羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

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幕間蛇足編

蛇足編その5

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 外に出るとトータルワークスさんが女騎士さんの義手を調整していた。二人の間に会話は無い。僕はその傍らに静かに立った。

「おい、小僧。気が散る。何か言いたいことがあるなら言え。女騎士、お前もだ。」

 僕らは顔を見合わせ、まず女騎士さんがトータルワークスさんに質問し始めた。

「今回、トータルワークス殿がお越しになられたのは、フォーチュン様と放浪者殿をその塔の攻略に誘うためですよね?」

「殿はやめてくれ。・・・そうだ。だが禿げの方は期待してない。あいつは終わった人間だ。帰還の意思はとっくに枯れている。いや・・・何もかもが枯れている。戦力としては申し分ない奴だが、奴を動かすのは鼻から諦めていた。だが、フォーチュンまで駄目だったとはな・・・」

「塔はそんなに危険な所なのでしょうか?」

「もう、塔が姿を表して1年は経つ。だが、入ったものは誰一人出てきていない。さっきも名前を出したアーカイブ・・・昔の仲間なんだが、あいつも最初の数か月は中に入らず様子見をしていたみたいだが、中に送り込んだ仲間が誰一人戻らないので自分自身が入ったみたいだな。手紙の大半が外から見た様子の話だ。だが・・・あの魔力結晶が入った手紙だけはどうやったのか塔内部から送り出されている貴重な手紙だ。そこには様々なことが書かれてあった。これまで見たことが無い植物や鉱石、そして外とは比べ物にならないくらい強力な原生生物。それに・・・」

「それに?」

「死人が居る、と・・・」

「どういうことでしょうか?」

「わからん。行ってみないとな。だが、少なくとも安全では無い。だからこそ少しでも戦力が欲しかったんだがな。」

 カチャカチャと作業の音だけが辺りに響く。一呼吸置いたのち

「僕も・・・聞いていいですか?」

 トータルワークスさんは無言でそれを僕は肯定と受け取った。

「ラバーズって誰なんです?」

 作業をしていた手がピタッと止まる。

「放浪者、フォーチュン、ラバーズ、アーカイブ、WW4、マッドサイエンティスト、そして俺。この世界で原初の七祖と呼ばれていたメンバーだ。最初にこの世界に降り立った七人だったからな・・・。俺たちは同じ異世界を旅した仲間だった。その内、今、生き残っているのは4人だ・・・。ラバーズは・・・一番子供だった。それだけにフォーチュンや放浪者はラバーズを可愛がっていた。今の様な2人になったのはラバーズが死んでからだ。俺から言えるのはそれだけだ。これ以上は言わない。」

 これ以上は聞き出せないと思い、その場を離れ自分の小屋へと戻った。一人椅子に腰かけ考えた。思えば数十年も世話になっていてフォーチュンさんの達の過去は何も知らなかった。本名も知らない。この世界の住人は傷を負っている者が多い。僕らだってそうだ。それだけに踏み込めなかった・・・いや、そんなものはただの言い訳だ。ただ、自分が臆病なだけだったんだ。

 音がして女騎士さんが入ってきた。どうやら義手のメンテナンスは終わったようだ。

「酷い顔だな、剣士君。」

「フォーチュンさんの事、何も知らなかったな・・・って。」

「そうだな。名前も過去も・・・。ふふっ・・・」
 彼女は神妙な面持ちだったが、急に吹き出した。

「え?どうしたんです?」

「いやね。名前と言えば私達はお互い名乗り合って、お互いのことをよく知ったのに、未だに”剣士君””女騎士さん”で呼び合ってるのが改めて思うとおかしくって・・・」

 長い間一緒に暮らすうちに僕達は互いのことを話し、名乗りもしたのに未だに呼び名を変えていなかった。長い間呼んでいる内に僕らの中で定着してしまったのだ。ただ、フォーチュンさんは本当に信頼できる者同士じゃないと本名を名乗っちゃいけないし、いつどこで誰が聞いてるとも限らないので不用意に口に出さない方がいいと口を酸っぱくして言われてたっけ?少なからずそのせいもあった。

「ぷっ・・・ですね。でも、もう呼び名れちゃいましたから。」
 僕も笑って返す。

 互いに笑いあってから女騎士さんが真面目な顔つきになり

「剣士君、フォーチュン様に聞こう。過去の事、ラバーズさんの事・・・あの御方と向き合うんだ。」

 彼女の真っすぐな瞳には不退転の意思が宿っていた。僕はそれに答えるように力強く頷いた。
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