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キリちゃん視点

本編8 肝胆相照のティーシポネー その1

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 中央の塔の足元まで来る。

「アンタ、私たちに違和感を感じたと言っていたわね。」
 私はクソ女を試すように質問する。

「ええ・・・道行く人は感じてはいないみたいだけど、私にはあなた達を見た時、僅かに違和感があったわ。」

「じゃあ、この塔を見て何か感じない?」

「???いえ・・・特に・・・」
 その答えを聞いて私は悟る。

(ハッ!もうこいつの底は知れた。雑魚確定。)

「そう・・・あなたは見たことのある能力を劣化コピーできると言っていたけど、大したこと無いみたいね。元の能力が雑魚なのか、あなたの劣化具合で雑魚になっているのか・・・」

「それは・・・」

「ねぇ・・・この塔”いつから”あるの?」

「いつからって・・・え・・・えっと・・・最初から?あれ?いつから・・・」
 くく・・・ダメだわこいつ。動揺してる。私は心の中でせせら笑う。
 こんな奴が役に立つのかしら?
 まぁでも、この様子だと後で消す際は楽に消せそうね。

「ふん・・・。あなた本当に役に立つのかしらね?”期待”しているわ。」
 私は嫌味っぽく言うと観音開きの大きな扉を開けて、先んじて塔に入っていく。



 塔内部は広い空間の様だった。というのも真っ暗で良く見えなかったからだ。
 全員が入ると後ろの扉が閉まり、壁の燭台に火がともる。映し出されたのは直径300メートルくらいはあろうかという石造りの大広間だった。

「ようこそ~。まだ外側だけで内部はテキトーなのよね~。張りぼて状態ってやつ?」

 目の前、空中に天秤の糞神が浮いていた。糞神はゆっくりと降りてきて、着地する。
 姿を目にするだけで沸々と怒りが湧いてくる。その怒りを存分にぶつける時の為に今はただ静かに、身体の奥底に押しとどめる。

「な~んか、増えてるわね?まぁ良いけど。」

「大丈夫よ。アイツらはギャラリーだから。」

 クソ女は役に立たないだろうし、てっちゃんとカルディアは巻き込みたくない。

「あら?全員で掛かってきてくれていいのよ?」
 
「ま、待ってください!」
 そう言って横やりを入れたのはクソ女だった。

「あら?なにかしら?”失敗作”ちゃん。」

「し、失敗作って・・・」

「ああ~。私たちの中でのあなたの呼び名。全ての能力を扱えるような最強のチート戦士作ってみようぜ!ってノリで作ったのよ。あなたは様々な分野に興味を持ち、ある種、蒐集癖の様なものも持っていたから色々な能力を持つには適任かな?って。でも確かに色々な能力を扱えるような能力になったけど、どれもこれも出力の弱い劣化コピーで使い物にならない。そこでついたあだ名が”失敗作”ちゃんってわけ。」
 そう言ってゲラゲラとクソ女を笑い飛ばした。
 こいつ見込み通りの雑魚だったわけね。失敗作か・・・ざまぁないわ!クソ女。

「んでもって、成功例があなたの隣の子ね。」
 そう言って私を指す。

「やっぱりさぁ。どこかしら無理が生じてデメリット部分が出ないと突出した能力になんないのよね~。
その点あなたはデメリットだらけな分、最強の一角になったわよ、ね~、キ~リちゃん♪」
 
 私は腰に下げていた袋に入っていた火打石を糞神に投げつけた。糞神は顔面に飛んできた石を首を軽く動かし、簡単に避ける。

「その名で呼ぶな。許可した覚えはない。」
 お前に言われるのが一番ムカつくんだよ!糞神!ぶっ殺すぞ!・・・そもそもこれから殺すんだけども。

「やーん!怖ーい♪長い付き合いなのに優しくして~♪」

 キモいんだよ!カス!

「・・・待って、待ってください・・・」

 ショックが抜けきらない顔で割り込む失敗作。

「あーごめんね。失敗作ちゃん。それで何だっけ?」

「いい加減、私たちを解放してくださいませんか?」

 そんなド直球で解放するわけないだろ・・・

「やでーす♪」

「あなたは!・・・あなたは賭け事とスリルを好むとお聞きしました。」

「違いないわね~。」

「でしたら!私と賭けをして私が勝ったら皆を解放してくれませんか!?」

「それはね~無理かな~。」

「どうして!!!」

「私が”ここ”を運営してるわけじゃないのよ~。そんな事できないわ。どっちかって言うと運営側じゃなくて客側?なわけ。だからこの塔を勝手に作ったのもバレたら怒られちゃうわ~。まー、皆は私がやったって分かったら『またか・・・またあいつか』で済むと思うけど・・・」

 目が泳いでいる。こいつ神同士でも嫌われてんのか?終わってるわね。まぁ、私と違ってまともな性格してないもんな。

 自身の思惑が外れ、愕然とし俯く失敗作。バカなのか?こいつあんなので交渉できると思ってたのか?いや私も人のこと言えないな。こんな無能を一時的にでも仲間に入れたんだから。

 無能は顔を挙げたかと思うと、糞神に向かって手をかざす。すると地面から無数にツタが生えてきて糞神を絡めとった。

「うーん、何かしらこれ?ああ、この状況じゃなくて能力ね。こんな能力あったかしら・・・?もしかして”グレイトネイチャー”の能力?
 この世界の未だ未踏破の広大な大森林を作った能力が瓢箪カズラのツタを出す能力って・・・弱すぎて分かんなかったわ。でも水分には困らなそうね。」
 拘束されたままゲラゲラと笑う。

(クソ女はこんなゴミみたいな攻撃でどうにか出来ると思ってるのか?なんてめでたいんだ?)
 前座にしても酷い出来だ。舞台に上がるならそれなりの実力ってものがあるだろうに。
 私は白けた目で茶番を眺めた。まるで年末年始のしょうもない駆け出し芸人のコントを眺めているかのように・・・

「いやーん。やられちゃう~。助けて~。」
 クソ女の攻撃を受けながら、体をくねらせ私を見て、わざとらしく助けを求める糞神。
「助けないと、あなた、私に復讐できないわよ~。」

 しょーもな。いちいち相手するのも面倒だわ。

「必要ないでしょ?どうせそこの雑魚にアンタがやられるわけないじゃない。」

「ふぅ・・・つまんないな。ノリ悪い~。」
 パチンと糞神が指を鳴らすと、拘束していたツタが消える。

「そ、そんな・・・」

「あの”電気マッサージ”結構気持ちよかったわ~。あなたこの狭間世界でマッサージ屋でもしてみたら?うけるかもよ?」
 ニヤニヤしながらそう言う糞神。失敗作は両手両膝をつき、項垂れて心が折れたようだった。
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