57 / 110
幕間蛇足編
蛇足編その5
しおりを挟む
外に出るとトータルワークスさんが女騎士さんの義手を調整していた。二人の間に会話は無い。僕はその傍らに静かに立った。
「おい、小僧。気が散る。何か言いたいことがあるなら言え。女騎士、お前もだ。」
僕らは顔を見合わせ、まず女騎士さんがトータルワークスさんに質問し始めた。
「今回、トータルワークス殿がお越しになられたのは、フォーチュン様と放浪者殿をその塔の攻略に誘うためですよね?」
「殿はやめてくれ。・・・そうだ。だが禿げの方は期待してない。あいつは終わった人間だ。帰還の意思はとっくに枯れている。いや・・・何もかもが枯れている。戦力としては申し分ない奴だが、奴を動かすのは鼻から諦めていた。だが、フォーチュンまで駄目だったとはな・・・」
「塔はそんなに危険な所なのでしょうか?」
「もう、塔が姿を表して1年は経つ。だが、入ったものは誰一人出てきていない。さっきも名前を出したアーカイブ・・・昔の仲間なんだが、あいつも最初の数か月は中に入らず様子見をしていたみたいだが、中に送り込んだ仲間が誰一人戻らないので自分自身が入ったみたいだな。手紙の大半が外から見た様子の話だ。だが・・・あの魔力結晶が入った手紙だけはどうやったのか塔内部から送り出されている貴重な手紙だ。そこには様々なことが書かれてあった。これまで見たことが無い植物や鉱石、そして外とは比べ物にならないくらい強力な原生生物。それに・・・」
「それに?」
「死人が居る、と・・・」
「どういうことでしょうか?」
「わからん。行ってみないとな。だが、少なくとも安全では無い。だからこそ少しでも戦力が欲しかったんだがな。」
カチャカチャと作業の音だけが辺りに響く。一呼吸置いたのち
「僕も・・・聞いていいですか?」
トータルワークスさんは無言でそれを僕は肯定と受け取った。
「ラバーズって誰なんです?」
作業をしていた手がピタッと止まる。
「放浪者、フォーチュン、ラバーズ、アーカイブ、WW4、マッドサイエンティスト、そして俺。この世界で原初の七祖と呼ばれていたメンバーだ。最初にこの世界に降り立った七人だったからな・・・。俺たちは同じ異世界を旅した仲間だった。その内、今、生き残っているのは4人だ・・・。ラバーズは・・・一番子供だった。それだけにフォーチュンや放浪者はラバーズを可愛がっていた。今の様な2人になったのはラバーズが死んでからだ。俺から言えるのはそれだけだ。これ以上は言わない。」
これ以上は聞き出せないと思い、その場を離れ自分の小屋へと戻った。一人椅子に腰かけ考えた。思えば数十年も世話になっていてフォーチュンさんの達の過去は何も知らなかった。本名も知らない。この世界の住人は傷を負っている者が多い。僕らだってそうだ。それだけに踏み込めなかった・・・いや、そんなものはただの言い訳だ。ただ、自分が臆病なだけだったんだ。
音がして女騎士さんが入ってきた。どうやら義手のメンテナンスは終わったようだ。
「酷い顔だな、剣士君。」
「フォーチュンさんの事、何も知らなかったな・・・って。」
「そうだな。名前も過去も・・・。ふふっ・・・」
彼女は神妙な面持ちだったが、急に吹き出した。
「え?どうしたんです?」
「いやね。名前と言えば私達はお互い名乗り合って、お互いのことをよく知ったのに、未だに”剣士君””女騎士さん”で呼び合ってるのが改めて思うとおかしくって・・・」
長い間一緒に暮らすうちに僕達は互いのことを話し、名乗りもしたのに未だに呼び名を変えていなかった。長い間呼んでいる内に僕らの中で定着してしまったのだ。ただ、フォーチュンさんは本当に信頼できる者同士じゃないと本名を名乗っちゃいけないし、いつどこで誰が聞いてるとも限らないので不用意に口に出さない方がいいと口を酸っぱくして言われてたっけ?少なからずそのせいもあった。
「ぷっ・・・ですね。でも、もう呼び名れちゃいましたから。」
僕も笑って返す。
互いに笑いあってから女騎士さんが真面目な顔つきになり
「剣士君、フォーチュン様に聞こう。過去の事、ラバーズさんの事・・・あの御方と向き合うんだ。」
彼女の真っすぐな瞳には不退転の意思が宿っていた。僕はそれに答えるように力強く頷いた。
「おい、小僧。気が散る。何か言いたいことがあるなら言え。女騎士、お前もだ。」
僕らは顔を見合わせ、まず女騎士さんがトータルワークスさんに質問し始めた。
「今回、トータルワークス殿がお越しになられたのは、フォーチュン様と放浪者殿をその塔の攻略に誘うためですよね?」
「殿はやめてくれ。・・・そうだ。だが禿げの方は期待してない。あいつは終わった人間だ。帰還の意思はとっくに枯れている。いや・・・何もかもが枯れている。戦力としては申し分ない奴だが、奴を動かすのは鼻から諦めていた。だが、フォーチュンまで駄目だったとはな・・・」
「塔はそんなに危険な所なのでしょうか?」
「もう、塔が姿を表して1年は経つ。だが、入ったものは誰一人出てきていない。さっきも名前を出したアーカイブ・・・昔の仲間なんだが、あいつも最初の数か月は中に入らず様子見をしていたみたいだが、中に送り込んだ仲間が誰一人戻らないので自分自身が入ったみたいだな。手紙の大半が外から見た様子の話だ。だが・・・あの魔力結晶が入った手紙だけはどうやったのか塔内部から送り出されている貴重な手紙だ。そこには様々なことが書かれてあった。これまで見たことが無い植物や鉱石、そして外とは比べ物にならないくらい強力な原生生物。それに・・・」
「それに?」
「死人が居る、と・・・」
「どういうことでしょうか?」
「わからん。行ってみないとな。だが、少なくとも安全では無い。だからこそ少しでも戦力が欲しかったんだがな。」
カチャカチャと作業の音だけが辺りに響く。一呼吸置いたのち
「僕も・・・聞いていいですか?」
トータルワークスさんは無言でそれを僕は肯定と受け取った。
「ラバーズって誰なんです?」
作業をしていた手がピタッと止まる。
「放浪者、フォーチュン、ラバーズ、アーカイブ、WW4、マッドサイエンティスト、そして俺。この世界で原初の七祖と呼ばれていたメンバーだ。最初にこの世界に降り立った七人だったからな・・・。俺たちは同じ異世界を旅した仲間だった。その内、今、生き残っているのは4人だ・・・。ラバーズは・・・一番子供だった。それだけにフォーチュンや放浪者はラバーズを可愛がっていた。今の様な2人になったのはラバーズが死んでからだ。俺から言えるのはそれだけだ。これ以上は言わない。」
これ以上は聞き出せないと思い、その場を離れ自分の小屋へと戻った。一人椅子に腰かけ考えた。思えば数十年も世話になっていてフォーチュンさんの達の過去は何も知らなかった。本名も知らない。この世界の住人は傷を負っている者が多い。僕らだってそうだ。それだけに踏み込めなかった・・・いや、そんなものはただの言い訳だ。ただ、自分が臆病なだけだったんだ。
音がして女騎士さんが入ってきた。どうやら義手のメンテナンスは終わったようだ。
「酷い顔だな、剣士君。」
「フォーチュンさんの事、何も知らなかったな・・・って。」
「そうだな。名前も過去も・・・。ふふっ・・・」
彼女は神妙な面持ちだったが、急に吹き出した。
「え?どうしたんです?」
「いやね。名前と言えば私達はお互い名乗り合って、お互いのことをよく知ったのに、未だに”剣士君””女騎士さん”で呼び合ってるのが改めて思うとおかしくって・・・」
長い間一緒に暮らすうちに僕達は互いのことを話し、名乗りもしたのに未だに呼び名を変えていなかった。長い間呼んでいる内に僕らの中で定着してしまったのだ。ただ、フォーチュンさんは本当に信頼できる者同士じゃないと本名を名乗っちゃいけないし、いつどこで誰が聞いてるとも限らないので不用意に口に出さない方がいいと口を酸っぱくして言われてたっけ?少なからずそのせいもあった。
「ぷっ・・・ですね。でも、もう呼び名れちゃいましたから。」
僕も笑って返す。
互いに笑いあってから女騎士さんが真面目な顔つきになり
「剣士君、フォーチュン様に聞こう。過去の事、ラバーズさんの事・・・あの御方と向き合うんだ。」
彼女の真っすぐな瞳には不退転の意思が宿っていた。僕はそれに答えるように力強く頷いた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる