上 下
2 / 9

第2話 射抜かれた心

しおりを挟む
 
 ノックス様はとても端正な容貌の持ち主。
 耀かがやく長い白銀の髪と、吸い込まれそうアイスブルーの瞳。
 そして文武両道。博学多才。

 彼にあこがれた令嬢は数知れず。
 私もその一人だった。

 いつも定期考査では主席を維持。

 「私とは生まれつき、頭の作りが違うのよね。当たり前のように首席が取れていいな~」

 私はレノックス様の順位から遥か後ろにある自分の名前を見て溜息ためいきをつきながらつぶやいた。
 
 課外活動では洋弓ようきゅうたしなんでいたノックス様。
 長い髪を後ろにまとめる仕草がまた素敵っ♡

 そしていつも簡単に的の真ん中を射抜く姿がカッコよすぎる!!
 
 弓を構えるノックス様がとうとすぎて、その姿を見に数多あまたの令嬢が殺到するのは必至。 

 私もよく見に行ったけれど毎回抜かされて最前列を陣取れず、背が低いから後ろの方でいつもぴょんぴょん飛び跳ねながら見ていたっけ。
 
 ある日木に登って見ようとしていたら、先生に見つかって反省文を書かされた事もあったわ。
 今考えると…いえ、考えなくても令嬢レディが取るべき行動ではなかった…ああ…恥ずかしい。

 でも、ノックス様への想いが確かなモノになったのはある休日の朝の事。
 
「明日、課題提出なのに~~っ」

 昨日は友人とお出かけして、すっかり忘れていた。
 夜にやろうと思ったら教室に課題を置き忘れていた事を思い出し、早起きして学院にきた。

 「あった、あった」

 誰もいない教室で課題を手に取る。
 
 …ンッ …タンッ …タンッ

 「…弓の…音?」

 遠くから空気を抜ける音がした。
 ノックス様の洋弓を見ていたので、弓の音だけは聞きなれていた。

 「学院がお休みの…こんなに早い時間に誰か練習しているのかな?」

 それは小さな好奇心だった。
  私は、いつもノックス様を見に行く洋弓場へと足を進めた。

 そこにはこめかみから幾筋もの汗を流しながら、矢を打っているノックス様の姿があった。
 矢がなくなると一本一本拾いに行き、また打ち込む。
 それを繰り返していた。

 『いつも簡単に的の真ん中を射抜く姿がカッコよすぎる!!』
 
 安易にそんな風に思った自分が恥ずかしかった。
 簡単なんかじゃない。
 積み重ねた練習があるからこそ、あんなに美しく射る事ができるんだ。

 …タンッ  …タンッ …

 的に矢が当たる音が響くたびに、胸の鼓動が身体中に響き渡る…
 
 ノックス様を本当に好きになった瞬間だった。

 その日からノックス様を見る目が少し変わった。
 すると今まで気づかなかった事が見えてくる。

 ある日、ノックス様とすれ違うという僥倖ぎょうこうに見舞われる。

 内心、バックンバックン! ドンドコドンドコ!
 心臓がお祭り状態。

 その時、彼が手にしていた教科書に目がいった。
 付箋紙だらけで、ふちの部分は寄れていた。
 いつも首席を取られる理由がそこにはきちんとあった。

 『私とは生まれつき、頭の作りが違うのよね。当たり前のように首席が取れていいな~』

 また自分の言葉に恥じ入る。
 本当に私はノックス様の表面しか見ていなかった。
 輝ける人は、人知れず努力をしているのに…

 この日から私は、放課後図書室で勉強するようになった。
 彼の隣に立てる人間に……とまではこの時は露ほども考えていなかったけれど、ただ…何もせず人をうらやむだけの人間にはなりたくなかった。
 
 そんな片想いの日々を何年も重ね、私が18歳の時、彼との婚約が決まった。
 夢かと思ったわ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?

望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。 ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。 転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを―― そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。 その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。 ――そして、セイフィーラは見てしまった。 目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を―― ※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。 ※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ

さこの
恋愛
 私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。  そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。  二十話ほどのお話です。  ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/08/08

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください

ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。 ※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!

さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」 「はい、愛しています」 「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」 「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」 「え……?」 「さようなら、どうかお元気で」  愛しているから身を引きます。 *全22話【執筆済み】です( .ˬ.)" ホットランキング入りありがとうございます 2021/09/12 ※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください! 2021/09/20  

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

私は王子のサンドバッグ

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のローズは第二王子エリックの婚約者だった。王子の希望によって成された婚約のはずであったが、ローズは王子から冷たい仕打ちを受ける。 学園に入学してからは周囲の生徒も巻き込んで苛烈なイジメに発展していく。 伯爵家は王家に対して何度も婚約解消を申し出るが、何故か受け入れられない。 婚約破棄を言い渡されるまでの辛抱と我慢を続けるローズだったが、王子が憂さ晴らしの玩具を手放すつもりがないことを知ったローズは絶望して自殺を図る。

処理中です...