4 / 13
第4話 最低な決断
しおりを挟むテーブルを挟んで向かい合わせに座った伯爵様と私。
私は求婚状が届いてから気になっていた事を尋ねた。
「あ…あの…失礼ながらお聞きしたい事があるのですが」
「何でも聞いて下さい」
優しい口調。
柔らかい笑顔。
この方が本当に、噂通りの女好きなのかしら…
「…なぜ私だったのでしょうか? どう考えても伯爵様とでは家格が釣り合いません」
「一目ぼれです」
「………え?」
「以前街中であなたを見かけて、一目ぼれしたんです」
「あ…の…それは…」
嘘だわ。
自分で言うのは悲しいけれど、私の容姿は一目ぼれされるような美しさを一切持ち合わせてはいない。
暗めの茶色い髪に黒い瞳。
スタイルだって目を引くような身体ではない。
おまけに家格の低い男爵家。
私と結婚するメリットがないわ。
「そう言ったら信じて頂けますか?」
伯爵様は口角を上げながら面白そうに言った。
『からかわれた!?』
私は顔が赤くなるのが分かった。
「…失礼な言い方でした。申し訳ありません」
私の様子を見て、謝罪の言葉を口にした伯爵様。
「実は…僕は婚外子です。実父と正妻との間に子供がいなかったので、実母が亡くなったのを機にロックチェスター家に引き取られました。その後、事故で先代である父と伯爵夫人は亡くなり、僕が家督を継ぐ事になったのです」
「そうだったのですね」
それでも伯爵という爵位に、この端麗な顔立ち。
選べる縁談はいくらでもあるでしょうに。
例え婚外子であろうとも…そして醜聞があったとしても。
「伯爵家の当主とは言え婚外子を蔑視する女性、逆に家格だけを重視し、自分の娘を売り込もうとする貴族たちに正直辟易していました」
「だとしても、なぜ私なのでしょうか?」
一目ぼれは信じていませんから。
「……失礼ながら、最近子爵令息と婚約を破棄されたそうですね」
「!!」
「一度婚約破棄された女性が、次にまともな嫁ぎ先を探すのは難しいでしょう。今後話がくるのは貴方より遥かに年上の一癖ある未婚男性か、どこかの後妻になる可能性が高い」
「…そ…れは…」
「そのような男性と比べたら、私の方がましではありませんか? それに私と結婚すれば、元婚約者への意趣返しになると思いますよ? そして、私は周りのうるさい雑音が静かになりますし」
ティミド様への意趣返し……彼からの求婚で私もそれを考えた。
でも結局なぜ私なのか理由が曖昧だし、何か思惑が感じられるけれど……全て私にとってはメリットのある事ばかりだわ。
「…家格も低く、傷物の私でよろしいのでしょうか?」
「私は婚外子ですが、よろしいですか?」
彼は笑顔で、質問を質問で返した。
この人は本当に噂通りの方なのかしら?
やはり妊娠している事を言うべきなのではないの?
けど、本当の事を言えばこの縁談は白紙になる
私一人で子供を育てていけばいいじゃない
本当に一人で育てられるの?
そうすべきだし、当然の事でしょ?
けど伯爵家と結婚すれば、不自由のない生活の中で子供を育てられる…
私は頭の中で、自問自答し続けた。
そして膝の上で重ねた手を握り締め、私は意を決して答えた。
「どうぞよろしくお願い致します」
――私は取り返しのつかない決断をした――
214
お気に入りに追加
283
あなたにおすすめの小説
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。

さよなら私の愛しい人
ペン子
恋愛
由緒正しき大店の一人娘ミラは、結婚して3年となる夫エドモンに毛嫌いされている。二人は親によって決められた政略結婚だったが、ミラは彼を愛してしまったのだ。邪険に扱われる事に慣れてしまったある日、エドモンの口にした一言によって、崩壊寸前の心はいとも簡単に砕け散った。「お前のような役立たずは、死んでしまえ」そしてミラは、自らの最期に向けて動き出していく。
※5月30日無事完結しました。応援ありがとうございます!
※小説家になろう様にも別名義で掲載してます。

愛されない花嫁はいなくなりました。
豆狸
恋愛
私には以前の記憶がありません。
侍女のジータと川遊びに行ったとき、はしゃぎ過ぎて船から落ちてしまい、水に流されているうちに岩で頭を打って記憶を失ってしまったのです。
……間抜け過ぎて自分が恥ずかしいです。

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

別に要りませんけど?
ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」
そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。
「……別に要りませんけど?」
※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。
※なろうでも掲載中

白い結婚をめぐる二年の攻防
藍田ひびき
恋愛
「白い結婚で離縁されたなど、貴族夫人にとってはこの上ない恥だろう。だから俺のいう事を聞け」
「分かりました。二年間閨事がなければ離縁ということですね」
「え、いやその」
父が遺した伯爵位を継いだシルヴィア。叔父の勧めで結婚した夫エグモントは彼女を貶めるばかりか、爵位を寄越さなければ閨事を拒否すると言う。
だがそれはシルヴィアにとってむしろ願っても無いことだった。
妻を思い通りにしようとする夫と、それを拒否する妻の攻防戦が幕を開ける。
※ なろうにも投稿しています。

私が妻です!
ミカン♬
恋愛
幼い頃のトラウマで男性が怖いエルシーは夫のヴァルと結婚して2年、まだ本当の夫婦には成っていない。
王都で一人暮らす夫から連絡が途絶えて2か月、エルシーは弟のような護衛レノを連れて夫の家に向かうと、愛人と赤子と暮らしていた。失意のエルシーを狙う従兄妹のオリバーに王都でも襲われる。その時に助けてくれた侯爵夫人にお世話になってエルシーは生まれ変わろうと決心する。
侯爵家に離婚届けにサインを求めて夫がやってきた。
そこに王宮騎士団の副団長エイダンが追いかけてきて、夫の様子がおかしくなるのだった。
世界観など全てフワっと設定です。サクっと終わります。
5/23 完結に状況の説明を書き足しました。申し訳ありません。
★★★なろう様では最後に閑話をいれています。
脱字報告、応援して下さった皆様本当に有難うございました。
他のサイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる