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双新星編

裏本編9 女神の丸焼き メロンソースを添えて

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 処刑の日、ここは初めてこの世界に降り立った闘技場と同じ作りのように見えた。

 先輩は闘技場中央の柱に縛られていた。

 ぼくは、それをただ見ていることしかできない。
 ぼくのすぐ近くに代表とアドミラルさんとヴォイスさんが控えていた。
 ヴォイスさんが手を挙げ合図しようとした瞬間、
 ぼくたちと逆側の観客席からキブスに松葉杖をついた満身創痍の二人が闘技場内に落ちた。
 あの時、命を取り留めたアーセナルさんと先輩の部下の人だった。
 落ちた衝撃で松葉杖が折れても、無理やり杖代わりに這って先輩のもとへ行こうとする。
 アーセナルさんは先輩の弓を背中に担いでいた。
 ぼくは前に出て食い入るようにその姿を見た。


「殺しますか?」
 後ろでヴォイスさんが平坦な声で言う。

 代表は「待て。その方が面白いものが見れる。」とその光景を見ていた。

「お前は行かないのか?」
 代表が挑発的な目でヴォイスさんに問う。

「行けば許してくれるんですかい?」
 ヴォイスさんが代表を見ずに答える。

「ふっ・・・許さんな。」
 代表はそれに嘲笑しながら答える。

 先輩は二人に気が付き顔をくしゃりとして叫びだした。
「やめなさい!!!二人とも!!!」

「代表!!!この二人は違います!!!お許しください!!!この二人は関係ないのです!!!」

「あなたたちも代表に許しを請いなさい!!!」
 そう言うと、

 アーセナルさん達は、
「嫌です!!!!私たちが頭を下げるのは、こうべを垂れるのは、あなただけです!!!」
 と、泣きながら叫んだ。

 ぼくは二人の姿に泣いていた。先輩も泣いていた。

 先輩のもとについた二人は歯で先輩の縛っているロープをかみちぎり出した。
 口から血を流し、目から涙を流し、歯が折れようともお構いなしに。
 ロープをちぎり先輩を自由にした二人は先輩に抱きつき『わんわん』泣き出した。
 先輩も静かに泣きながら聖母様のように二人を抱いていた。

「ヴォイス、合図を送れ。」

 闘技場に居る三人わざと聞こえるように代表は言うと、
 闘技場の片側の柵が上がりだした。
 それを見たアーセナルさん達二人は先輩に弓を渡し、先輩を抱えて折れた足を『じたばた』もがきながら無理やり引きずり、闘技場の逆側に必死で移動し始めた。もうここで足が使えなくなってもいい、二度と歩けなくなってもいい。そんな覚悟が見て取れた。

 指のない先輩は足で弓を取り、移動は二人に任せ、せりあがっていく柵を見据えていた。
 ある程度上がると、勢いよくダイアウルフが飛び出してきた。今の三人には最悪の相手だった。

「くそ!!!」
 先輩の部下の顔色が変わった!

 先輩は戦闘時の凛々しい顔になり静かに指示を出し始める。
「アーセナル、矢じりを。」

「はい。」と間髪入れず矢じりを生成し先輩の足に渡す。

 先輩は足で弓を引きダイヤウルフを射貫いた。
 「キャイン!」と声をあげて絶命するダイアウルフ。しかし開いた柵からは次々とダイアウルフが出てきていた。

「次!」「はい!」「次!」「はい!」「次!!」「はい!!」

 阿吽の呼吸で次々とダイアウルフを射貫いていく。先輩の目は死んでいなかった。
 しかし、先輩とダイアウルフの群れの距離は縮まって行く。そして引きずって移動している先輩たちも壁が見えてきている。

 このままじゃ…このままじゃ殺される!!!!
 ぼくも…ぼくも…!!!
 くそ!!!震えるな!!!今行かなきゃ三人ともやられる!!
 ぼくは思い出していた。先輩と初めて会った日のこと。優しく慰めてくれて勇気を貰った日のこと。
 あの日が無ければぼくは未だ布団を被って震えていただろう。
 彼女がぼくを外に連れ出してくれたんだ!
 見捨てていいわけがない!見捨てたら明日を生きられない!!!
 這ってでも助けに行った高潔なあの二人のように、今あなたに恩を返します!!!
 ぼくは足を闘技場の淵にかけ・・・・

































 冷え切った代表の目を思い出した。


















 ぼくは闘技場の手すりにしがみつき泣いている。だらしなく駄々っ子のように…

 代表がぼくのそばを通り過ぎるとき立ち止まり、
「つまらんやつだ。お前ほど無価値な奴はそうそう居ない。」
 と、言って過ぎ去っていった。アドミラルさんも静かに一瞥して後に付いて行った。

 隣にヴォイスさんが立つ気配がある。優しい声で、
「なあー。お前さー。自分を攻めなくていいよ。」

「俺は別に代表と違ってお前のことつまらないとか、無価値とか思ってないぜ。悪いとも思ってないし、俺っちはむしろ好きだよ。」

「だってお前さ。普通なんだよ。いい意味で。そりゃ怖いに決まってるじゃん。あの助けに入った二人が異常なんだよ。そんなんと比べても仕方ないぜ?」



 闘技場には直線に、ある地点に向かってダイアウルフが点々と30匹ほど息絶えている。その先には壁を背にして力尽きている三人。
 二人は先輩を守るように折り重なり絶命している。そんな三人にダイアウルフが群がり生きたまま肉を引き裂いていた。先輩はかろうじて呼吸をし、焦点の定まらない目で空を見上げていた。

 ぼくは飛び出せなかった。
 「必ず殺す」と言った代表の声、その目つき。
 それを思い起こすだけで『確実に死が待っている』と頭が警告した。
 次元斬さんに稽古をつけてもらい、前線で死線を乗り越えた”つもり”だった。
 しかし、結局、死の恐怖に打ち勝てず、先輩たちを見殺しにした。
 ヴォイスさんは慰めてくれるが、ぼくはぼくが嫌いでたまらなかった。
 そんなとき先輩と目が合った。ぼくは”それ”を見て余計涙が止まらなくなった。

(どうして…どうして微笑むのですか!いっそ攻めてくれたら良かったのに!薄情者と!情けない奴と!軽蔑の目で、ゴミを見る目でぼくを断罪してくれればよかったのに!!!)

 ヴォイスさんが『ポンポン』と僕の背中を優しく叩く。
「悪いが、もういいか?俺もあいつとは同期なんでね。これ以上苦しめたくない。」

 ぼくはふり絞るように「は・・・・・・・い・・・・・」と返事をした。

「よし!やってくれ!!」

 ヴォイスさんの合図で火属性の魔法が三人とダイアウルフを包み込む。

 ぱちぱちと燃えていく。

 憧れの人が。

 はちぱちと燃えていく。

 恋した人が。

 ぱちぱちと燃えていく。

 ぼくの想いが。

 その様子をぼくはずっと・・・ずっと・・・いつまでも見ていた。
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