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双新星編
裏本編8 君を見つめて、僕は戦士に育つよ… その1
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数日後、サディスティッククイーンの部下が来て出撃の日が決まる。
ぼくは、アーセナルさんに報告して、「先輩のお世話に暫く来れないかもしれない。」と伝えた。
アーセナルさんもぼくが置かれている状況を知っているのか。
静かに「気を付けてね。」とだけ答えた。
初めての最前線は地獄だった。
ぼくの初戦闘は敗走する部隊を見つけて回り込む惨敗兵狩りだった。
目の前で繰り広げられる光景。
こいつら人間じゃなかった。
疲労と怪我でまともに動けない敵を一方的に狩っている。
サディスティッククイーンの部下達は手慣れた感じで殺さないよう戦闘不能にしている。
「うわー。この子、可愛い顔してる。貰っちゃお!」
「ショタコンきっも!あ、私、このイケメンね!」
「こっちの娘可愛いじゃん、ラッキー。」
「あー・・・殺しちゃった。可愛かったのになー。」
男も女もキチガイだらけだ。
ぼくはその光景に、吐き気を催し、胃のものを全て戻した。
ぼくがえずいていると、
「な、仲間に触れないで・・・」
満身創痍の魔術師らしき女性がぼくの前に立つ。
もう能力も使えないのか、杖で殴りかかってくる。
ぼくは簡単に避けた。女魔術師はよろけてそのまま倒れる。
今のすれ違いざまに魔法でも、腰に下げてる短剣でも殺せた・・・でも・・・
人を殺したことが無いぼくはここにきて人を殺すことに恐怖していた。
女魔術師がよろよろと立ち上がる。
そこにショートランスを持った部隊員がやってきて、
「お?結構かわいいじゃん!もーらい!」
と手足を簡単に突き刺し、倒れた女魔術師の髪を持って引きずって行く。
ぼくが見ていると、
「なんだよ。ここじゃ早い者勝ちだぜ。」
睨みながら、そう言って去っていく。
引きずられていく彼女が「やだー!殺してー!殺してー!!」と泣き叫んでいる声が耳に張り付いて離れなかった。
その日の野営は最悪だった。
男も女もレイプされ、おもちゃにされ、最後はサディスティッククイーンの手なずけている魔獣の餌にされたり、部隊員の”的当て”ゲームの的にされたり、生きたまま燃やされたり、と嬲り殺されていた。
ぼくは一人、ひっそりと狂宴から離れ、テントを見て回る。
人気のない暗闇のテントの中、裸に剥かれて男共に凌辱された、さっきの女魔術師を見つける。
目が虚ろで男の体液まみれになり、『ブツブツ』呟いている彼女の首元に手をやり、
風魔法で苦痛を終わらせた。
最悪の気分だった。
ここでは・・・ここでは死すら救いになるのだと知った。
ぼくは首から『どくどく』と血が流れて、動かなくなった彼女に頭を下げた・・・ずっと・・・ずっと・・・下げ続けた。
それからのぼくは何かが吹っ切れてしまった。
人を殺すことに躊躇いが無くなってしまった。
殺さなければこちらがやられるし、この部隊じゃ生かしておくことはあまりに酷だった。
次元斬さんの言った通りだ。こんな奴らのところ・・・・来るところじゃない。
まともな奴は一人もいない。
連戦の命の削り合いにぼくも無傷でいられなかった。体中切り傷、擦り傷、打撲だらけで、利き手の小指はもう無いし、目も片目がやられて失明した。頭に火炎魔法がかすめたところは、もう髪が生えてこなくなっていた。
(凡人の命が残っているんだから、それだけで儲けもんだ。)
そんな風に考えられるようになっていた。
昨日まで居た奴が今日は姿が無いなんて日常茶飯事だった。
しかし、この部隊では誰が欠けても涙一つ出なかった。
また一人命を奪う。風魔法と土魔法で砂塵を作り出し、隙を作ってから火魔法を圧縮して作った剣で相手の女剣士を真っ二つにした。
ぼくが今まで使っていた魔法は異世界では通用したが、この狭間世界では殺傷力に欠けていた。牽制には良いが一撃必殺には向かない。
戦ううちに魔術師の優位性でもある射程を犠牲にして、高密度の属性魔法を近接武器にして戦う方法を編み出していた。
また、その近接武器を意識させ、遠距離魔法で足を潰して、勝ちをもぎ取ったり、
不意打ち、目つぶし、挟撃・・・卑怯と言われようと外道と言われようと勝ち方にこだわらなかった。
そして、徹底して勝てる勝負しかしなかった。勝てないと判断したら逃げるか、1対1を避ける様に立ち回った。
「あーあ・・・もったいねぇ!なんでいつも殺すんだよ!しかもドロドロに溶けてるし死姦もできねーじゃん。」
寄ってくる部隊員を無視して次に行く。
この部隊に居ると身体の傷よりも心が痛む・・・ぼくは早く拠点に帰って先輩たちに会いたかった。
はやく拠点に戻らないと、ぼくがぼくで無くなってしまいそうだった。
ある日のこと、野営地で装備を手入れしていると、
「ぼんぼんさん。」
懐かしい呼び名。振り向くとアーセナルさんが立っていた。
「アーセナルさん!どうしてこんな前線に!?」
ぼくの姿を頭からつま先まで見たアーセナルさんが一瞬顔を曇らせ、ぼくの頭を抱き寄せる。
「大変・・・だったね。」
ぼくはそれだけで泣きそうになったがグッと堪える。
「それよりも、どうして!?こんな危険なところに!?」
「ポイントが欲しくて・・・部隊の子たちと出てきたの。来月も隊長のお世話をしたいから・・・」
目を伏せながらそう言う。
ぼくの居る部隊の糞みたいな連中と、こんなにも素晴らしい人達。
なんで同じ人間なのに、こんなに違うんだ。
「そのときは・・・」
「ん?」
「そのときはぼくもご一緒させてください。」
「もちろんよ。」
優しい笑顔でそう言う彼女。
「隣の部隊だからよろしくね。」
そう言って自分の持ち場に帰っていった。
「よお~デブ。今のすげぇ美人だったな。ヒヒ!敵なら四肢をもいで楽しめるのによぉ!」
肩に手を置き、話しかけてきたのは女の子をレイプしては切り刻むのが趣味のゲス野郎だった。
「触るな。ゲス野郎・・・どぶ臭い口も閉じとけ。」
ぼくは思いっきり睨む。
「おお~!こわ!【器用貧乏】ちゃんはすぐ怒るな~。」
いつしかぼくは部隊内で【器用貧乏】とか、”トリックスター”と呼ばれるようになっていた。
「まぁ・・・でもそうか~残念だな~。」
ゲス野郎は『ヒヒヒ』と下卑た笑いを浮かべながら去っていった。
ぼくはゲスの言葉が引っかかっていた。
その日の戦闘は騎兵隊との戦闘になった。
(クソ!機動力があるし、位置が高い分、決定打が入れづらい。)
ぼくは敵の足場を魔法でぬかるみに変えたり、魔法圧縮でなるべくリーチが出る槍を作ったりで対処するが戦果は芳しくない。
何より周りの動きが鈍い。
(なんだこいつら!?いつも男や女を持って帰るためにやる気満々なのに、今日はなんでこんなに動きが緩慢なんだ!?)
その時、サディスティッククイーンが号令を出す。
「全隊。後方の森へ下がれ!」
(はぁ!?今下がったら隣の部隊が孤立するじゃないか!)
そこで『ハッ』っとする。
ぼくはサディスティッククイーンの元に行き糾弾した。
「取引したな!!!!」
奴は『ニタァ』と気持ち悪い笑みを浮かべて
「何のことかしら~。」
と愉快そうに言う。
「ちくしょう!!!」
ぼくはアーセナルさんの部隊の方へ走り出そうとする。
「あらぁ~部隊を離れるの?あの男の子はいいのかしらぁ~?」
ニタニタしながらそう言うキチガイ女。
その顔を見て確信する。
「お前!!!最初から助ける気なんて無かったろ!!!」
「そんなこと無いわよ~。私は約束は守るわ~。約束を破ろうとしてるのは あ・な・た。 あなたが私の部隊で働くと言い出したのよ~。」
恍惚の顔でクスクスと笑うキチガイ女。
(次元斬さん。あなたの言った通りでしたよ。はなからこのキチガイと取引なんて出来なかったんだ!)
(すまない!木こり!)
ぼくは踵を返し走り出す。
後ろで悪魔が笑っているのがわかる。
チクショウ・・・チクショウ・・・!!!!
騎兵隊はかなり先を行っている。
(頼む・・・無事で・・・居てくれ・・・)
部隊の惨状はひどかった。
まだ戦闘は続いているが、挟撃され大混乱に陥っている。
「アーセナルさん!アーセナルさーーーーん!!!」
ぼくは土魔法と氷魔法で作った盾を携え、戦いながらアーセナルさんを探す。
(くそ!・・・いくら先輩が鍛えた部隊でもこの状態じゃ厳しい。)
倒れている部隊員を抱き起こし、
「アーセナルさんは、アーセナルさんはどうした!?」
そう尋ねると指で方角を指し示し事切れる。
ぼくは指さす方角に戦いながら走り出す。
足に風魔法をかけジェットスラスターのように飛び敵をかき分けていく、
方角の先にはアーセナルさんと数人の部隊員が固まり、固く守りながら敗走していた。
全員動くことは出来るが怪我が酷い・・・
「アーセナルさん!!!」
ぼくはアーセナルさんを呼びながら切り抜け、みんなの元へ行く。
「なんで来たの!!!」
「アイツらアーセナルさんを嵌めたんです。」
「でしょうね・・・。大方ベルセルクの差し金でしょうよ。」
アーセナルさんは悲しそうな目をして、
「君まで死ぬことなかったのに・・・」
と言ったが、
ぼくはそれを振り払うように、
「ぼくに戦い方を教えてくれた人は、どんなことをしても最後まで立ってろって言いました。死ぬなら納得して死ねと。まだ・・・まだ・・・終わってません!まだ、死ねません!」
と、みんなを鼓舞する。
「・・・良い先生ね。」
アーセナルさんの目に少し力が戻る。
ぼくは、
「後方の森へ逃げましょう!最後までどうなるかわかりません!」
そう提案する。
「ええ!」
まともに戦えそうなのはぼくだけ。
息を潜めて森を移動する。
みんなで支え合って移動するが、力尽きる部隊員が出てくる。
「ぼくが背負います!」
しかし、怪我をし、力尽きた部隊員はそれを拒否する。
「駄目だ!今、まともに戦えるのは君だけだ。私は置いていけ!君はアーセナルさんを守れ。それと・・・最後だから言わせてくれ。すまなかった・・・私は最初、君が隊長に下心を抱いて近寄ってきていると思っていた。隊長は・・・可愛いからな。君はいい男だよ・・・自信持てよ。」
そう言って「さあ。もう・・・行け。」と僕らを送り出す。
僕らは仲間を置いて歩き出す、孤独な森に置き去りにして・・・
生きるために、生き残るために・・・
また一人・・・また一人・・・置いていく。
あまりに辛くてぼくは泣きそうになると、
「泣いちゃダメ。それは生き残ってからよ。」
アーセナルさんが力強い瞳でそう言う。
ぼくは袖で涙を拭ってから踏み出す。
そうだ!まだ・・・まだ終わってない。
何日歩いたろう・・・後方の治療部隊と合流出来た時には、ぼくを含めて3人だった。
アーセナルさんともう一人の部隊員はすぐ担架で運ばれていった。
ぼくも至る所が出血していて応急処置を受け、拠点に戻った。
ぼくは、アーセナルさんに報告して、「先輩のお世話に暫く来れないかもしれない。」と伝えた。
アーセナルさんもぼくが置かれている状況を知っているのか。
静かに「気を付けてね。」とだけ答えた。
初めての最前線は地獄だった。
ぼくの初戦闘は敗走する部隊を見つけて回り込む惨敗兵狩りだった。
目の前で繰り広げられる光景。
こいつら人間じゃなかった。
疲労と怪我でまともに動けない敵を一方的に狩っている。
サディスティッククイーンの部下達は手慣れた感じで殺さないよう戦闘不能にしている。
「うわー。この子、可愛い顔してる。貰っちゃお!」
「ショタコンきっも!あ、私、このイケメンね!」
「こっちの娘可愛いじゃん、ラッキー。」
「あー・・・殺しちゃった。可愛かったのになー。」
男も女もキチガイだらけだ。
ぼくはその光景に、吐き気を催し、胃のものを全て戻した。
ぼくがえずいていると、
「な、仲間に触れないで・・・」
満身創痍の魔術師らしき女性がぼくの前に立つ。
もう能力も使えないのか、杖で殴りかかってくる。
ぼくは簡単に避けた。女魔術師はよろけてそのまま倒れる。
今のすれ違いざまに魔法でも、腰に下げてる短剣でも殺せた・・・でも・・・
人を殺したことが無いぼくはここにきて人を殺すことに恐怖していた。
女魔術師がよろよろと立ち上がる。
そこにショートランスを持った部隊員がやってきて、
「お?結構かわいいじゃん!もーらい!」
と手足を簡単に突き刺し、倒れた女魔術師の髪を持って引きずって行く。
ぼくが見ていると、
「なんだよ。ここじゃ早い者勝ちだぜ。」
睨みながら、そう言って去っていく。
引きずられていく彼女が「やだー!殺してー!殺してー!!」と泣き叫んでいる声が耳に張り付いて離れなかった。
その日の野営は最悪だった。
男も女もレイプされ、おもちゃにされ、最後はサディスティッククイーンの手なずけている魔獣の餌にされたり、部隊員の”的当て”ゲームの的にされたり、生きたまま燃やされたり、と嬲り殺されていた。
ぼくは一人、ひっそりと狂宴から離れ、テントを見て回る。
人気のない暗闇のテントの中、裸に剥かれて男共に凌辱された、さっきの女魔術師を見つける。
目が虚ろで男の体液まみれになり、『ブツブツ』呟いている彼女の首元に手をやり、
風魔法で苦痛を終わらせた。
最悪の気分だった。
ここでは・・・ここでは死すら救いになるのだと知った。
ぼくは首から『どくどく』と血が流れて、動かなくなった彼女に頭を下げた・・・ずっと・・・ずっと・・・下げ続けた。
それからのぼくは何かが吹っ切れてしまった。
人を殺すことに躊躇いが無くなってしまった。
殺さなければこちらがやられるし、この部隊じゃ生かしておくことはあまりに酷だった。
次元斬さんの言った通りだ。こんな奴らのところ・・・・来るところじゃない。
まともな奴は一人もいない。
連戦の命の削り合いにぼくも無傷でいられなかった。体中切り傷、擦り傷、打撲だらけで、利き手の小指はもう無いし、目も片目がやられて失明した。頭に火炎魔法がかすめたところは、もう髪が生えてこなくなっていた。
(凡人の命が残っているんだから、それだけで儲けもんだ。)
そんな風に考えられるようになっていた。
昨日まで居た奴が今日は姿が無いなんて日常茶飯事だった。
しかし、この部隊では誰が欠けても涙一つ出なかった。
また一人命を奪う。風魔法と土魔法で砂塵を作り出し、隙を作ってから火魔法を圧縮して作った剣で相手の女剣士を真っ二つにした。
ぼくが今まで使っていた魔法は異世界では通用したが、この狭間世界では殺傷力に欠けていた。牽制には良いが一撃必殺には向かない。
戦ううちに魔術師の優位性でもある射程を犠牲にして、高密度の属性魔法を近接武器にして戦う方法を編み出していた。
また、その近接武器を意識させ、遠距離魔法で足を潰して、勝ちをもぎ取ったり、
不意打ち、目つぶし、挟撃・・・卑怯と言われようと外道と言われようと勝ち方にこだわらなかった。
そして、徹底して勝てる勝負しかしなかった。勝てないと判断したら逃げるか、1対1を避ける様に立ち回った。
「あーあ・・・もったいねぇ!なんでいつも殺すんだよ!しかもドロドロに溶けてるし死姦もできねーじゃん。」
寄ってくる部隊員を無視して次に行く。
この部隊に居ると身体の傷よりも心が痛む・・・ぼくは早く拠点に帰って先輩たちに会いたかった。
はやく拠点に戻らないと、ぼくがぼくで無くなってしまいそうだった。
ある日のこと、野営地で装備を手入れしていると、
「ぼんぼんさん。」
懐かしい呼び名。振り向くとアーセナルさんが立っていた。
「アーセナルさん!どうしてこんな前線に!?」
ぼくの姿を頭からつま先まで見たアーセナルさんが一瞬顔を曇らせ、ぼくの頭を抱き寄せる。
「大変・・・だったね。」
ぼくはそれだけで泣きそうになったがグッと堪える。
「それよりも、どうして!?こんな危険なところに!?」
「ポイントが欲しくて・・・部隊の子たちと出てきたの。来月も隊長のお世話をしたいから・・・」
目を伏せながらそう言う。
ぼくの居る部隊の糞みたいな連中と、こんなにも素晴らしい人達。
なんで同じ人間なのに、こんなに違うんだ。
「そのときは・・・」
「ん?」
「そのときはぼくもご一緒させてください。」
「もちろんよ。」
優しい笑顔でそう言う彼女。
「隣の部隊だからよろしくね。」
そう言って自分の持ち場に帰っていった。
「よお~デブ。今のすげぇ美人だったな。ヒヒ!敵なら四肢をもいで楽しめるのによぉ!」
肩に手を置き、話しかけてきたのは女の子をレイプしては切り刻むのが趣味のゲス野郎だった。
「触るな。ゲス野郎・・・どぶ臭い口も閉じとけ。」
ぼくは思いっきり睨む。
「おお~!こわ!【器用貧乏】ちゃんはすぐ怒るな~。」
いつしかぼくは部隊内で【器用貧乏】とか、”トリックスター”と呼ばれるようになっていた。
「まぁ・・・でもそうか~残念だな~。」
ゲス野郎は『ヒヒヒ』と下卑た笑いを浮かべながら去っていった。
ぼくはゲスの言葉が引っかかっていた。
その日の戦闘は騎兵隊との戦闘になった。
(クソ!機動力があるし、位置が高い分、決定打が入れづらい。)
ぼくは敵の足場を魔法でぬかるみに変えたり、魔法圧縮でなるべくリーチが出る槍を作ったりで対処するが戦果は芳しくない。
何より周りの動きが鈍い。
(なんだこいつら!?いつも男や女を持って帰るためにやる気満々なのに、今日はなんでこんなに動きが緩慢なんだ!?)
その時、サディスティッククイーンが号令を出す。
「全隊。後方の森へ下がれ!」
(はぁ!?今下がったら隣の部隊が孤立するじゃないか!)
そこで『ハッ』っとする。
ぼくはサディスティッククイーンの元に行き糾弾した。
「取引したな!!!!」
奴は『ニタァ』と気持ち悪い笑みを浮かべて
「何のことかしら~。」
と愉快そうに言う。
「ちくしょう!!!」
ぼくはアーセナルさんの部隊の方へ走り出そうとする。
「あらぁ~部隊を離れるの?あの男の子はいいのかしらぁ~?」
ニタニタしながらそう言うキチガイ女。
その顔を見て確信する。
「お前!!!最初から助ける気なんて無かったろ!!!」
「そんなこと無いわよ~。私は約束は守るわ~。約束を破ろうとしてるのは あ・な・た。 あなたが私の部隊で働くと言い出したのよ~。」
恍惚の顔でクスクスと笑うキチガイ女。
(次元斬さん。あなたの言った通りでしたよ。はなからこのキチガイと取引なんて出来なかったんだ!)
(すまない!木こり!)
ぼくは踵を返し走り出す。
後ろで悪魔が笑っているのがわかる。
チクショウ・・・チクショウ・・・!!!!
騎兵隊はかなり先を行っている。
(頼む・・・無事で・・・居てくれ・・・)
部隊の惨状はひどかった。
まだ戦闘は続いているが、挟撃され大混乱に陥っている。
「アーセナルさん!アーセナルさーーーーん!!!」
ぼくは土魔法と氷魔法で作った盾を携え、戦いながらアーセナルさんを探す。
(くそ!・・・いくら先輩が鍛えた部隊でもこの状態じゃ厳しい。)
倒れている部隊員を抱き起こし、
「アーセナルさんは、アーセナルさんはどうした!?」
そう尋ねると指で方角を指し示し事切れる。
ぼくは指さす方角に戦いながら走り出す。
足に風魔法をかけジェットスラスターのように飛び敵をかき分けていく、
方角の先にはアーセナルさんと数人の部隊員が固まり、固く守りながら敗走していた。
全員動くことは出来るが怪我が酷い・・・
「アーセナルさん!!!」
ぼくはアーセナルさんを呼びながら切り抜け、みんなの元へ行く。
「なんで来たの!!!」
「アイツらアーセナルさんを嵌めたんです。」
「でしょうね・・・。大方ベルセルクの差し金でしょうよ。」
アーセナルさんは悲しそうな目をして、
「君まで死ぬことなかったのに・・・」
と言ったが、
ぼくはそれを振り払うように、
「ぼくに戦い方を教えてくれた人は、どんなことをしても最後まで立ってろって言いました。死ぬなら納得して死ねと。まだ・・・まだ・・・終わってません!まだ、死ねません!」
と、みんなを鼓舞する。
「・・・良い先生ね。」
アーセナルさんの目に少し力が戻る。
ぼくは、
「後方の森へ逃げましょう!最後までどうなるかわかりません!」
そう提案する。
「ええ!」
まともに戦えそうなのはぼくだけ。
息を潜めて森を移動する。
みんなで支え合って移動するが、力尽きる部隊員が出てくる。
「ぼくが背負います!」
しかし、怪我をし、力尽きた部隊員はそれを拒否する。
「駄目だ!今、まともに戦えるのは君だけだ。私は置いていけ!君はアーセナルさんを守れ。それと・・・最後だから言わせてくれ。すまなかった・・・私は最初、君が隊長に下心を抱いて近寄ってきていると思っていた。隊長は・・・可愛いからな。君はいい男だよ・・・自信持てよ。」
そう言って「さあ。もう・・・行け。」と僕らを送り出す。
僕らは仲間を置いて歩き出す、孤独な森に置き去りにして・・・
生きるために、生き残るために・・・
また一人・・・また一人・・・置いていく。
あまりに辛くてぼくは泣きそうになると、
「泣いちゃダメ。それは生き残ってからよ。」
アーセナルさんが力強い瞳でそう言う。
ぼくは袖で涙を拭ってから踏み出す。
そうだ!まだ・・・まだ終わってない。
何日歩いたろう・・・後方の治療部隊と合流出来た時には、ぼくを含めて3人だった。
アーセナルさんともう一人の部隊員はすぐ担架で運ばれていった。
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