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キリちゃん視点

本編5 幻のパートナー

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「ぴ、ピットブルだぁ!!!!!」

 だ~れ~が~ピットブルよ!こんな美人に対して!ぶっ殺すわよ!

 チンピラ雑魚の数人が動こうとして情けなく派手に転ぶ。まともに動けない様子だった。

「な、なんだよ!俺たちは正当な権利があってこいつを連れて行くんだ!」
 リーダー格の男が抗議の声をあげる。
 
 は?何意見してんだ?こいつ。

「だから?」

「な・・・!?」

「だから、何だっていうの?だいたいそんな眼鏡の雑魚どうだっていいさ。お前、何を私に口答えしてるのよ?ん?私が何か言ったら首は縦に動かせ?そうでしょ?」
 雑魚の分際で。強者の意見に楯突くんじゃないわよ。

「なにをいって・・・」

「手本が必要なの?こうするのよ!」

 私はおもむろに手近にいた動けずにいるチンピラ雑魚の頭を鷲掴みにして軽く頷かせる。

 ゴキンッ!!!

 ん?ちょっと力加減を間違えちゃったみたいね。
 チンピラ雑魚の首はあらぬ方向に向いて、泡を拭いて倒れていた。足をバタつかせ首を掻きむしって空気を求め、呼吸が出来ないようだった。

 (脆すぎ。何これ?こんなのでイキがってたの、こいつら?バカじゃない?そこでもがいて死んでろ。)

 ぶっ倒れた雑魚を見て他の雑魚が震えて、涙したり、失禁したり、嘔吐したりしている。
 汚いな、人の部屋で。臭いが残ったらどうするのよ。 

 私はさらに半べそをかく別のチンピラ雑魚に近寄り、笑いながら問いかける。
「ねぇ、お兄ちゃんは妹を見捨てない。妹を守る。そうでしょ?」
 私は優しいから、緊張しないようになるべく笑顔で聞いてあげたわ。これで答えられるでしょ?
 でも問われた雑魚は答えることが出来ず、歯をガチガチと鳴らしながら泣くだけだった。
 
 (もしかして・・・)
 
 私は雑魚の口の中に指を突っ込み、舌を確認しようと軽く引っ張った。

 ブチッ!!!

 あれ?千切れちゃった?異常が無いか軽く引っ張り出して確認するだけのつもりだったのに・・・

 チンピラが床に倒れ、口から出血する。
 
 まー、ここは転移者や転生者だらけだから舌ぐらい治すでしょ?
 当初の目的の雑魚の舌を見る。
 うん。千切れてる以外は問題ないわね。

「答えられないから舌に異常でもあるかと思ったんだけど、大丈夫そうじゃない。あ、返すね。」
 そう言って、倒れてもがいている雑魚に引きちぎった舌を返してあげた。私は優しいから。それなのに、この雑魚ときたらお礼も言わないのよ?クズね。

 (確かアレがあの眼鏡のお兄ちゃんね。)

 私は廊下に突っ立ってる、眼鏡のお兄ちゃんの前に行き、
「見捨ててないよね?そうよね?」
 優しく語りかける。
「お兄ちゃんだもんね♪妹を守って当然よね。」
 相手が緊張しないよう極力優しく、声色にも気を使って、笑顔を絶やさず、問いかける。

「あ・・・・あ・・・・」
 何してんだ?こいつ・・・情けない。これがお兄ちゃんなのか?

「早く、言葉にして。」
 イラついて、つい冷たくなってしまった。

「お、俺は・・・り、リコを・・・い、妹を」
 ガクガクと恐怖に震え、涙し、鼻水まで垂れてやがる。
 お兄ちゃんなんだからしっかりしろ!なんだよ、その顔は!
「う、売り・・・ました・・・」

 その言葉を聞いた瞬間、全力で顔面を殴っていた。
 クズ雑魚の頭がはじけ飛び、噴水みたいに血が撒き散った。

「いやあああああ!!!お兄ちゃん!お兄ちゃん!!!」
 眼鏡雑魚が狂乱して、チンピラの手を振りほどき、クズの元へ行こうとする。こいつがお兄ちゃんだって?何言ってるんだ、こいつは!!!

「違うよ?こいつはお兄ちゃんじゃないよ?こいつはただのクズだよ。」
 
 しかし眼鏡雑魚は、尚も「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」と泣き呼ぶ。
 こいつ・・・鬱陶しいな。

「うざい・・・殺すか。」

 すると、私と眼鏡雑魚の間に手を広げて立つ奴がいた。私は一瞬動揺する。何故なら・・・そいつには色がついていた。

「何?殺されたいの?」
 私は動揺を隠すように脅す。

「し、死にたくないです・・・でもリコちゃんを殺さないで・・・」
 雑用係は震えながら声を絞りだす。

 私は頭を潰したクズの遺体をつま先で蹴り、顎で眼鏡を指しながら
「こいつはお兄ちゃんじゃない。あいつはお兄ちゃんを分かっていない。」
 私はそう言って、

 本当のお兄ちゃんを見せてやろうと・・・見せてやろうと思ったのに・・・

「本当のお兄ちゃんは私のお兄ちゃんのような・・・あれ?お兄ちゃんは?私のお兄ちゃん、どこ?」

 お兄ちゃんの姿がどこにも無い!!!!私は辺りを見渡し、必死にお兄ちゃんの姿を探す。

「お兄ちゃん!!!お兄ちゃんどこ!?どこにいったの!?」
 お兄ちゃんが居ない!!なんで!?どうして!?
 ずっと一緒に旅をしてきたのに!
 どうして急に私の前から居なくなったの!?
 私が眠ってる間に何かあったの!? 


『へえ~。一時期から人格が安定したのって空想上のお兄ちゃんを作ってたからなのね~。イマジナリーフレンドならぬイマジナリーブラザーね』
 
 その声を聞いた瞬間、私の身体は震えた。血液が沸騰し、髪の毛が逆立つ思いだった。忘れもしない!そう・・・この声は!
 私は声をした方向を見るとそこには・・・
 ずっと探し求めてきた空中に天秤を持った女の子が浮いていた。嫌らしい笑い顔を貼り付けて。
 (ミツケタ!!ミツケタ!!!!!)

「くく・・・くはははははははははははは!!!!!!!!!!!!」
 私はしきりに笑った後、ライブラ神に向かって突っ込んでゆく。
 しかし、おかしいことに気づく。
(身体が・・・重い!!なんで!?)

『あー、無駄よ。妹ちゃん。アンタの”ジャイアントキリング”は発動しないわ。この姿は実体じゃないからね。映像と音声だけ送ってると思ってね。ホログラムみたいなもんよ。』

 糞が!!せこいんだよ!クズ野郎!!

「天秤の神!!!出てこい!!勝負しろ!!!」

『いや~アンタの観察も中々面白かったわ。精神がいつまでも不安定なアンタがまさかイマジナリーブラザーを作ってそれを回避していただなんて。でも、もう居ないみたいじゃない?イマジナリーブラザー。』
 そう言って笑い転げるライブラ。

 私が見ていたお兄ちゃんが空想のもの・・・そんな・・・そんな!違うわ!!だってお兄ちゃんはずっと私に寄り添って・・・ずっと・・・ずっと二人で旅をしてきたんだもの!! 
 認めない!!認めてなるものか!!!

「殺してやる!!!!!!!」

 私は気づけば泣いていた。悔しい・・・。せめて目いっぱい睨みつける。
 だが、それだけでは私の気持ちは収まらなかった。
 お兄ちゃんが消えて、おまえの妄想だって言われて、私の心はぐちゃぐちゃだった。
 そこからはよく覚えていない。
 ライブラに向かって泣き叫びながら、ひたすら気持ちを吐き出した。
 「勝負しろ!!」と。
 私は呪詛のように「殺してやる!勝負しろ!」と叫んだが、私の願い空しくライブラは消えていった。
 
 せっかく見つけたアイツに何もできず逃がした、その無力感に苛まれて、私は崩れ落ち手足をついて泣き崩れていた。・・・ずっと泣いていた。


 ただ、『黄金都市で勝負をしてやる』という言葉はだけは聞き洩らさなかった。

 待ってろ・・・

 必ず報いを受けさせる。

 今まで私たちを弄んだ報いを・・・

 殺してやる・・・

 ぶっ殺してやるよ!!!

 天秤!!!!
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