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第18話 終焉 (セルゲイ視点)
しおりを挟むコルネリア! 生きていた!
生きて……っ…!!
目の奥が熱くなるのを感じた。
「セルゲイ様! アルさんは麻薬取締局の調査官です。セルゲイ様はレナータに麻薬を飲まされたんですっ まずは早くこの解毒剤を飲んで下さいっ」
コルネリアは透明な液体が入った小瓶を僕に手渡した。
「ああ」
促されるままに液体を飲み干すと、今まで霧がかかっていたような思考がスーっと消えて行った。
「……頭が…はっきりしてきた……気怠さが消えた…」
ようやく悪夢から覚めた…そんな気分だ。
「良かったっ セルゲイ様!」
コルネリアが泣きそうな笑顔を向ける。
「コルネリア!!」
僕は彼女を抱き締めた。
「ああ、生きてた…っ! 良かった! 良かった…っ コルネリア!!」
彼女のあたたかいぬくもりに安堵する。
「い、痛っ」
彼女は小さく声をあげた。
「えっ!?」
僕は慌てて身体を放す。
「あ、す、すみませんっ まだ傷が…」
コルネリアは顔を少し顰めて、左肩を押さえた。
「! すまなかったっ 大丈夫かい!? 怪我の具合は…」
生きていた事が嬉しくて、思わず抱きしめてしまった。
彼女は刺されたんだっ!
「も、もう大丈夫ですっ」
微笑む彼女だが、額に汗をかいている。
顔色も悪い。
当たり前だ、刺されてまだ日が浅い。
なのに…僕のためにきてくれたのか…
「何となく感じていると思うけど、あんたはレナータに薬を盛られた。さっきの香炉は麻薬の一種である幻魅香が焚かれていた」
アルと呼ばれていた調査官だという彼が、状況を説明し始めた。
「麻薬!? 幻魅香!?」
僕は話を聞きながら、驚きの声を上げた。
幻魅香……確かレナータが言っていたような…
「催眠状態に陥らせ、人を操る効果がある。あとは催淫効果も。長期間使用すると廃人になる代物だ。体内に残らないのが特徴だから、医者が診てもなかなか分からない。だいたい焚いて使用する事が多いが、飲み物などに混ぜて服用すると一気にトリップする。この国での麻薬使用はもちろん所持も売買も禁止だ。捕まれば重い罰が下される。それでも法を掻い潜る輩はどこにでもいるけどな」
催淫効果…では…僕がレナータと関係を持ってしまったのはこの薬のせいなのか?
いや…だが…そうだとしても、そんなの言い訳にもならない…!
僕がコルネリアにした事は…
レナータとの行為が……血まみれのコルネリアの姿が……脳裏に浮かぶ。
僕はコルネリアから顔を逸らし、シーツを握り締めた。
「セルゲイ様?」
言葉のない僕の様子を心配したコルネリアが声を掛ける。
全て薬のせいにして、彼女とやり直すつもりか?
きっと…彼女なら許してくれるだろう。
怪我を押してまで、ここに来てくれた彼女なら…
けれど、それでいいのか?
それで僕のした事が許されていいのか!?
ガチャリ
その時、入口の扉が開いた。
入って来たのは鞄を持ったレナータ!
「コ、コルネリアっ! どうしてあんたがここに!!」
彼女に詰め寄ろうとするレナータ。
「レナータ・パルス! うわっ」
アルが彼女を捕まえようとするが、レナータがシュッと顔に何かを吹きかけた。
彼はその場に膝をつく。
「あんたさえいなければ!」
レナータが近くにあった火かき棒を握り、コルネリアに襲い掛かる。
「やめろ!」
くそっ 身体が…っ!
こんな時に!!
「リューっ ごめんね!」
「チュ?」
そう言うとコルネリアは傍にいたネズミを掴み、レナータの顔に投げつけた。
「チュチュチュチュ―――!!」
ガリガリガリ―――ッッッ!!!
「ぎゃああああああああ!!! 痛い痛い痛いいいいぃぃぃぃぃ!!!」
ネズミがレナータの顔に噛みつく。
火かき棒を落としたレナータは、必死でネズミを引きはがそうとするがしっかりと噛みついているらしい。
さらにネズミは容赦なくを引っ掻き、レナータの顔から血が流れ出す。
そんな状態の彼女にアルが近づき、拘束する。
「よくやった、リュー」
「チュチュ」
頭を振りながら、ネズミに声を掛けるアル。
ネズミはアルの頭に軽快に乗って来た。
「やめてっ 放してよ!」
アルに捕まりながらも、まだ抵抗するレナータ。
「重罪になる事は覚悟しろよ」
「わ、私は悪くないわっ あの女が悪いのよ! あんな女が侯爵夫人なんてありえる!? 私の方がふさわしいわ! 私の方がずっとセルゲイ様を愛している! 現にセルゲイ様は私を愛してくれたわ!!」
!!!パアン!!!
「なっ!!」
コルネリアがレナータの頬を平手打ちした。
いきなり殴られて驚いているレナータ。
「それは薬のせいよ! セルゲイ様に薬を盛るなんて…っ 処置が遅ければ廃人になっていたのかもしれないのよ! それが愛する人に対してする事なの!? ふざけないで! 私はあなたを決して許さない!!」
あんなに感情を露わに怒るコルネリアを見たのは初めてだ。
全て僕の為に怒ってくれている…
「は、はぁ!? な、何偉そうなこと言ってんのよ! 教養もない無能なあんたなんかが侯爵夫人になった事が悪…んぐっ」
「はいはい、あんたはもうしゃべるなっ」
レナータに猿轡を噛ませたアル。
「うーっ! うーっ!」
それでも尚、レナータは何かを叫んでいる。
アルの部下と思われる男が数人、部屋に入って来た。
「こいつを連れていけ」
「はっ!」
部下にレナータを引き渡すアル。
彼女が連れて行かれると、彼は少しよろけながら首を左右に曲げる仕草をした。
「大丈夫ですか、アルさんっ」
コルネリアが心配そうに声をかける。
「ああ、油断した。幻魅香を吹きかけられるとは…。予備の解毒剤を持ってて良かったよ」
彼は胸元から飲み干した空の小瓶を見せ、苦笑いした。
「…さて、セルゲイ・シュヴァイツァー侯爵。悪いが、あんたにも来てもらわなければならない」
「ああ…分かっている」
僕はまだふらつく身体を何とか起こして立ち上がった。
「セルゲイ様っ」
僕を支えるコルネリアが、心配そうな顔をした。
「大丈夫。僕はもう覚悟をしているんだよ、コルネリア」
「……っっ」
泣き出すコルネリアの頬に、僕はそっと触れた。
そう……覚悟はしていた。
シュヴァイツァー家の終焉を…
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