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第2話 これが私の運命?

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「ごほっ ごほっ」

 人の気配がなくなった部屋に一人横たわる私。
 このまま…死ぬのかな…そうよね…

 思い浮かぶのは先程の光景。

『セルゲイ様、愛しているわ』
『俺もだよ…』

 レナータと口づけを交わす…セルゲイ様…
 耳から離れない二人の言葉…

 私にとっては、夫のセルゲイ様も侍女として仕えてくれたレナータも大切な人だった。

 そんな二人に裏切られて、悲しいはずなのに……涙も出ない。
 きっとどこかで諦めていたのかもしれないわ。

 …セルゲイ様に愛されていない事は最初から分かっていた事だもの……


 7か月前、シュバイツァー侯爵家当主であるセルゲイ様から結婚の打診があった時点で、この婚姻はお金目当てという事は察しが付いた。
  
 結婚前からシュヴァイツァー家は、貧乏貴族と揶揄されていた。
 浪費ばかりしていた先代夫妻が作った多額の負債を抱えていたからだ。

 ご夫妻が2年前に馬車の事故で亡くなり、当主となったセルゲイ様。
 そこで資金力だけはある下位貴族の我がウィルトム家に目を付けたのだろう。

 お金で得た子爵位である我が家としては、高位貴族であるシュヴァイツァー家と縁戚関係が結べれば後ろ盾としてありがたい。

 例え貧乏貴族と呼ばれていても、先祖代々続く侯爵家。
 両家の利益メリットだけがそこにある結婚。

 それに私は庶子だ。

 我が家の事情を承知の事とは言え、高位貴族の彼にとってはさぞ屈辱的だったろう。それでも侯爵家再興のためには必要な婚姻。
 そんな状況の中で、愛情などが存在するはずもなかった。 
 
 けれど…そんな私にあなたは初めて会った時から微笑み、気遣い、優しさを見せてくれた。

 庶子として生まれ、誰からも愛情を受ける事もなく使用人として扱われてきた私にとって、生まれて初めて受けたあたたかさだった。

 そして、そんなあなたを私は愛した。
 たとえあなたに愛されなくても、私はそばにいられるだけで幸せだったの。

 私たちの結婚後、実家の資金援助によってまた昔の威光を取り戻してきたシュバイツァー家。

 もう我が家の援助は必要ないと判断されたのだろう。
 さらに好きな女性ひとが出来れば、お飾りの妻など不要になって当たり前。

 シュバイツァ―家に離縁を申し出られれば、ウィルトム家は否とは言えない。

 けれど愛人が出来た事で離婚となれば、セルゲイ様の有責で慰謝料が発生する。

 だけどセルゲイ様の有責にも関わらず、慰謝料を踏み倒すのは高位貴族としてははばかられる。
  
 我が家には、少しもお金を払いたくなくこのような行為に出たのかしら…?
 そこにレナータの私への殺意も含まれて…

 でも…セルゲイ様。
 あなたが離婚を望めば、私は素直に応じていました。
  
 慰謝料を払うのがお嫌でしたら、何かでっちあげて私の有責にされてもよかったのです。

 だって、私はあなたからたくさんの幸せを頂いたのですから。
 あなたのお陰で、生まれてきた事に感謝できたのですから。

 だからあなたがレナータと一緒になりたいと言うのなら…それがあなたの幸せなら、私は潔く身を引きましたわ。

 …ああ…けれど結婚した時はこんな風に人生が終わるなんて思いもしなかった。

 それとも……

 ―――これが私の運命だったのかもしれない―――

 息も絶えそうになった時、
 誰かが私を抱き上げた。

「…あ…」

 微かに開けた目に映ったのは、
 きれいな青色の瞳…

「しっかりしろ!」

 誰…?
 きれいな…空の…色…

 そう…セルゲイ様と初めて街に出かけた時も、さわやかな青空が広がっていた…
 あの日と…同じ色…だわ…
 はぐれ…と…いけ…な…から…と…セ…イ様…が手を………

「セル…イ…さ…」
 楽しかった思い出のはずなのに、なぜか涙が零れた。
 もう…戻らない…日々…

「ダメだ! 死ぬんじゃない!!」

 力強い声。
 
 次の瞬間、私の世界は漆黒の闇の中へ――…
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