」

「うお! リロいつの間に!」

 振り返るとすぐそばでリロが怪しい笑みを浮かべていた。リロは膝立ちで台車のハンドル部分に寄りかかりながら興味深げにベリルちゃんを見ている。

「寝ることと食べること以外には興味ないんだと思ってた」

「実は人間観察も嫌いじゃない」

 俺のイメージを否定するわけではないんだな。

「まあ、ベリルちゃんもアドベンチャーを夢見て牧場で力仕事してたんだから、全く動けないはずはなかったんだよな」

 薄々気付いてはいた。それでも可愛らしく振る舞うベリルちゃんを見ているのは楽しかったんだ。

「ベリルちゃんナイスー!」

「いえーい!」

「……お前も見てて面白いぞ」

「……そりゃどうも」

「リョウ! 私も一匹倒したよ」

「そうか」

「差! 私とベリルちゃんの扱いの差!」

 マナも順調に戦闘技術を伸ばしているようでなによりだ。
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