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第2話 家庭の事情

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 私は父の前妻デリーヌとの娘。
 その母は1年前に病で亡くなった。
 当時の私は17歳。

 両親は政略結婚だった。
 それ故、両親が一緒にいても笑った顔を見た事がないのは…不思議な事ではない。

 父は留守にする事が多かったため、私はいつも母といた。
 だから父に可愛がってもらった記憶はないし、抱きしめられた事もない。

 母はもともと体の弱い人だったわ。
 私を出産すると、寝たり起きたりの生活を送るようになってしまった。

 そんな母が亡くなり忌明いみあけが過ぎると、父がイザリア…継母と再婚すると言い出した時はさすがに大反対した。

「…再婚って…お母様が亡くなってまだ二か月も経っていないのですよ? いくらなんでも早すぎます! 非常識だわ!!」

「生意気な事を言うな!!」

 バシ!!

 いきなり頬を叩かれた勢いで、私は床に倒れ込んだ。

「…おと…さま…」
 
 殴られた頬を押さえながら声が震え、身体が震えた。

 父に冷たくされてきた日々の中でも、手を上げられた事は一度もない。
 けれど継母のためなら、いとも簡単に娘を殴る父に失望を感じた。

「私がデリーヌを亡くして打ちひしがれている時、同じように夫を亡くしたイザリアと出会った。彼女は女手一つで娘を育てて来たんだ! お互いに伴侶を亡くした者同士、分かりあえる部分が多々あった。今まで苦労した分、一日でも早く不自由のない生活をさせてやるべきだろう!? おまえにはそれくらいの優しさも持ち合わせていないのか!!」

 そう怒鳴り散らすと後は早かった。

 すぐに継母と義姉を迎え入れ母が使っていた部屋を継母が使い、義姉は私が使っていた部屋をあてがわれ、私は北側の薄暗い部屋へと追いやられた。

 母を亡くして打ちひしがれていた?
 病床の母の様子を見に来る事など、一度もなかったのに?
 葬儀の時はあくびをかみ殺していた事に、私が気が付いていないとでも?

 言いたい事は山ほどある。
 けれど、言ってもどうせ父の耳には何一つ届かないのだろう…

 結局、母が亡くなってから二か月足らずで父はイザリア継母と再婚。
 継母には前夫との間に娘がおり、一つ年上の義姉ができた。
 それがロレーヌ。継母にそっくりの風貌だ。

 美しいさらりとした金髪にライトグリーンの瞳。
 ダークブルーの髪にダークブラウンの瞳の地味な私とは、真反対の明るい印象だ。
 そのせいか父は、連れ子の義姉をとても可愛がったわ。

 継母と義姉といる父は幸せそうに笑う。
 実母と私には決して見せる事のなかった笑顔を、この二人にはいつも向けていた。

 彼女たちといる事で私にも見せてくれるのではないかと淡い期待をして、この時は家族として仲良くやって行こうと思った。

 そう思う事でこの再婚を受け入れようと―――…

 しかし継母や義姉はもちろん、父さえも家族で仲良く…という考えはなかったようだ。

 食事の際は一応呼ばれるけれど、常に私はいない者。
 義姉が今日の出来事を父と義母に話し、二人はそれを楽しそうに聞いている。
 
 父と母そして私たち三人で過ごした食卓では決してなかった光景だ。

「よしっ 今度はで出かけよう」
 そう提案する父。

「楽しみだわ!」

「良かったわね」

 喜ぶ義姉に嬉しそうに話しかける継母。
 その中にもちろん私は入っていない。

 まるで最初からここの家族は、父と継母そして義姉の3人だったかのように…

「…お先に失礼いたします」

 ほとんど食事に手を付けずに、私は席を立った。
 私の言葉に反応する人はいない。
 唯一義姉は、口角を上げながら嬉しそうに私を見ていた。

 悲しかったけれど、それでもまだ我慢できた。

 私には、母がいた時から仕えてくれているばあやと使用人たちがいたから。
 そして婚約者であり、幼馴染のジョシュアがいてくれたから。

 父に愛してはもらえなかったけれど、私は大好きな人たちに囲まれて幸せに過ごしていた。

 けれどわずかに残された心のどころは、継母の一言で奪われる事となる。

「前の奥様に仕えていた人たちって…何か嫌だわ、まるで比べられているようで。私たちの結婚を機に、全て新しくしましょうよ、ね?」

 そして、すべて新しい使用人に一新されてしまった。

 その後母が亡くなって1年が過ぎ、18歳になった私はジョシュアと結婚。
 これでやっと幸せになれる…そう思った。

 そう思っていたのに―――……
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