上 下
16 / 82
双新星編

裏本編5 おもひでぽろぽろ

しおりを挟む
 明日は先輩とのデートの日、ここ数日は興奮して寝つきが悪かった。
 ぼくは明日に向けてチェックをする。
(服も身だしなみもOKだ。)
 財布を確認する。
(剣士君がお金を貸してくれてまだ結構あるけど・・・備えあればなんとやら、と言うし・・・)

「あ、あの、木こりちょっといいか?」
 ぼくは自身のベッドに腰かけ作業をしている木こりに話しかける。

「俺もお前に用事があるんだが、ちょっと待ってくれ。」

「いや・・・邪魔して悪い。待たせて貰うよ。」

 暫く、脳内でデートのシュミレーションを行っていると、

「待たせて悪かったな。それで、どうした?」

「木こり、悪いんだがお金を貸してくれないか?」

「構わないが、どうした?」

「い、いや・・・その・・・」
 恥ずかしくてデートとは言いづらかった。

 木こりはじっとぼくを見つめてから、
「まあ、いい。それと、これを。」
 渡してくれたのは、お金と木彫りのペンダント。

「これって・・・」

「約束の品だ。でも前も言ったがあくまで保険として使ってくれ。相手が気に入るかどうか分からないしな。」

「ありがとう。木こり。大切に・・・大切に使わせてもらうよ。」





 デート当日、ぼくは第一モールで先輩と待ち合わせる。

「ご、ごめん!まっt・・・・え!?」

「え?」

「い、いえ、待たせたわね。」

「いえ!大丈夫です。今来たところです!」
 今、一瞬あれ?なんだろ?
 ともあれ、くぅぅ!!童貞が夢見るシチュエーショントップ3に入るであろう待ち合わせのこのやり取り!素晴らしい!記念日にしないと!

 二人でモールを並んで歩く、もうそれだけで幸せだった。
(今日がもう最後でもいいや・・・)


「あ・・・」
 先輩がトテトテとモールのアパレルショップのウインドウに張り付く。
 ガラスに手を当てじっとディスプレイされてる服を無表情で見つめてる。

(見つめる先輩の目・・・なんだか違和感が。う、う~ん、欲しいの・・・かな?よ、よし!!!)

 ぼくは値段を確認すると・・・・
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
 ぼくの視線が財布の中身と値段表とを行き来する。
(嘘だろ!?なんだこの値段!?第二モールと全然違う!)

 そんなぼくに先輩が気づき、
「あ、ち、違うの!ご、ごめんね。次行こう。あっちあっち!」
 肩を落とすぼくを引っ張っていく先輩。

 しかし、その後も第一モールの価格にぼくは心を折られ続けた。
 あらかじめ第一モールをチェックしておくべきだった。
 ぼくは自分の詰めの甘さに徐々に自己嫌悪に陥っていった。


 幾つか店を回った後、先輩は少し困った顔してうなだれるぼくの肩を優しく叩いて、
「ねぇ。行きたいお店あるんだけどいいかな?」
 そう言って第一モールを後にし、長い階段を降りて第二モールへ移動する。

 第二モールのありふれた喫茶店に入り、
 お互い向かい合わせで座る。

 先輩はぼくに過去の話をしてくれた。
 貧しかったこと。
 些細な時間が幸せだったこと。
 なんてことない時間が大切なこと。
 それを聞いて、ぼくは恥ずかしくなって泣いてしまった。
 ぼくは本当にこの人のことをちゃんと見ていたのだろうか、と。
 今日のデートを振り返りあまりに幼稚で独りよがりで、恥ずかしさのあまり泣いてしまった。

(これだからクソ童貞は・・・どうしようもないな、ぼくは!)

 そんなどうしようもないぼくを優しく慰めてくれる。
 大失敗をしたばかりなのに、今日の出来事でぼくは、よりこの人に惹かれていた。


 ぼくがぐずっていると先輩が後ろの席を覗き込んで何かを言っている。
 覗くとそこには剣士君たち4人の姿があった。
 ずっとぼくたちを尾行していたらしい。
 流石に腹が立ったが、ぼくを心配してくれたらしい。
 そう言われると悪い気はしなかった。

 剣士君がカメラを持っていてずっと写真を取っていたらしい。
 今日の記念にみんなで撮ろう、と提案してくれて、
 まず、ぼくと先輩の二人で撮ってくれた。
 その際、木こりが作ってくれたプレゼントを渡す。

「あ、ありがとう。大切にするね。」
 頬を赤らめ、渡したネックレスをグッと胸に引き寄せ受け取ってくれる。

(ありがとう。木こり。ようやく納得のいくプレゼントができたよ。)

 最後にみんなで写真を撮る。

 ぼくは先輩の隣で緊張しすぎて、変な体勢、変な顔になってしまった。

 これも月日が経てば良い思い出になるのかな?
 ぼくは、こんなどうしようもない世界で出会えた素晴らしい良縁に感謝した。


 騒ぐみんなから少し離れて剣士君がこの時間を愛しく、大切にしているような、そんな表情で眺めている。ポツリと、
「どうか・・・またみんなで・・・」
 その、呟きは懇願のようにも思えた。




______________________________________



 色褪せた写真を撫でながら思う。
 剣士君は知っていたのだろう。
 必ずしも次があるわけではないと、
 その時が最後のチャンスかもしれないのだと・・・
 今なら思う。
 彼はずっと大人で、
 私はあまりに無邪気で幼稚だった。
 知らないことはなんて愚かで残酷なのだろう。
 もし、そのことにあの当時気づけていたら、きっと別のことが出来ただろう。
 今となって後悔しているなんて、この年になっても、まだまだ私は幼稚なのだろうな。
 そんな幼稚な私が彼と張り合っていたなんて・・・実に滑稽だ。
 だが、そんな幼稚さもみっともなさも、今では懐かしく思えるのだから少しは成長出来たのだろうか?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

【R18】異世界なら彼女の母親とラブラブでもいいよね!

SoftCareer
ファンタジー
幼なじみの彼女の母親と二人っきりで、期せずして異世界に飛ばされてしまった主人公が、 帰還の方法を模索しながら、その母親や異世界の人達との絆を深めていくというストーリーです。 性的描写のガイドラインに抵触してカクヨムから、R-18のミッドナイトノベルズに引っ越して、 お陰様で好評をいただきましたので、こちらにもお世話になれればとやって参りました。 (こちらとミッドナイトノベルズでの同時掲載です)

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

処理中です...