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第4話 気づけなかった悪意

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「初めまして、ブロンシュの婚約者のレナード・グリジオンと申します」

 普通に挨拶をされたレナード様。

 回帰前と違う? 
 私を気にして、気持ちを隠しているのかしら…?

「ブロンシュ、いろいろお話を伺いたいわ。いいでしょ?」
 カレリアは親し気に私の腕に手を回し、お願いしてきた。

「…ええ」
 私は二人を自分の部屋へ案内した。

「わぁ、ブロンシュの部屋とても広くて素敵ね。羨ましいわ」

 その言い方だと、まるでカレリアの部屋は狭いみたいじゃない。
 お父様たちが気を遣って、カレリアの部屋も同じくらい広い場所を用意したのに。

 コンコン

「どうぞ」

「失礼致します」
 リラがティートロリーを押して入ってきた。

「ありがとう。後は私がやるわ」
 レナード様がいらっしゃる時は、いつも私がお茶を注いでお出しする。

 お茶とお菓子をテーブル近くに移動させようと振り返ると、カレリアはレナード様の隣に座っておしゃべりをしていた。前と同じだ。

 あの時は少しもやっとした気持ちがしたけれど、カレリアの本心なんて分からなかった。
 けど今なら分かる。

 私からレナード様を奪おうと動き始めていた事を…

「僕も手伝うよ」

「「え」」

 突然レナード様が立ち上がり、私の傍に近づいてきた。
 カレリアも彼が席を立つとは思わなかったのだろう。
 私と同時に声を上げた。

 レナード様はトレーに乗せたお茶をテーブルに運ぶと、カレリアの向かいのソファに座り、彼女の前にカップを置いた。

 ああ…席を移動する事が目的だったのね。

「どうぞ。不作法で申し訳ないけど」

「…いえ、ありがとうございます」

 私はお菓子を持って、レナード様の隣に座った。

「カレリア、このお菓子もおいしいのよ」

「ありがとう…」

 カレリアが不機嫌な顔をしながら、ひとつお菓子を口にした。
 レナード様が席を移られた事が気に入らないらしい。

 そんなカレリアの様子を知ってか知らずか、レナード様は素知らぬ顔でお茶を飲んでいた。


「レナード様って素敵ねぇ」
 レナード様が帰られて、カレリアが溜息交じりにつぶやいた。

「ええ、私もそう思うわ」

「ブロンシュが羨ましいわ。私もあんな素敵な婚約者が欲しいわ」

 カレリアは不敵な笑みを浮かべながら私にそう言った。

 前と同じ会話なのに、今は受ける印象が全然違う。
 こんなにも分かりやすくカレリアは悪意を示していたのに、なぜ私は気が付かなかったのだろう。

 私から何もかも奪った理由は叔父様が次男だったから?
 でもそれは私にはどうすることもできない事だわ。
 それに父は毎月叔父様に資金援助をしていたはずよ。

 なのに私はカレリアに妬まれ、恨まれ、大切なものを次々に奪われた。
 …レナード様も。

 それに直接彼女が手を下した訳ではないけれど、私の死の原因でもあるわ。

 私はそこまでされなければならなかったの?

 回帰前に奪われたアクセサリーや洋服、靴や小物、両親の関心、レナード様とカレリアの逢瀬。

 そして命を落とした自分―――…

 いろいろな光景が脳裏を駆け巡り、沸々と怒りが込み上げてくるのを私は全身で感じていた。
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