羊頭狗肉のベルゼブブ

人の心無いんか?

文字の大きさ
上 下
48 / 110
双新星編

サブストーリー11 徐々に色褪せていく・・・

しおりを挟む
 目が醒める。
 部屋には暖かい木漏れ日が差し込み、うららかな陽気を感じさせる。
 
 ここは私の部屋。
 十数年寝起きした良く見知った部屋だ。

「おはようございます、姫様~。今日はいい天気ですよ~。」
 
 のんびりとした声で寝ぼけた私に声を掛けるのは、幼少からずっと私に仕えてくれたメイドだ。

「お~い、姫様~。寝ぼけてるんですか~。眠気覚ましにあつ~いお茶でも入れましょうか?」

 私の顔を覗き込み、目の前で手を振ると、そう言ってお茶の準備をしに行くメイド。

 ここは私の部屋。

 私がここに居て何も不思議ではない。不思議ではないのに・・・

「違う・・・」
 
 ボソッと独り言が漏れる。
 夢を見ていた・・・気がする。
 いや・・・夢だったのかどうか・・・。ここではないどこかの・・・。
 ただ、私は夢の中が本当の居場所で、今いる自分の部屋が”ニセモノ”なんだという、そんな感覚に囚われていた。
 夢の内容を思い出そうにも、上手く思い出せない。
 まるで両手で掬った水が、指の間からどんどん零れる様に、無くなっていくのだ。

「姫様ー。今、あつ~いお茶を淹れますので。」
 そう言って茶器を扱い、お茶を淹れるメイド。
「さ、入りましたy・・・熱っ!!」
 メイドは熱く入れすぎたのかカップを持ち上げた手を咄嗟に放してしまい、割ってしまった。
「ご、ごめんなさい・・・」

「いいのよ。」
 この子とは長い付き合い。昔からこの子はドジなのだ。

「すぐ片づけますので・・・痛っ!」
 予想通りというか、割れたカップを片づけようとして指を切るメイド。

「見せてください。」
 そう言ってメイドの子の手を取る。
 私は怪我をした指に手をかざし・・・かざし?

「???」
 メイドの子が不思議な顔で私を見る。
 私は何をしようとしたのだろう?
 どうして怪我の部分を見せろだなんて言ったのかしら・・・
 どうして怪我の部分に手をかざしたのかしら・・・

「えーと・・・痛いの痛いの飛んでけー♪」
 笑いながら誤魔化すようにそう言ったが、

「えー、姫様。なんですそれ?初めて聞きましたよ~。何だか可愛いですね!」
 メイドに言われておかしいことに気づいた。

(何・・・今の?・・・私、なんで・・・どうしてあんなことを・・・)

 私は呆然としてしまった。
 頭の中がぐちゃぐちゃだ。
 様々な感情が私の中で渦巻いていた。焦り、後悔、悲しみ・・・
 動悸がして、得も言われぬ胸の苦しみが襲ってくる。
 私は胸に手を当て何とか落ち着こうとした。

「姫様!大丈夫ですか!?お顔が真っ青です!・・・あれ?姫様?そんなの持ってましたっけ?」

 メイドに言われて視線を胸に手を当ててる手に移す。
 そこにはピンク色のイミテーション石が使われたネックレス。
 私は目を見開く。
 何か・・・何か・・・とても大事な・・・
 思い出そうと、探ろうとすると頭が割れそうに痛い。
 でもやめられない!
 何を!何を!忘れているの!私は!!!

「姫様!ああ・・・大変!!すぐお医者様を呼んできます!!」
 
 気が付けば私は泣いていた。静かに涙していた。

 私は何を失ってしまったの?分からない、分からない・・・

 誰か・・・誰か教えてください!

 いったい誰に対してなのか・・・

 誰かも分からない、

 そもそも居るのかも分からない相手に私は縋る。
 
 私はネックレスを両手で包むように握り、祈る。 

 助けてください・・・

 教えてください・・・

 返してください・・・と。

 だって・・・

 もう、私にはきっと祈ることしか出来ないのだから・・・

 これから先ずっと・・・ずっと私は祈り続けるだろう・・・

 失ったものに焦がれて・・・

 徐々に色褪せていく・・・

 でも、燃え尽きることだけは許されない。

 それだけは絶対にしてはならないと私の心がそう言うのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

鍵の王~才能を奪うスキルを持って生まれた僕は才能を与える王族の王子だったので、裏から国を支配しようと思います~

真心糸
ファンタジー
【あらすじ】  ジュナリュシア・キーブレスは、キーブレス王国の第十七王子として生を受けた。  キーブレス王国は、スキル至上主義を掲げており、高ランクのスキルを持つ者が権力を持ち、低ランクの者はゴミのように虐げられる国だった。そして、ジュナの一族であるキーブレス王家は、魔法などのスキルを他人に授与することができる特殊能力者の一族で、ジュナも同様の能力が発現することが期待された。  しかし、スキル鑑定式の日、ジュナが鑑定士に言い渡された能力は《スキル無し》。これと同じ日に第五王女ピアーチェスに言い渡された能力は《Eランクのギフトキー》。  つまり、スキル至上主義のキーブレス王国では、死刑宣告にも等しい鑑定結果であった。他の王子たちは、Cランク以上のギフトキーを所持していることもあり、ジュナとピアーチェスはひどい差別を受けることになる。  お互いに近い境遇ということもあり、身を寄せ合うようになる2人。すぐに仲良くなった2人だったが、ある日、別の兄弟から命を狙われる事件が起き、窮地に立たされたジュナは、隠された能力《他人からスキルを奪う能力》が覚醒する。  この事件をきっかけに、ジュナは考えを改めた。この国で自分と姉が生きていくには、クズな王族たちからスキルを奪って裏から国を支配するしかない、と。  これは、スキル至上主義の王国で、自分たちが生き延びるために闇組織を結成し、裏から王国を支配していく物語。 【他サイトでの掲載状況】 本作は、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも掲載しています。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

妹ちゃんは激おこです

よもぎ
ファンタジー
頭からっぽにして読める、「可愛い男爵令嬢ちゃんに惚れ込んで婚約者を蔑ろにした兄が、妹に下剋上されて追い出されるお話」です。妹視点のトークでお話が進みます。ある意味全編ざまぁ仕様。

処理中です...