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黄金都市編
黄金都市編その4
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先程の熱気が残る大広間のロビー。ずらりと沢山の窓口がありその上には巨大なディスプレイ。次も試合があるのだろう。オッズと賭けの締め切り時間が表示されていた。僕達は選手登録の為に窓口へやってきていた。
「すみませんー。登録をしたいのですが。」
「はいはい。・・・げっ!放浪者・・・」
「あなたは出禁ですから登録出来ません。」
「いやいや、私ではなくて後ろの二人ですよ。ジャッジメントから連絡来てるでしょ?」
職員さんは『少々お待ちくださいと』すごく嫌そうな顔をして確認を取りに行く。
しばらくしてから帰ってきた職員さんは
「確認が取れましたので後ろのお二人は登録します。あなたは駄目ですよ。」
滅茶苦茶念を押されてる。まぁ、この人出場させたらまともな試合組めそうにないもんな。
「さぁ、登録できましたし、しばらくはこの闘技場の選手宿舎を使いましょう。外で寝るよりマシ程度ですがね。」
「うわっ!狭っ!」
二階に上がり寝泊まりする部屋は荷物を置くと3人が横になったらもうスペースが無いくらいだった。
「ドアに鍵なんかも無いですから貴重品は置かないようにしてください。荷物を置いたら食事にしましょう。良い店があるんです。」
「放浪者殿。食事の前に詳しい説明をしていただけるでしょうか?私達が塔内部でやっていけるか実力を推し量ろうという事ですか?」
今まで成り行きを見守って口を挟まなかった女騎士さんが口を開く。
「ん~・・・まぁそれもあるんですがね~。もう一つ・・・おや?」
廊下の方から騒がしく近づいてくる足音、僕らの部屋の前で止まると勢いよくノックされる。僕と女騎士さんは立ち上がって警戒態勢に入り、剣に手をかけるが、そんな僕らに放浪者さんはのんびり座ったまま手を挙げて待つよう制す。
「どうぞ。鍵は開いてますので。」
放浪者さんがドア向こうの人に声を掛けると、ノックの主は勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んでくる。
飛び込んできたのは華奢な女で右目右腕には包帯が厳重に巻かれており、それらが使い物にならないことを物語っていた。
「あんた、あの”放浪者”でしょ!?た、助けて!お願い!お願いよ・・・死にたく・・・死にたくないよ・・・。」
女は放浪者さんに懇願し、跪く。
「さっきの試合の敗戦者ですか?」
静かに声を掛けると、女は躊躇いがちに首を縦に振った。
「私なんかに声を掛けるということは身の安全を買う金も無いのですね。解っていると思いますが、この街で金も無ければ、実力も無い者は死にます。あなたが命を落とすことは言わばこの街では自然な事です。」
「死にたく・・・死にたくないんです!お願いします!」
女は動く左腕で放浪者さんの足にしがみつき泣き叫んだ。
「剣士君、女騎士さん。話が途中でしたね。この闘技場はね。金の無い奴が行きつく場所なんですよ。勝てば大きくお金が入ります。それだけ人気のコンテンツなんですよ。その代わり試合で命を落とすことも多々あります。一応途中棄権が認められているんですがね。ただし途中棄権で負けてみなさい。負けて街に出た日には・・・・。」
賭け事の恐ろしいところだ。おまけに負傷していたら身を守ることも難しいだろう。
「さて、あなた。私達はこれから食事に行こうと考えておりましてね。ちょっとばかし路銀が心待たなくて幾らか恵んでくださいますなら街の入口まで送りますよ。」
女の人は慌てて左手で自分の体をまさぐり、
「も、もうこれだけしかないです・・・。」
そう言って硬貨を何枚か差し出した。
「ふむ・・・いいでしょう。私にピッタリとついて来なさい。・・・剣士君、女騎士さん、ちょっと送ってきますので待っててください。」
そう言って負傷した女性を連れて放浪者さんは出ていった。
「なるほど・・・」
先程、放浪者さんの話を聞いてから口に手を当てて考え事をしていた女騎士さんが口を開く。
「何がです?」
「つまりだ・・・私達は絶対に負けることが出来ない。負けてしまえば後ろ盾の無い私達はああして街の連中の逆恨みに怯え、逃げるようにして、この街を出なければならない。そうすれば私達は二度とこの街に足を踏み入れることが出来ず、登塔する日も来ないだろう。そもそも負けるようなら塔の内部で通用するか怪しいしな。」
「そうか・・・。つまり負けるようならフォーチュンさんの小屋で一生大人しくしておけ・・・と?」
「そういうことだ。」
気配無くドアが開き放浪者さんが帰ってくる。
「ふぅ・・・お待たせしました。では食事に行きましょう!」
「あの女性は無事送り届けれたのですか?」
「ええ、入口まではね。でも”無事”というのは難しいですね~。」
「え?どういうことです?」
「この狭間世界は”あんな逃げ”を許容してくれるほどの寛容さがありませんので。近い内にあの程度の人はどのみち死にますよ・・・。さっ!ごはんごはん~!何してるんです~。置いて行きますよ~。」
サラッと言ってウキウキで歩いて行く放浪者さんの背中を見ながらトータルワークスさんの僕は思い出していた。
あいつは何もかもが枯れている・・・と。
「すみませんー。登録をしたいのですが。」
「はいはい。・・・げっ!放浪者・・・」
「あなたは出禁ですから登録出来ません。」
「いやいや、私ではなくて後ろの二人ですよ。ジャッジメントから連絡来てるでしょ?」
職員さんは『少々お待ちくださいと』すごく嫌そうな顔をして確認を取りに行く。
しばらくしてから帰ってきた職員さんは
「確認が取れましたので後ろのお二人は登録します。あなたは駄目ですよ。」
滅茶苦茶念を押されてる。まぁ、この人出場させたらまともな試合組めそうにないもんな。
「さぁ、登録できましたし、しばらくはこの闘技場の選手宿舎を使いましょう。外で寝るよりマシ程度ですがね。」
「うわっ!狭っ!」
二階に上がり寝泊まりする部屋は荷物を置くと3人が横になったらもうスペースが無いくらいだった。
「ドアに鍵なんかも無いですから貴重品は置かないようにしてください。荷物を置いたら食事にしましょう。良い店があるんです。」
「放浪者殿。食事の前に詳しい説明をしていただけるでしょうか?私達が塔内部でやっていけるか実力を推し量ろうという事ですか?」
今まで成り行きを見守って口を挟まなかった女騎士さんが口を開く。
「ん~・・・まぁそれもあるんですがね~。もう一つ・・・おや?」
廊下の方から騒がしく近づいてくる足音、僕らの部屋の前で止まると勢いよくノックされる。僕と女騎士さんは立ち上がって警戒態勢に入り、剣に手をかけるが、そんな僕らに放浪者さんはのんびり座ったまま手を挙げて待つよう制す。
「どうぞ。鍵は開いてますので。」
放浪者さんがドア向こうの人に声を掛けると、ノックの主は勢いよくドアを開けて部屋に飛び込んでくる。
飛び込んできたのは華奢な女で右目右腕には包帯が厳重に巻かれており、それらが使い物にならないことを物語っていた。
「あんた、あの”放浪者”でしょ!?た、助けて!お願い!お願いよ・・・死にたく・・・死にたくないよ・・・。」
女は放浪者さんに懇願し、跪く。
「さっきの試合の敗戦者ですか?」
静かに声を掛けると、女は躊躇いがちに首を縦に振った。
「私なんかに声を掛けるということは身の安全を買う金も無いのですね。解っていると思いますが、この街で金も無ければ、実力も無い者は死にます。あなたが命を落とすことは言わばこの街では自然な事です。」
「死にたく・・・死にたくないんです!お願いします!」
女は動く左腕で放浪者さんの足にしがみつき泣き叫んだ。
「剣士君、女騎士さん。話が途中でしたね。この闘技場はね。金の無い奴が行きつく場所なんですよ。勝てば大きくお金が入ります。それだけ人気のコンテンツなんですよ。その代わり試合で命を落とすことも多々あります。一応途中棄権が認められているんですがね。ただし途中棄権で負けてみなさい。負けて街に出た日には・・・・。」
賭け事の恐ろしいところだ。おまけに負傷していたら身を守ることも難しいだろう。
「さて、あなた。私達はこれから食事に行こうと考えておりましてね。ちょっとばかし路銀が心待たなくて幾らか恵んでくださいますなら街の入口まで送りますよ。」
女の人は慌てて左手で自分の体をまさぐり、
「も、もうこれだけしかないです・・・。」
そう言って硬貨を何枚か差し出した。
「ふむ・・・いいでしょう。私にピッタリとついて来なさい。・・・剣士君、女騎士さん、ちょっと送ってきますので待っててください。」
そう言って負傷した女性を連れて放浪者さんは出ていった。
「なるほど・・・」
先程、放浪者さんの話を聞いてから口に手を当てて考え事をしていた女騎士さんが口を開く。
「何がです?」
「つまりだ・・・私達は絶対に負けることが出来ない。負けてしまえば後ろ盾の無い私達はああして街の連中の逆恨みに怯え、逃げるようにして、この街を出なければならない。そうすれば私達は二度とこの街に足を踏み入れることが出来ず、登塔する日も来ないだろう。そもそも負けるようなら塔の内部で通用するか怪しいしな。」
「そうか・・・。つまり負けるようならフォーチュンさんの小屋で一生大人しくしておけ・・・と?」
「そういうことだ。」
気配無くドアが開き放浪者さんが帰ってくる。
「ふぅ・・・お待たせしました。では食事に行きましょう!」
「あの女性は無事送り届けれたのですか?」
「ええ、入口まではね。でも”無事”というのは難しいですね~。」
「え?どういうことです?」
「この狭間世界は”あんな逃げ”を許容してくれるほどの寛容さがありませんので。近い内にあの程度の人はどのみち死にますよ・・・。さっ!ごはんごはん~!何してるんです~。置いて行きますよ~。」
サラッと言ってウキウキで歩いて行く放浪者さんの背中を見ながらトータルワークスさんの僕は思い出していた。
あいつは何もかもが枯れている・・・と。
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