2 / 6
第2話 家庭の事情
しおりを挟む この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
671
お気に入りに追加
679
あなたにおすすめの小説


私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください
里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。
そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。
婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。
アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。
今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。
私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。
これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

〖完結〗もうあなたを愛する事はありません。
藍川みいな
恋愛
愛していた旦那様が、妹と口付けをしていました…。
「……旦那様、何をしているのですか?」
その光景を見ている事が出来ず、部屋の中へと入り問いかけていた。
そして妹は、
「あら、お姉様は何か勘違いをなさってますよ? 私とは口づけしかしていません。お義兄様は他の方とはもっと凄いことをなさっています。」と…
旦那様には愛人がいて、その愛人には子供が出来たようです。しかも、旦那様は愛人の子を私達2人の子として育てようとおっしゃいました。
信じていた旦那様に裏切られ、もう旦那様を信じる事が出来なくなった私は、離縁を決意し、実家に帰ります。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全8話で完結になります。

王命を忘れた恋
須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』
そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。
強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?
そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる