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本編10 肝胆相照の復讐者 その3

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「ご、ごめん・・・キリちゃん。ありがとう。」
 あたしはお礼を言ったが、見る見るうちにキリちゃんの表情は歪んでいく。その表情は悲しみ、怒り、後悔が入り混じったような顔だった。キリちゃんはあたしを押し倒して馬乗りになって本気で殴ってくる。
 能力が発動して無いので、さほど痛くないが、心が痛かった・・・キリちゃんにそうされることが・・・何よりも痛かった・・・。

「キリちゃん!やめ・・・やめて!どうして!」

「どうしてだって!!!お前!!ずっと騙していたのかよ!!!」
 怒りを孕んだ目で見られ、殴られる。

「な、何?何の・・・こと?」
 あたしは混乱するばかりだった。しかし次の瞬間、キリちゃんに指摘され理解する。

「お前!その腕!自分の左腕見てみなさいよ!!」
 言われてキリちゃんの拳から身を守るために、身体の前に出してキリちゃんの拳を受けていた自分の腕をまじまじと見る。
 そこには光のナイフが当たったのだろう皮膚が破れた自分の腕が・・・
 その皮膚の下にあったのは・・・




























 鋼鉄の骨格だった。


「なん・・・で・・・」
 あたし自身呆気にとられる。

 キリちゃんが両手で『どんっ』とあたしの胸を叩き、あたしの胸に顔を埋め、
「何が”カルディア”よ・・・あんた人間じゃないじゃない・・・!ただの物じゃん!最初で・・・最期のチャンスだったのに・・・」
 そう言ってポロポロと泣いた

「ごめ・・・ごめんね・・・キリちゃん。」
 あたしは泣いて謝り許しを請う。しかしこんなの許されるわけがない。いや・・・そうじゃない。あたし自身があたしを許せなかった。

 そこにウキウキ上機嫌の神様が真横、息のかかるような距離にやってくる。
「いや~。大博打だったわ~。ね?言ったでしょ~。”私だけを見てなきゃ駄目”って。あそこで攻撃されてたら終わってたわ~。流石、私の最高傑作。共同だけど。」

 神様は泣いてるあたしたちにペラペラと饒舌じょうぜつに語っていく。武勇伝を語るかのように。

「あ~因みに、この子、カルディアはね~。私が用意したのよ~。最近の大人のおもちゃ、ラブドールって凄いわね~。本当にリアル!それをベースに『ちょちょい』と弄ってね~。人の心の働きを模倣するように作ったのよ~。あと記憶領域と、この世界に来るまでの偽の記憶もね。表情だって動くようにしたわ~。あとあと~!体液とか体温とかそう言う細かいとこも・・・
 まぁ、そうしてここであんたの友達になるように作ったのよ~。ね~?キ~リちゃん。」

 呼ばれて殴りかかるキリちゃん。しかし無能力で当たるわけがない。簡単にかわされ、

「おお~怖い怖い♪純粋にあんたへのプレゼントでもあったんだけどさ~。もしもの保険も兼ねてたのよ。あんたのアキレス腱になりうるかな~?って。あんたのジャイアントキリングはどんな相手にも勝てるわ。逆に能力の特性上素体の力が弱けりゃ弱いほど発揮するみたいね~。そして身体の負担を度外視して無尽蔵に能力を引き上げ、対峙した相手に絶対勝つ。必ず勝利をもたらす、たとえそれが神相手だって。でも・・・それは最期の一振り。武器は守る為の物じゃない。攻撃するための物。誰かの”守りに”入った瞬間に能力は終了する。そして同じ相手には二度と発動は出来ない。まさにそれは鉛刀一割の一閃。
 上手くいったわ~。この瞬間がギャンブラーとして最高に脳汁が出る瞬間よね~。くうぅ~!!」
 神様が一人で恍惚とトリップしている。

「あんたさー。カルディアの首絞めたことあるじゃん?あの時、能力が発言しなかったのは能力がカルディアをあくまで道具だと識別したからでしょうね~。もしかして友情で『お友達に酷いことできないからだわ~』とか思ってたかもしれないけど~。」
 あたし達に当てつけるようにケラケラと笑いながらそう言う神様。キリちゃんは目が虚ろで死人の様だった。
 この人と話していると本当に気分が悪くなってくる。

「もう・・・」

「ん~?」

「もう・・・やめてください。なんでそんなに酷いのですか?神様なのに・・・」
 あたしは半ば懇願するかのように神様に願った。

「ごめんね~。楽しくってさ!それに私は別に道徳や倫理観が優れていて神になったわけじゃないから~。そういうのは、そういう方向で神様になった人に言ってね~。」
 神様は楽しくてたまらない、と言った様子であたしの懇願を一蹴する。

「それでも、それでも・・・普通じゃない!」

「いや~。私たちからしたらさ~。アリみたいなもんだから。ほら?昔やらなかった?アリの巣に水攻めー、とか言って水流し込んだりするの?ってカルディアに言っても仕方ないか・・・。
 あ、そうこう言ってるうちに見て見て!向こうもクライマックスだよ~。やっぱアイツら運命を捻じ曲げる気だわ。全く惚れた女くらいちゃんと守りなさいよね~。私の信者減ったじゃない。ったく、本当にキリちゃんの兄貴って無能だわ。」
 そう言って空中に浮いているモニターを指す神様。
 そこには致命傷のピンク髪の女の子をテーブルに乗せて、魔女風の女の子がキリちゃんのお兄さんに何やらしゃべっていた。

 キリちゃんはやつれた表情でそれを見て、
「やめて・・・やめてよ!お兄ちゃん!私ここだよ!ここに居るんだよ!」
 泣きながら叫んだ。

「ぷぷ・・・・くくくく・・・はははははっはははははは!!!!あのマヌケ、ムカつくけどバカみたいに何も知らずに妹を殺そうとしてる。おもしろ~。ねぇ、知ってる?あのバカ、アンタの病気治ったこと知らずに異世界からアンタの元に帰ろうとしていたのよ。それが、・・・ぷぷ・・・自分で殺すなんて・・・くくく・・・」
 神様が笑い転げる。















「あ~、おかし~。・・・あ、そうそう。それと、あの儀式で生贄になったら全ての存在の記憶から抹消されるから♪」
 笑いながら平然ととんでもないことを告げる。
 キリちゃんもあたしも『ポカン』と呆けてしまっていた。

「何、どういう・・・」
 震える声でキリちゃんが神様に問う。

「いや、だから、誰にも記憶されない。皆からも忘れさられるの。あんたは誰にも記憶されずにあそこに横たわるピンク髪の女の子に代わって死ぬのよ。
 きっとアイツらきょとんとするわよ。テーブルに横たわるあんたを見て『誰だ!コイツは!』みたいになるんでしょうね~。」
 
「・・・やだ・・・・やだ!!!!!!!」
 キリちゃんが蹲り頭を抱えて泣き出す。そんなキリちゃんを楽しそうに愉悦に浸りながら、言葉でなぶり、心をズタズタに指してゆく。言葉の刃物で、何度も何度も執拗に・・・
 あたしの友達は泣きながら耳を塞ぎ、震えて、小さくなって、身を守るかのように丸まっている。まるで嵐を過ぎ去るのをジッと待っているかのように・・・

(なんなんだ・・・この神様は・・・本当に。今までもずっとこうしてきたのか?こうしてあたしの友達の心をぐちゃぐちゃに潰してきたのか!?)
 空中の映像に映るキリちゃんのお兄さんは綺麗な黒髪をしている。しかしここで蹲っているキリちゃんの髪は真っ白だ・・・。人格だって割れてしまっていた・・・。こんなに心に負荷を与え続けられたら当然だ・・・。

 泣いているあたしの友達が・・・
 
 悲しみ、恐怖し、言葉で嬲られ、傷ついて泣いている。

 今まであたしを守ってくれた、前を歩いてくれた友達は、か細く、小さくなって、震え、泣いている。

 そんな友達を・・・”アイツ”は今なお嬲る。言葉の刃でいたぶって楽しんでいる。

 何が・・・何が楽しいんだ!このクズ!!

(やめろ・・・やめろ・・・あたしの友達はお前のおもちゃじゃない!壊れたら代えなんて無いんだ!代わりは居ないんだ!やめろ・・・やめろ!!)

 胸が苦しい・・・
 
 悲しい・・・

 腹が立つ・・・!

 あたしの友達を泣かせやがって!傷つけやがって!

 許せない・・・キリちゃんを傷つけるあいつも、それを見ているだけで何もできない無能のあたしも!

 許せない・・・

 許せない・・・!

 許してなるものか!!

(どうしてだろう?なんで?見えるのもが真っ赤だ・・・身体も・・・どうしちゃっったんだ?。ああ・・・何かがくる・・・くる・・・くるくるくるくるくるくるくるくる!!)

 沸々と身体の奥底から怒りが湧いてくる。かつて無いほどの、これまで感じたことがないほど怒りが!憎悪が!徐々に湧きあがり全身へ伝播してゆく。

「・・・してやる。」
 あたしは俯き、小さくつぶやく。あたしの呟きは楽しそうにキリちゃんをあざけ笑う糞神の笑い声でかき消える。糞神は全ての勝ちを確信してキリちゃんだけを見て、おちょくることに執心していた。

「あははははははははは~、最っ高~!聖女ちゃん死んだ分はストレス発散できt・・・・」

「ぶっ殺してやる!!!!このクズ神がーーー!!!!」

 あたしの叫びに『はっ』として糞神があたしを見る。瞬間、目を見開き、表情が一瞬にして恐怖に染まり、
「レバレッジ!!!」
 大きくバックステップで距離を取り、
「た、対象を後方へ吹っ飛ばせ!」
 天秤に宝石を乗せ、天秤が宝石を吸収すると、あたしは糞神から最も遠い壁まで飛ばされる。しかし・・・

「遅い・・・・!」
 糞神目掛けて足を動かし走れば、もう糞神は目の前だ。

「はは・・・う、噓でしょ・・・」
 糞神は引きつった笑いを浮かべて絶望している。
「防御結界!!!」
 必死な表情で防御を固める糞神。そのクソッたれ目掛けてあたしは

「死ね!」
 連続で拳打を放つ。
 何重もの結界があたしの攻撃を阻もうとするが、パイ生地みたいに簡単に破れて割れていく。
 腕に足に顔に腹に胸に・・・全身に拳打を叩き込むと、糞神はソニックブームを発生させて吹っ飛び、壁にめり込んで止まった。
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