羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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黄金都市編

黄金都市編その20

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「ここだな。あ、一応臨戦態勢でな。」
 目的の家は質素な長屋の一部屋。アイスエイジはまた僕の裾をチョンと可愛らしく握り、後ろを恐々とついて来ていた。

「ちょっと!知り合いじゃないの!?戦闘になるなんて聞いてないわよ!」

「知り合いでも色々あるのよ。あと戦闘になるとは限らないからね!一応だよ、一応。」

 アイスエイジは僕から離れ、集中して扉を警戒する。その表情と出で立ちは闘技場やさっき見た覇気のある姿だ。これなら心配は無いだろう。

(一旦スイッチ入ると頼もしいんだけどなぁ。普段はポンコツ気味なところあるのに。もしかしてギャップ萌え狙ってる?)

 僕は警戒しつつ一呼吸おいてからドアをノックした。すると中から女性の声がして扉の前に立つ気配がする。
 
(さすがに無防備に開け放たないか・・・)

「アドミラルさん・・・僕がわかりますか?」

 少しの間があってから扉が開くと、懐かしい黒髪のメイド姿が覗かせる。しかしメイド服は綻び汚れていて、綺麗だった黒髪は手入れされておらず、聡明そうな整った顔はやつれていて昔とは違う面影だった。

「どうしてここが・・・。」

「この間、闘技場に見に来ていましたよね?それで少し調べまして・・・。今、一人ですか?」

「今は私一人です。・・・どうぞ中へ。」

 家の中は簡素なベットが一つに穴だらけのボロボロのソファが一つ、割れたテーブルに椅子、食器棚、箪笥、大きな収納箱、三面鏡ドレッサーの鏡はヒビが入り割れていた。どれもこれもが古ぼけたを通り越し廃棄間近に思えた。
 
「どうぞこちらに。」
 部屋の中を観察していると椅子を進められる。僕とアイスエイジは並んで椅子に腰かけ対面にアドミラルさんが座った。

「何もお出しするものが無くて申し訳ありません。」

「いえ、そんな!お構いなく。」
 深々と頭を下げる彼女に逆に恐縮してしまう。頭を上げるようお願いして僕は質問を投げかけた。
「アドミラルさん・・・あれからどうしていたのですか?」

「大規模戦闘で私達現世派が負けたのはご存じかと思います。その後は敵からも味方からも逃げ回りました。あなたとあの放浪者さんと会って戦った後、何とか命からがらこの黄金都市に流れ着ついたのです。」

 この世界での敗軍の将の扱いなんて想像に容易い。どこも行き場が無かったんだろうな・・・。

「ここに来たのは代表とアドミラルさんだけなのですか?他のメイド部隊の方達は・・・」

 静かに首を振るアドミラルさん。

「あの大規模戦闘で散り散りに・・・もう生きているのか死んでいるのかさえわかりません。」

「ここでは・・・」
 僕は少し言い淀んだ。『この金が全ての街でどうやって生活しているのか?』そう聞こうとした。しかし僕が言葉を躊躇った間にこの家に誰かが近づく気配がする。アドミラルさんもアイスエイジもそれに気付いたようで立ち上がり警戒する。

「お二人ともこちらに。少し狭いですが隠れられます。お早く。」

 そう言って部屋の隅の収納箱を指す。僕とアイスエイジは大人しく従い大きな収納箱に身を隠した。
 家に入ってきたのはかつての代表・・・イージスだった。手には安酒の瓶が握られており、アルコールで足取りも少し怪しい様子で、安酒の嫌なアルコール臭が僕らが隠れている箱にまで飛んでくる。
 イージスは部屋の中心までやってくるとドカッとソファに深々と背中を預け、だらしなく座った。

(あれって闘技場でアンタにとんでもないヤジ飛ばしていた人じゃない。)

(まぁ・・・な・・・。)

「アドミラル、金だ。金を出せ。」
 若干呂律の回らない様子で金の無心をするイージス。

「代表・・・申し訳ありません。お金は無いです。」

「だったら!とっとと稼いで来い!!!」
 手に持っていた瓶をアドミラルさんに投げつける。幸い瓶は彼女に当たらず後方の壁に当たり、大きな音を立てて粉々になった。

(あいつ・・・!!!!)
 その様子を見たアイスエイジが怒りを露わに拳を固く握りしめる。

(馬鹿!よせ!)

(わかってる!・・・わかってるわよ・・・)

 アイスエイジはくやしそうな顔浮かべすごすごと引き下がる。
 部屋ではアドミラルさんが割れた瓶を文句ひとつ言わずに片づけている所だった。

「さっさと準備して稼いで来い。あのガキを仕留めるのに金が・・・武器が要るんだからな。種銭さえあればすぐに増やして、武器を揃えてあのガキをぶち殺してやる!」

(まだ引きずってるのか・・・)

(あんた何やったのよ。)

(何をやったか、だって?・・・何もしなかったからだよ。)

 アイスエイジの頭にはクエスチョンマークが浮かんでいる。無理もない。こいつは僕の本当の能力を知らないしな・・・。

「もう・・・もうやめましょう・・・。もういいじゃないですか。静かにここで暮らせば・・・。」

「うるさい!あいつの・・・あいつのせいで私はこんな生活になったんだ!あいつさえ犠牲になっていれば、異世界派なんぞ皆殺しにして、今頃はもう帰還できていたんだ!そうすれば私は合格していた東大に通って、そして・・・。あいつさえ・・・あいつさえ!!お前は言われた通り金を用意すればいいんだ!さっさとやれ!」

「わかりま・・・した。準備するので少し外していただけませんか?」

「なぜだ?今更そんな。処女でもあるまいし。売女の癖に恥ずかしがることもないだろ?」

 イージス・・・あんな表情やゲスの言葉を使う人じゃなかった。ここまで堕ちたか。そしてさっきの僕が中断した質問の答えはイージスの口ぶりから薄々わかってしまった。

「あの・・・お願いします・・・。」

「断る。お前が出来ないなら私が準備を手伝ってやる。」

「待って!・・・いや・・・嫌です・・・」

 イージスはソファから立ち上がりアドミラルさんに向かって歩いて行く。彼女は後ずさり距離を取るが、イージスは無理矢理彼女に抱きつき、強制的に服を脱がしてゆく。

(もう我慢ならない!止めないでしょうね!?)

(止めるかよ!行こう!)

 二人して姿を表し、助けに入ろうとしたが、それを予想していたのかアドミラルさんが僕らに向かって視線を送り首を横に振る。『来るな』と・・・

(なんでだよ・・・)

 納得できない・・・。隣のアイスエイジも顔に苛立ちが募っていた。

 服を乱暴にはだけさせたイージスはアドミラルさんの秘部に自分のいきり立ったモノをそのままあてがう。それにアドミラルさんは抵抗して訴えた。

「待って!お願い!生は・・・生はダメ!お願いですからゴムをつけてください。」
 彼女はポケットからスキンを出しイージスにつけるよう懇願した。

「どうしてだ?ここのところ全く生でさせてくれなくなったじゃないか?外で男でも出来たか?ああ!?この阿婆擦れが!」

「お願い・・・お願いします・・・」
 苛立ちアドミラルさんを殴りだすが、泣いて懇願する姿を見て『チッ』と舌打ちして、スキンを受け取り、手慣れた手つきで付けると乱暴に秘部を抉りだした。
 前戯も何もない。愛すらない。ただ自身の欲望を相手にぶつけるだけのレイプ。
 苦悶の表情を浮かべ苦痛に耐える彼女を僕ら二人はじっと見てる事しかできなかった・・・。


 イージスはその一方的な欲望を彼女に叩きつけ満足すると、倒れこんでいるアドミラルさんに血が付いた使用済みスキンを投げつけ、三面鏡ドレッサーの引き出しを漁りだす。
 恐らく、へそくりとしてアドミラルさんが溜めていた生活費のお金なんだろう、小袋を見つけ出すと一瞬表情が明るくなり、次第に怒りの表情を浮かべた。

「あるじゃないか。嘘つきやがって!」

「ま、待ってそれは・・・」
 アドミラルさんが気付いてイージスの足に縋りつく。

「黙れよ!ペテン師が!お前がちゃんと客をとって稼いで来たらいいだけだ!」
 イージスは彼女に蹴りを入れて、小袋をもって家を出ていった。
 
 僕らはイージスの気配が遠のいていったのを確認して、箱から出てアドミラルさんを介抱しに近寄る。

「お見苦しいところをお見せしました・・・。」

「どうして・・・!どうして何もさせてくれなかったの!?」

「私が・・・尊敬した御方ですから・・・」
 アイスエイジが非難めいた言葉に対してアドミラルさんは曖昧に笑ってそう答えた。

「血が出ている。治療しましょう・・・っと、すみません。アイスエイジ、頼めるか?」

「もちろんよ。」
 あの乱暴なピストンのせいでアドミラルさんの秘部からは血が出ていた。たぶん使えるであろうフォーチュンさんが作った万能傷薬をポーチから出したところでアイスエイジに話を振った。危機的な状況ならいざ知らず、さすがの男の僕じゃ異性のデリケートゾーンの治療はまずいだろう。アイスエイジは快諾してくれて。フォーチュン印の傷薬を受け取ると・・・

「待って!・・・あ、すみません。お気持ちはありがたいのですが、治療は自分でしますので・・・」

「遠慮は要らないわ!見せて・・・。」
 傷の具合を見ようとすると

「だ、ダメ!!・・・あ・・・すみません。お願いですから自分でさせてください。」

「そ、そうよね。女性同士でも見られたくないこともあるわよね。私、こんなだから・・・ごめんなさい・・・」
 しゅんとするアイスエイジにアドミラルさんは『気持ちは本当に嬉しいのです。』とフォローを入れていた。
 だが、僕はアドミラルさんにしては強い言葉で拒否を見せたことに違和感を抱いていた。

 


 治療が終わり衣服を正したアドミラルさんと再び席を共にする。僕はようやく本題を切り出すことにした。

「アドミラルさん、僕達は塔に登ろうと思っているんです。ある人に会いに。そしてその人の力になり塔の攻略が出来れば、と。アドミラルさん、僕らと一緒に来ませんか?」

「ごめんなさい。私が離れればあの人は一人になってしまうから・・・。」

「なんでよ!あんな奴!自分の彼女に体売らせて・・・あんなに乱暴に・・・!」

「落ち着けって。」
 
 『バンッ』と机を叩いて勢いよく立ち上がり怒りを込めてアイスエイジが訴えるのを、僕は宥める。
 先程の敵に対しては冷徹な判断を下したこいつがこんなに熱くなるなんて・・・こういう一面もあるんだな。

「ごめんなさい・・・。先程も言いましたが、今はあんなのでもかつて尊敬と憧れ、期待を向けた人なんです・・・。だから・・・ごめんなさい。」

「なんでよ・・・なんでなのよ・・・あんなことされて・・・」
 深々と頭を下げるアドミラルさんの姿を見て、アイスエイジは怒りのボルテージが下がったのか、俯き、力なく椅子に座った。

「わかりました。行こう、アイスエイジ。」

「そんな!」
 
「いいから!」
 僕があっさり引き下がったのが意外だったのか抗議めいた目で見てくるが、僕は構わず彼女に席を立つよう促す。二人して出入口に向かいドアに手をかけたところで僕は振り向き、

「・・・そうだアドミラルさん!また寄らせてもらっても良いですか?」

「ええ。でもイージスのいない時にお願いします。」

「わかりました。訪れるときはなんか特徴的なノックでもしますよ。それと・・・これ。」
 そう言って僕は小袋を差し出す。中はお金だ。アドミラルさんは小袋を受け取り中を確認すると・・・

「こんな・・・いただけません!」

「いや、受け取ってください。だってあなた今、能力が使えないか・・・それとも弱っているんじゃないですか?」

「どう・・・して?」
 指摘すると驚いた表情を見せるアドミラルさん。

「ほら今だって。昔のあなたなら絶対しませんでしたよ?そんな表情。もっと鉄の女!って感じでしたもん。今のあなたの方が人間味あって僕は好きですよ。」

「剣士さん・・・あなたとは殆ど会話したことが無かったですが、よく気付きましたね・・・。でも、それに気付いていてどうして私を塔に誘うのですか?」

 綺麗な人だったから覚えていた、とは言えないな・・・。DTは綺麗な人と会話すると、瞬間刷り込みが起きることは学会でも有名な説だ。民明書房刊DT解体新書にも載っているぞ。

「能力は無くても経験は裏切りませんから。」

「それだけ・・・ですか?」

「それだけですよ。まぁ、お金は気にせずちょっと稼げたので。あ、綺麗なお金ですから安心してください。」

「どこがよ・・・ふごっ!」
 隣で不満げに余計なことを呟くアイスエイジを黙らせるため素早く肘を入れる。

「え?え?あの・・・?」

「何!?おなかが痛いだって!?もー!さっき拾い食いするからだぞー。この卑しんぼさんめ~。ではまたー。」
 困惑するアドミラルさんに追及される前に、お腹を抑えて悶絶しているアイスエイジを介抱するふりをして、そそくさと貧民街を後にしたのだった。
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