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黄金の衝撃とダークスパイラル
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それからレベリングを続けているうちに日が落ちる。なかなかレベルが上がらないように感じてきた頃、三人と一匹は揃ってレベル三十八になっていた。とはいえマナとリロはステータス的に戦力外だし、俺は装備が無いため普通のモンスターよりワンランク下だ。ウサプーは使えるスキルも増えてきたが、下位モンスターのため強いとは言いがたい。
カンドにあるモンスター牧場が解放されたらこの辺りのモンスターを捕まえに来るか……
「ねえ。いい加減おなかすいたんだけど」
キマイルを倒した帰り道。マナが俺の上着の裾を引っ張って不満げに告げる。
「私は眠い」
「お前はずっと寝てただろ」
ついでとばかりに寝転がったまま手を挙げたリロに俺は若干の苛立ちをぶつける。本当にずっと、ずーっと寝てたのだ。たまにすることと言えば寝返りと小言。
「神様に向かって口の利き方がなってないぞ」
リロはそう言って立ち上がると空中に向けてデコピンの構えを取った。グググっと力を込めたかと思うとそのまま中指を弾く。その瞬間――
「いっっぢぁっっ!!」
俺は言葉にならないうめき声を上げてその場にかがんだ。全身に電撃が走ったかのような痛み、衝撃。頭が真っ白になる。俺は痛みの発生源を押さえるが、なかなか痛みが収まらない。
「その名も、黄金の衝撃。神にのみ許された必殺技よ」
リロは西部劇のガンマンよろしく、中指に息を吹きかけてそう言った。黄金の衝撃……だと……? 凶悪が過ぎる。やっと頭が回り始めたところでリロが何をしたのかが理解できた。
ファイターと違ってキャスター型のモンスターは通常攻撃が遠距離攻撃になる。この世界ではその特性が反映された結果、攻撃を遠距離で好きな場所にぶつけることができるのだろう。
つまりは、俺の局部を狙い撃ちしただけの通常攻撃だ。
「大丈夫? 何が起こったの?」
俺の隣で慌てる様子のマナだったが、説明する元気すらなかった俺は端的にこう伝えた。
「俺がリロに逆らうことができなくなっただけだ」
悔しいが、この痛みに抵抗できる男などどこにも存在しないだろう……。
大人しく……と言うより極限までテンションの下がった状態の俺は二人と一匹を連れてカンドまで戻った。原作ではただの宿屋だった家は、金を払えば料理まで出してくれる施設となっていた。
「カンドのご飯も美味しいね」
呑気に川魚料理を口に運ぶマナは幸せそうに笑っている。少しずつ味わう様子は不本意ながらも見ていて安らぐ。
「おかわり」
マナと違って黙々とかき込む勢いで食べるリロはデコピンの素振りをして見せると俺に告げる。
「店員さん! お味噌汁のおかわりお願いします!」
「よろしい」
「く……何様だよ……」
「神様だよ?」
リロは今までで最もキラキラした笑みを見せて可愛らしくそう言った。これまでの言動を完全に無視してしまえば大人気ヒロインの座を狙えるロリ女神なのだろうが、無視することも忘れることもできない。あの痛みを超える教訓は、今後現れないだろう。
「お、お金は大丈夫なの?」
俺が迷わずおかわりを頼んだのを聞いてマナは恐る恐る聞いてくる。ラストダンジョンの宝箱のおかげでお金を気にする必要はないし、なんなら今日倒したキマイルのドロップアイテムである「真紅の葉」を売れば悪くない金額になる。だが、それを知られて豪遊されると癪なので適当に答えることにした。
「もしお金が足りなくなったらマナにここで働いて稼いでもらうとするよ」
「え、え、働くってなに? 私何させられるの?」
「まあ、厨房とかで」
「厨房とかで……? できることあるかな……」
「まな板やれば良いんじゃない」
「待って?! 酷くない?!」
マナはそう言いながら俺の太ももを何度も全力で叩く。レベリングによってステータスに大きな差ができたせいでいくら叩かれてもダメージはゼロだ。クリティカルヒットでも一しか入らない。今のHPは千五百を超えているので死ぬまでかなりの時間がかかるだろう。
「ステータスに差があると何されても気にならないもんだな」
「ねえ、気にして? ちょっとくらい気にして?」
「でも……」
「ん?」
俺がそう言うとマナは動きを止めて首を傾げた。
「明日行くカンドの森でスキルを覚えるアイテムが手に入るから、そのアイテムを使えばダメージ与えることはできるようになるよ。遠距離レベル依存スキル『ダークスパイラル』」
「なにそれなにそれ! めっちゃカッコいい!」
「防御力無視、属性耐性無視でレベル依存の固定ダメージが入るスキル。今レベル三十八のマナが使うと、どんな相手にも七十六のダメージが入る」
「七十六……あれ? リョウのHPって今いくつだっけ?」
「千五百二十だな」
「ダークスパイラル弱いじゃん!」
「マナでさえ二十回撃てば俺を倒せるって思えば強いスキルだろ?」
「酷くない?!」
「おかわり」
「店員さん! 焼き魚のおかわりお願いします!」
カンドにあるモンスター牧場が解放されたらこの辺りのモンスターを捕まえに来るか……
「ねえ。いい加減おなかすいたんだけど」
キマイルを倒した帰り道。マナが俺の上着の裾を引っ張って不満げに告げる。
「私は眠い」
「お前はずっと寝てただろ」
ついでとばかりに寝転がったまま手を挙げたリロに俺は若干の苛立ちをぶつける。本当にずっと、ずーっと寝てたのだ。たまにすることと言えば寝返りと小言。
「神様に向かって口の利き方がなってないぞ」
リロはそう言って立ち上がると空中に向けてデコピンの構えを取った。グググっと力を込めたかと思うとそのまま中指を弾く。その瞬間――
「いっっぢぁっっ!!」
俺は言葉にならないうめき声を上げてその場にかがんだ。全身に電撃が走ったかのような痛み、衝撃。頭が真っ白になる。俺は痛みの発生源を押さえるが、なかなか痛みが収まらない。
「その名も、黄金の衝撃。神にのみ許された必殺技よ」
リロは西部劇のガンマンよろしく、中指に息を吹きかけてそう言った。黄金の衝撃……だと……? 凶悪が過ぎる。やっと頭が回り始めたところでリロが何をしたのかが理解できた。
ファイターと違ってキャスター型のモンスターは通常攻撃が遠距離攻撃になる。この世界ではその特性が反映された結果、攻撃を遠距離で好きな場所にぶつけることができるのだろう。
つまりは、俺の局部を狙い撃ちしただけの通常攻撃だ。
「大丈夫? 何が起こったの?」
俺の隣で慌てる様子のマナだったが、説明する元気すらなかった俺は端的にこう伝えた。
「俺がリロに逆らうことができなくなっただけだ」
悔しいが、この痛みに抵抗できる男などどこにも存在しないだろう……。
大人しく……と言うより極限までテンションの下がった状態の俺は二人と一匹を連れてカンドまで戻った。原作ではただの宿屋だった家は、金を払えば料理まで出してくれる施設となっていた。
「カンドのご飯も美味しいね」
呑気に川魚料理を口に運ぶマナは幸せそうに笑っている。少しずつ味わう様子は不本意ながらも見ていて安らぐ。
「おかわり」
マナと違って黙々とかき込む勢いで食べるリロはデコピンの素振りをして見せると俺に告げる。
「店員さん! お味噌汁のおかわりお願いします!」
「よろしい」
「く……何様だよ……」
「神様だよ?」
リロは今までで最もキラキラした笑みを見せて可愛らしくそう言った。これまでの言動を完全に無視してしまえば大人気ヒロインの座を狙えるロリ女神なのだろうが、無視することも忘れることもできない。あの痛みを超える教訓は、今後現れないだろう。
「お、お金は大丈夫なの?」
俺が迷わずおかわりを頼んだのを聞いてマナは恐る恐る聞いてくる。ラストダンジョンの宝箱のおかげでお金を気にする必要はないし、なんなら今日倒したキマイルのドロップアイテムである「真紅の葉」を売れば悪くない金額になる。だが、それを知られて豪遊されると癪なので適当に答えることにした。
「もしお金が足りなくなったらマナにここで働いて稼いでもらうとするよ」
「え、え、働くってなに? 私何させられるの?」
「まあ、厨房とかで」
「厨房とかで……? できることあるかな……」
「まな板やれば良いんじゃない」
「待って?! 酷くない?!」
マナはそう言いながら俺の太ももを何度も全力で叩く。レベリングによってステータスに大きな差ができたせいでいくら叩かれてもダメージはゼロだ。クリティカルヒットでも一しか入らない。今のHPは千五百を超えているので死ぬまでかなりの時間がかかるだろう。
「ステータスに差があると何されても気にならないもんだな」
「ねえ、気にして? ちょっとくらい気にして?」
「でも……」
「ん?」
俺がそう言うとマナは動きを止めて首を傾げた。
「明日行くカンドの森でスキルを覚えるアイテムが手に入るから、そのアイテムを使えばダメージ与えることはできるようになるよ。遠距離レベル依存スキル『ダークスパイラル』」
「なにそれなにそれ! めっちゃカッコいい!」
「防御力無視、属性耐性無視でレベル依存の固定ダメージが入るスキル。今レベル三十八のマナが使うと、どんな相手にも七十六のダメージが入る」
「七十六……あれ? リョウのHPって今いくつだっけ?」
「千五百二十だな」
「ダークスパイラル弱いじゃん!」
「マナでさえ二十回撃てば俺を倒せるって思えば強いスキルだろ?」
「酷くない?!」
「おかわり」
「店員さん! 焼き魚のおかわりお願いします!」
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