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キリちゃん視点

本編7 足手まといの協力者 その2

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「さぁ!遠慮しないで沢山食べて!」
 目の前には沢山の料理が並べられている。私はアーカイブにそう言われ無警戒に料理に手を伸ばすカルディアの手を叩いた。悲しそうな顔をするが、私は首を横に振り、カルディアを睨んで、「(毒でも入ってたらどうするのよ!)」と目で訴える。あの子が分かっているかどうかが微妙なんだけど・・・

「・・・まず、アンタが全部食べなさい。」
 私は女に毒見をさせることにした。

「信用されてないわね。まぁ仕方ないか。それと名乗るのが遅くなったけど私は”アーカイブ”ね。さっきの奴らが呼んでいたので知ってるとおもうけど・・・」
 そう言って改めて名乗ったアーカイブは並んだ料理を一口づつ自分の皿に取り、食べていく。
 それを確認してから私は料理に手を付け始める。カルディアも私の様子を見て目を輝かせて料理をパクつきだした。
(私はどうせ味がしないし、なるべくあの子に食べさせてあげよう。)

「それで、何が聞きたいの。」
 付き合い程度に料理を口に運びながら本題を切り出す。
 
「自己紹介もしてくれないの?」
 アーカイブがやれやれという風にため息を付きながら言う。
 言う訳ないでしょ?まだ信用していないのに。

「名乗る価値がアンタにあれば名乗るわ。」

「聞きたいのは一つよ。あなた達、神に会えるの?」

 会ってどうするつもりなんだ?こいつも復讐か?あの糞神なら十二分にありうる話だが。

「会えるとしたら?あなたは何がしたいの?」

「神と取引をする。」

「何を?」

「この世界の脱出方法。」

「ハッ。」 
 私はアーカイブを嘲笑した。
 バカなんじゃないのか?こいつ?そんな優しい奴に見えるのか!アイツが!ここが異世界じゃなければ眼科、いや精神科でも紹介したところだ。

「なにかおかしい?」
 ニコニコと微笑みを崩さないアーカイブ。腹に何か抱えたような嫌な笑いだ。こいつとは仲良くなれないだろう。

「あいつが取引なんてするわけがない。」
 なんでこんな当り前のことを言って聞かせなければならないのか・・・

「あなたが神でも無いのだからそんな事心配しなくていいわ。会えるか?会えないのか?それを知りたいのよ。」
 アーカイブはニコニコとした顔を崩さずにそう言った。

(こいつ・・・誰に向かって言ってんだ!ボケェ!!お前もみじん切りにしてやろうか!?)

「仮に会えるとして、あなたを神の元に連れていく私のメリットは何?」
 イライラしながらアーカイブに聞き返す。

「あなた達の事は何も知らないから、私に何が提供できるのか、それは分からないわ。ただ、私は何かと”便利”よ。」

「どういうこと?」

「私は一度見た能力をコピーできる。ただし、劣化コピーね。強力な奴は再現が殆ど出来ないけどね。」

「自分の能力をよくペラペラと言えるわね。・・・で?私の能力はどうだったかしら?」
 イライラとしていた頭が瞬時に冷える。私はなるべく動揺を隠しながらそう聞いた。

(こいつ・・・危険な能力だ。それに本人にも相当問題がある。つまりこいつは相手の能力を知って、その情報を他者に売ってやがったんだ。殺されかけて当然のクズの所業だ。私も返答次第ではここでこいつを殺す。)

「・・・分からない・・・見えなかったのよ。だからあなたの能力は不明だわ。」
 私はアーカイブを射貫くようにジッと見つめる。

「そう・・・」
(嘘は・・・言ってなさそうだな。)
「あたしたちはあの中央の塔に招待されてる。天秤の神にね。」

「天秤の神に!?・・・最高の相手だわ!」
 アーカイブの瞳に力が籠る。続けて
「話してくれたってことは信用してくれたのかしら?」

「アンタのことは気に入らないし、最低限よ。あんたの能力は気を許すには難しいわ。」
 私は不満をぶちまけるようにそう言った。正直、こんな奴と組みたくはない。だがそう言うと・・・
 私はチラッと横目で料理を頬張るカルディアを見る。
(カルディアが「可哀想だよ!キリちゃん。」とか言って、ごねそうなのよね~。頭が痛いわ・・・)
 こいつが役立つかどうかは未知数だが、一先ず神への復讐が終わるまでは共闘してやるが、その後は・・・

「じゃあ、いい加減名乗ってほしいなぁ~。」

「やだ。」

「そっちの彼女は?」
 急にカルディアに話を振るアーカイブ。

「あ、あたしはカルディアです。お外に居るガルムはてっちゃんって言います。」
 口に入れていた料理を飲み込んで、カルディアが名乗る。

(ちょいちょいちょいちょいちょーーーーーい!!!)

「ちょっと!なんで名乗るの!?もう!」
 なんでこの子はこうも警戒心が無いの!?私、心配だわ!
 
「ええ!?だって・・・別に変な人じゃなさそうだし・・・」
 たはは・・・と苦笑いするカルディア。

(充分変だし、こいつの本質は糞みたいなやつよ!?分かってないの!?この子は・・・)

「もう・・・ちょっとは警戒しなさいよ。」
 私は呆れ顔でカルディアに忠告した。

「ごめんね・・・キリちゃん・・・」
 カルディアが『しゅん』として私の名を呼ぶ。
(だ~か~ら~!この子は~~~~~~!!!ほんっとうに!!!もうもうもう!!!!)

「よろしくね~。キ~リ~ちゃん♪」
 アーカイブがニヤけながらそう言ってくる。

「今度そう言ったら殺すぞ、雑魚。」
 今度その顔して名前読んだら顔面が変形するくらいボコボコにしてやる!!!



 飲食店から出て並んで歩く。目的地は勿論中央の神の塔だ。
 横を歩くカルディアがてっちゃんに干し肉を与えていて、二人とも見てるこっちが嬉しくなるくらいの笑顔だった。

(まるで、良き飼い主と愛情たっぷりで育った飼い犬ね。・・・私はてっちゃんに酷いことをしたから嫌われてるでしょうけど・・・)
 やはりというか、時間が経つにつれて、私は統合したんだという思いが強くなっている。それだけにもう一人の私がどれだけカルディアとてっちゃんを大切にしていたのかが理解できた。

(この二人は必ず守らないと・・・そしてこの私の復讐劇が終わったら、カルディアを帰還させる。私が必ず・・・)

「料理美味しかったね~。キリちゃん。」
 私の心の中の決意とは裏腹に能天気なカルディア。この子は・・・もうもうもう!!人の気も知らないで。
 それに私はエクレア以外味がしないのよ!・・・て、言ったことあったかな???

「そうでしょ~。ここらじゃ一番の料理屋よ~。特にあの肉料理!あの甘酸っぱいソースとの相性が抜群なのよね~。」
 アーカイブがカルディアに話しかける。お前は別に死んでもいいからな。事後の手間が省ける。
 
「あれ!すごく美味しかったです~。」

「そうでしょ、そうでしょ!」

 嬉しそうに語らう二人。
 む~!別に~!羨ましくなんて無いし~!

「ちょっと!何を和んでんのよ!ここには神の奴をぶっ殺しにきたのよ?ご飯食べに来たんじゃないわ!」
 少しイラっとして語調が強くなる。

「ご、ごめん・・・」

「あら~?お友達取られて焼きもち~?」
 
 しゅんとするカルディアにニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべたアーカイブ。
 ああ!もう!カルディアを落ち込ませるつもりは無かったのに!
 あとクソ女は死ね!

「違います!!」
 私は子供みたいにそっぽを向いた。

「そう言えば、あなたはどうして神に会うの?あなたも神を殺すため?」
 アーカイブがカルディアに理由を振った。

「え・・・う~ん。どうしてだろう?いつの間にかこうなっていました?」
 たはは・・・と苦笑いして答えるカルディア。私のせいなんだけどね・・・ごめんね。引っ張りまわして・・・

「ふーん・・・もしかしたら偶然ではなく必然・・・なのかもね。」
 アーカイブが無表情でカルディアを『ジッ』と見つめる。何か見抜こうとするような・・・奥底を探るような・・・そんな目だ。

(そんな探るような目でカルディアを見るんじゃねえ!殺すぞ!!彼女は巻き込まれただけの無関係よ!!!)
 
 私はアーカイブを視線で牽制しながら、
「ただの荷物持ちよ。」
 と短く告げた。




 塔を目指して歩みを進めているとカルディアがモジモジそわそわと訊ね辛そうに
「ねぇ・・・キリちゃん。どうして天秤の神様を探して・・・その・・・殺そうだなんて思ったの。帰還のためじゃないよ・・・ね?」
 私に復讐の理由を聞いてきた。
 恐らくカルディアも理由には予想がついているだろう。それでも私の口から聞きたかったのかな・・・
 
「あいつは・・・あいつは私の命と同等の・・・いや、それ以上のものを奪った。だから殺す。」
 私はポツリポツリと語りだす。

「それってもしかして・・・キリちゃんのお兄・・・さん?」
 カルディアは私の様子に気を使いながら恐る恐る聞いてきた。

「私の身体は病気に犯されていた。目に映るものに色は無く、味覚もなかった。ただ死を待つだけだった。そんな私の命をあの神は救ってくれたわ。五感は回復し、学校にもまた通えるようになった。でも・・・大切なものを奪っていった。その時、私は生きながら死んだのよ。ただ呼吸して、食べて、糞して、寝てるだけの日々だわ。また私の五感は徐々におかしくなっていった。映るものは色が薄くなり徐々に灰色になっていった。美しい音色はだんだん雑音へと変化していった、香るものは異臭に。食む物は砂へとなっていった。生きちゃいない。私は死んだままだ。取り戻すか・・・あるいは報いを受けさせるか・・・それをしない限り、私は始まらない。私は止まったままだ!私は息を吹き返さない!!」

 改めて言葉にすると怒りと憎しみの感情が身体の奥底から沸々と湧いてくる。その感情に身を委ねるとどこまでも冷たく、冷酷になれるかのようだった。まるで私自身が相手を殺す武器になるかのような・・・いや、アイツを葬り去るならそれくらいにならなければならないのだろう。

 冷たい感情に支配されたまま私は塔を睨みつける。
 太陽は高く登り、塔に至るまでを明るく照らしている。
 本来ならばこんな日は気持ちが良いのだろう。
 だが、私は・・・私だけは灰色だ。
 それもあと僅かだろう。

(もう少し・・・あと少しだ。)

(それで私は息を吹き返す。やっと人として始まるんだ!)

(殺してやる・・・)

(今度こそ殺してやる!)

(天秤の神!!!)

 私は太陽に照らされ輝く塔を見据えて力強く歩んでいった。

 後ろに佇む彼女がどんな想いで居るかも知らずに・・・
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