婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei

文字の大きさ
上 下
5 / 9

第5話 作られた不信感

しおりを挟む
「そのネックレス、とても素敵ね」

 朝、一緒に食堂へ向かいながらカレリアが私に話しかけてきた。

「そう? ありがとう」

「ウチはアクセサリーとか買う余裕がなかったから、羨ましいわ」

 出た。

 “羨ましいわ”

 彼女の常套句になりつつあるわね。

「…良かったら、このネックレス使ってくれる?」

「え? いいの!?」

「ええ。カレリアの方が似合うわ」

 私はネックレスを外し、カレリアに渡した。

「ふふ、やっぱりそうよね。ありがとう」

 途中、失礼な事を言ったがそれには構わず、受け取ったネックレスを嬉しそうに見つめているカレリア。
 
 さっそく首に着けていた。


****


「あら、そのネックレスは…」
 席に座るなり、カレリアが身に着けているネックレスに気がついたお母様。

「あ、ブロンシュが譲ってくれたんです。もういらないからって」

 “いらない”なんて言っていないのに…でも、よけいな事を言ってくれてありがとう。

「いらないって…それはお祖母ばあ様の形見でとても大事にしていたでしょ? ブロンシュ?」

 そう。お母様の母親…あのネックレスは私を可愛がって下さったお祖母ばあ様が、亡くなる前に下さったネックレス。

 何でも私の物を欲しがっていたカレリアなら、このネックレスも欲しがると思った。
 だからわざとつけてきたのよ。
 そして、お母様ならすぐに気が付くと思ったわ。

「えっ…そ、そうだったの? ブロンシュ。私知らなくて…」

 さすがにお祖母ばあ様の形見と聞いて、戸惑っているカレリア。

「いいのよ」

「いや、おまえ大事にしていたじゃないか。もういらないからって…本当にそんな事言ったのか?」
 お父様が私に問いかけてきた。

「それは…」

 お父様の問いに口籠る私を見て、カレリアが口を挟んできた。

「あ、いえ、いらないからというか…もう使わないって…その…」

 あわてて言葉を訂正していたが、お父様もお母様もカレリアに不審な目を向けていた。

「そ、そんなに大事なものだとは知らなかったわ。これ、返すわね」

 あわててネックレスを外して私に返してきた。

「いいの? あんなに羨ましがっていたのに」

「そ、そんなに羨ましがっていないわっ 素敵ねって褒めてただけじゃない!」

 一生懸命取り繕うカレリア。

 そんなやり取りに、食堂には妙な空気が流れてた。

 朝食が終わり、私とカレリアは一緒に食堂を出た。

「ごめんなさいね、カレリア。お父様とお母様に変な誤解をさせてしまって…」
 
 私は歩きながら謝る素振りを見せた。

「…」
 カレリアは不機嫌な顔をして、さっさと部屋に戻ってしまった。

『これくらいでカッカするなんて、意外と単細胞な人ね』

 私は思わず笑ってしまった。

 前ならカレリアが不機嫌になるのが怖くて、言う事を聞いていた部分があったけれど、今ではなぜそう思っていたのか疑問だわ。

「お嬢様、旦那様と奥様がお部屋でお待ちです」

 カレリアが去ったタイミングで、執事が声をかけてきた。

「お呼びですか?」

 私は両親がいる部屋を訪ねた。
 二人とも渋い顔をして、私の方を見た。

「さっきのネックレスの事だけど…本当にあなたがカレリアに譲ったの?」
 お母様が心配そうな顔で聞いてきた。

「はい」

「どうして? あのネックレス、お祖母ばあ様から頂いたからとても大事にしていたでしょ?」

「…それは」

「カレリアに奪われたのではないの? あなた子供の頃言ってたわよね? カレリアが私の物を取るって。あの当時は子供同士の事だから気に止めなかったけれど、まさか今も…?」

「…こうして返してもらったから大丈夫です」

 私はお母様の言葉を肯定も否定もしなかった。
 その方が、カレリアに対する不信感をあおれると思ったから。

 両親は不安げな視線をお互いに向けていた。

 前はカレリアへの同情心から、私より彼女を優遇する場面が多々あったけれど、今回はどうなるかしら?
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

永遠の誓いを立てましょう、あなたへの想いを思い出すことは決してないと……

矢野りと
恋愛
ある日突然、私はすべてを失った。 『もう君はいりません、アリスミ・カロック』 恋人は表情を変えることなく、別れの言葉を告げてきた。彼の隣にいた私の親友は、申し訳なさそうな顔を作ることすらせず笑っていた。 恋人も親友も一度に失った私に待っていたのは、さらなる残酷な仕打ちだった。 『八等級魔術師アリスミ・カロック。異動を命じる』 『えっ……』 任期途中での異動辞令は前例がない。最上位の魔術師である元恋人が裏で動いた結果なのは容易に察せられた。 私にそれを拒絶する力は勿論なく、一生懸命に築いてきた居場所さえも呆気なく奪われた。 それから二年が経った頃、立ち直った私の前に再び彼が現れる。 ――二度と交わらないはずだった運命の歯車が、また動き出した……。 ※このお話の設定は架空のものです。 ※お話があわない時はブラウザバックでお願いします(_ _)

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】本当に愛していました。さようなら

梅干しおにぎり
恋愛
本当に愛していた彼の隣には、彼女がいました。 2話完結です。よろしくお願いします。

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。

Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。 休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。 てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。 互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。 仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。 しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった─── ※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』 の、主人公達の前世の物語となります。 こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。 ❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。

処理中です...